〈死ねばいいのに/死ねばいいのに/あんたの顔を見るのが不愉快〉――いきなりの悪態ソング“わるいやつら”で始まるcali≠gariの新作『12』。昨年9月に開催された日比谷野外大音楽堂公演〈cali≠gari 20th Caliversary”2013-2014” 最終公演 第7期終了 – To say Good bye is to die a little -〉におけるドラムスの武井誠の脱退をもって7回目の季節を終えた3人が第8期の始動にあたって選択したのは、4人のドラマーを迎えるという手法だ。上領亘(NeoBallad)、Tetsu(D’ERLANGER)、SATOち(MUCC)、そして幅広い分野でサポートを務める中西祐二という手練れたちと共にバンドが改めて音楽と向き合った本作は、冒頭のような彼ららしいタチの悪さすらもキッチリとエンターテイメントへ昇華したポップ・アルバムとなった。しかも、3人の強烈な個性を大幅に増幅させたうえで、だ。
外側から見れば潜伏期間に近かった5か月ほどの間、彼らは何を思い、第8期へ――この約3年ぶりのオリジナル・フル・アルバムへと踏み出したのか。その経緯を石井秀仁(ヴォーカル)と桜井青(ギター)、それぞれに訊いた。今回はその前者、マスタリング翌日に行った石井へのソロ・インタヴューをお届けする。
複数のドラマーに頼もうって言い出したのは俺なんです
――cali≠gariの第8期が始動しましたが、4人のドラマーを迎えた新作のお話に入る前に、第7期の終了以降の動きについて少し伺えればと。確か、新メンバーを迎えるという案もあったと思うんです、8期を始める前に。
「新しいメンバー、探してますよ。結局決まらなかった結果として、今回は4人のドラマーに参加してもらって、ってことになりましたね」
――新しいメンバーの基準はどういうものなんですか?
「それも、各々思うところが違うんですよね。村井君(村井研次郎、ベース)は意見がいろいろあるととっ散らかっちゃうっていうのをわかってるから、結構中立なんです。それで、俺と青さんの意見が合ってない。青さんはどういう人と〈やりたいか〉で、俺は〈やるべきか〉。でも、俺の言ってることも絶対ではないですからね。cali≠gariは、まあ、一応ヴィジュアル系バンドでしょ? そういうバンドの特性もあるし、なんだろうな? ただなんでもない人が入ってきても駄目なわけで、名前があるって言っちゃ語弊があるんですけど、いろんなのがあるんですよ、俺のなかで。こういう人じゃなきゃ駄目だっていうのが。ドラム・プレイは結構二の次なんですよね」
――まずは、ある程度のキャリアが必要だと。
「うん。でもそれは元何々だからっていうのではなくて、自分たちのキャリアが長いので、入ってきた段階で、ある程度の共通言語があったりとか、物の考え方が近いとか、そういう人でないとここから一緒にはやれないっていう。俺の考え方はそうなんだけど、青さんはそれよりもcali≠gariの演奏を任せられる技術がある人、とかそういうところかな」
――なんだか意外ですね。外側から見た印象としては、石井さんと青さんで逆の意見が出てきそうなイメージです。
「俺だって、本来は逆ですよ。青さんの言ってることは基本的なことなんです。でもcali≠gariってそういうバンドじゃないじゃん、って俺が思ってるわけですよ。俺は後からバンドに入ったからわかるっていうか、俺じゃないとわからない部分があるっていうふうに勝手に思ってるから。なんて言ったらいいのかな……」
――cali≠gariは15年、固定のメンバーでやってきましたから、その長さのぶん、新しい人が入ったときに違和感みたいなものを感じるリスナーはいるかもしれませんね。だから、新メンバーにはそれを跳ね返していけるぐらいのパワーがないと厳しいのかな。
「それですよ、俺が言ってるのは。その〈パワー〉っていうところがバックボーンだったりとか……まあ、ストーリーのようなものを構築できる人じゃないと駄目だっていうことで、それがまっさらだと無理だっていうことですよね。まあ、100パーセント無理とは言い切れないけど、まっさらの場合にはよほど無限大のものを持ってる人じゃないと難しい。かと言ってね、この話はどちらかが譲ることでもないでしょ? 一生一緒にやる人を決めるときって。だから決まらなかったんでしょうね」
――それで、今回の新作では4人のドラマーを迎えることに。
「そうですね。ただまあ、今回は新しいメンバーが決まらなかったからこそ出てきた発想というか」
――ドラマーの皆さんは、なぜこういう人選になったんでしょうか。
「複数のドラマーに頼もうっていうのも、言い出したのは俺なんですよ。新しいドラマーが決まらなくて、サポートで、って一瞬なったんだけど、まったくピンと来なくて。〈第8期〉って謳って、それは単純にドラムがひとりいないだけです、っていうのでは成り立たないと思ってて、そのときにそういうアイデアが出てきたんですよね。いろんな人に叩いてもらって……まあ、シシドカフカとか森高千里とかね、そういう話も出てたんだけど(笑)」
――他にもシャ乱Qのまことさんとか高橋まことさんとか、シーラ・Eさんの名前も挙がったと伺いました(笑)。
「そうそう(笑)。でまあ、そのなかでこの人にやってほしい、この人だったらやってくれるんじゃないかっていう人と、あとは、この人にやってほしいけど他のアーティストの作品に参加したっていう話を聞いたことないから、果たしてやってくれるのかどうか、っていう人が何人か。Tetsuさんとかはそうですよね。チャレンジでしたね。まずTetsuさんはおっかねえっていうイメージしかなかったから(笑)、〈ふざけんなこの野郎〉って言われんじゃねえか、ってのもあったけど、名前を挙げるのはただですからね。電話するのも俺じゃないし(笑)。でも、駄目もとで言ってみたら全然オッケーだったからね」
――快諾していただけたようで。
「それで、皆さんがOKだってなったらもう、意識もだいぶ変わるじゃないですか。急にやる気になるというか、ものすごくプレッシャーを感じてきたというか。あと、なんて言うんですかね? サポートとして何人かのドラマーに参加してもらったっていう表現も嫌で。それだったらホントにその、アルバムを作るときはcali≠gariのメンバーになってもらいましたっていうような形が理想的で。他のバンドだとあまりそういう発想にならないじゃないですか。だから〈アー写も一緒に撮ります〉とかね、そこまでいきたいっていう話も結構最初のほうにしてて」
――そこから本格的にアルバムの制作が始まったっていう。
「そうですね、ホントに。レコーディングより撮影のほうが先だったから、だいぶ違和感がありましたね(笑)。撮影で〈曲、早くちょうだいよ〉って言われるっていう。すいません、って(笑)」
――(笑)それも珍しいパターンですね。
「曲が出来ないってことじゃないですけど、やっていただくドラマーの方に、デモを渡さなきゃいけないじゃないですか。その段階で恥ずかしいものを渡せないっていう、特に俺はそういう感じですからね。普段からcali≠gariや俺のことを知ってるわけではない人に渡すわけだから、俺が――作曲者が何をしようとしてるのか、どういうドラムを叩いてほしいのか、何を求めてるのかっていうのは、音でわからないと絶対駄目だと思って。それがはっきりその人に伝わるクォリティーと、気持ちがこもってるようなものじゃないと聴かせるのがかなりしんどかったので、それを作るのに時間がかかって。特に上領さんには、ただ迷惑をかけただけってことになったんですけど(笑)」
――デモを送ったのは前日だったとか。
「前日というか、もう当日の朝でしたね。ホントに申し訳ない」
――(笑)それは壮絶ですね。渡した楽曲に対しては、それぞれのドラマーから思った通りのものが返ってきました? もしくは逆に、意外だったものはありました?
「それぞれありましたね」