今春に2枚のセルフ・カヴァー集『3』『4』を発表したのち、しばしの〈活動休憩〉期へ突入したcali≠gari。その後、ギターの桜井青はもともと別動していたLAB. THE BASEMENTに加えて小林写楽(メトロノーム)らとのバンド、ヘクトウを結成し、ヴォーカルの石井秀仁も、やはり本隊と並行して活動しているGOATBEDのほかにkozi(MALICE MIZER/ZIZほか)、SADIE PINK GALAXY(SPEECIES/VAMQUET)とのプロジェクト、XA-VATが7年ぶりに復活。各々が新鮮な動きを見せるなか、ベーシストの村井研次郎からも新たな試みの報が届いた。自身名義としての 初アルバム『UNDERMINED』がそれである。

村井研次郎 UNDERMINED VAP(2018)

 「cali≠gariがちょっとお休みするあいだ、青さんは別のバンドをやるって言ってたし、秀仁君はGOATBEDがあるし、XA-VATもやるかもって話で。これで自分がなんにもしてなかったら、〈あいつはいま何やってんだ?〉て言われちゃうかと思って……それで、〈じゃあ、ソロ作を出しましょうか〉と」。

 当人はそう控えめに語るが、村井にせよ別バンドであるthe CYCLE(ヴォーカルの不在時はELLEGUNSになる)としての活動はもちろん、COALTAR OF THE DEEPERSやNoGoDらのサポートも務めたりと、テクニックに裏打ちされた発想力で多方面において手腕をふるう名プレイヤー。音楽性としては〈ヘヴィー・メタルの人〉という印象が近年は強いであろう彼のソロ作は、メタル/ハード・ロックのみならずエレクトロニカやジャズ〜フュージョンなどの要素をプログレッシヴに配置した、ポップなインスト作品に仕上がった。

 「そんなに詳しいわけじゃないですけど、エイジア、イエス……あとはラッシュとかピンク・フロイドとか。ポップなプログレが好きですね。今回のアルバムは(曲調がさまざまあるだけに)途中でブレそうになったときがあったので、ひとつの軸としてプログレを置こうと。それで、ほとんどの曲にクレジットされている諸田(英司)君にアレンジで入ってもらったんです。(DEEPERSの)NARASAKIさんのお弟子さんなんですけど、プログレといったら彼だなと」。

 そうして制作を進めていったアルバムのテーマは〈脳内旅行〉。幼少期から地理が好きで、地図を眺めてはその土地を想像して楽しんでいたという村井が各曲のタイトルに据えたのは、地図に載っているものでも現代文明の及ばない秘境や知られざる砂漠、さらには月の裏側や架空都市、深海……と妄想を経由してこそ辿り着くことのできる、ある意味でファンタジーとも言える場所だ。そのイマジナティヴな世界観を演奏面で支えたのは上述の面々。DEEPERSとELLEGUNS、NoGoDは曲ごとにバンド全体で参加、cali≠gariの桜井と石井は個別でアコギと歌を担っているが、そうした布陣には、村井のベーシストとしてのスタンスが表れている。

「例えば、ソロをガンガン弾きたいとか、前に出たいとか。そういう気持ちは僕、普段からまったくないんです。どうしてベースをやっているかというと、前に出てカッコイイことをしている人たちと一緒にバンドをやりたいから。なので、今回誰に演奏してもらうか考えたときも、最終的にここへ落ち着きましたね(笑)。DEEPERSもELLEGUNSもそうですけど、キャリアを良い感じに重ねているバンドは、ヴォーカルなしで楽器の演奏を聴いただけでも、〈そのバンドだ〉ってわかるんです。cali≠gariだってそう。今回ほかのバンドが演奏してる曲のギターとシンセを青さんと秀仁君が弾いたとしたら、絶対にcali≠gariの音になると思いますよ。あと、NoGoDはみんな若いけど、曲を渡すと〈これを弾くんですか……?〉って言いながらも求められていることをしっかり理解した演奏をしてくれて。若い人の演奏って技術ばかりに頼ったものが多いような気がしますけど、NoGoDはそうじゃない。NoGoDの演奏からはメンバーの人となりがちゃんと感じられるんですよね」。

 そんな信頼のプレイヤー陣を迎えた『UNDERMINED』に収録の全11曲は実に多彩。「頭にああいうシンセがあったらやっぱり高まるじゃないですか」……ということで、エイジアをイメージとする「いつ崩壊してもおかしくない危うさを孕んだ曲」をDEEPERSが見事に制御した“The Sentinel”でド派手に開幕すると、パワフルなリフで押していくプログレ・メタル、林正樹によるラテン・ジャズなスパイスを織り込んだスピーディーな疾走チューン〜the CYCLEの“Shade”を原曲とする“Shade Of The Moon”と、矢継ぎ早の展開で聴き手を一気に自身のインナースペースへ惹き込んでいく。

 そのあとに続くのも、村井がペットのトカゲに一目惚れした瞬間の気持ちを林がラヴリーにエレクトロニカ〜デジタル・フュージョン化した“Charming”に、ジョージ・リンチ風のギター・ソロをリクエストしたというファンキーかつ未来的なハード・ロック、桜井のアコギと小林武文によるパーカッション、林のピアノと一発録りされたエスニックなアコースティク曲、DEEPERSへ宛て書きしたメランコリックな幻想チューン、哀愁のメタル・ナンバーである表題曲、cali≠gariの“カラス”をTHE THRILLから招いたホーン隊――cali≠gari作品でもお馴染みのyukarie、平田直樹と淫靡にカヴァーした“Crow-like Island”と、とことんヴィヴィッドな楽曲群だ。そんななかでもひときわ鮮やかな存在感を放つのは、今作で唯一のヴォーカル曲“Aqualander”。コズミックなプログレにニューウェイヴ感覚を重ねたようなサウンドに乗るのは、村井の人生観が表れた言葉だ。

 「これはDEEPERSが演奏することを想定して書いた曲なんですけど、途中にはcali≠gariの“かじか”が入ってますね(笑)。歌詞は……まあ、これまでもふざけたやつ(某アーティストの変名バンド、La’royque de zavy)はありましたけど(笑)、今回、初めてちゃんとしたものを書きました。英詞で対訳はないですけど、暗に言ってること、やっぱりわかります?  そう、振り返らずにとにかく前へ進もうと。ここにも自分自身が出ていると思いますね」。

 まるで、村井のなかにある音楽性、人間性を元にしたためた地図を辿る冒険譚のような趣の本作。『UNDERMINED』というスペクタルな音楽体験は、あなたの前に見たことのない景色を映し出してくれるはずだ。