結成30周年イヤーを歩む3人がニュー・アルバムで提示する80年代、昭和という時代――その栄枯盛衰が醸し出す刹那の煌めきと空虚な眩しさは『17』にどう映し出されている?
『17』に垣間見える時代
結成30周年イヤーを邁進中のcali≠gariが、新作『17』を発表する。コンセプトは今回もないものの、いまのcali≠gariにどんな楽曲を持ち込むかという点には、各々で思うところがあった様子だ。
桜井青(ギター)「僕の今回のテーマのひとつは〈『17』という数字からイメージできるもの〉。自分の青春時代に聴いていたような曲を作ったっていう。ちょうどバンドブームだったでしょ? TVもラジオも〈イカ天〉も、毎日がロックと隣り合わせみたいな日常だったわけで。毎日何かしら発見してたような毎日で、その発見したような曲をみずから作るみたいな?」
石井秀仁(ヴォーカル)「自分の曲はってことですけど、前作ぐらいから不必要にシーケンスを組むことをやめようと。〈ジャーン!〉ってギター一発でやれるような、音源とライヴの印象がさほど変わらないようなものがいまのcali≠gariには合ってるのかなって」
村井研次郎(ベース)「自分は2人の曲が出揃った頃に曲調がかぶらなそうなストックを投げるので、『17』用に作った曲ではなくて。ただ、2人の曲には余分な音が入ってなかったから、シンプルなバンド・サウンドでいくのかなとは思ってました」
個々の持つ幅広い音楽的知識をモチーフとした遊び心が散りばめられているという点は通常通りと言えるだろうが、とりわけ今回、背景として鮮明に浮かび上がってくるのはさまざまなシーンを賑わせた80年代の音楽。詞と音の双方において、彼らがもっとも音楽を吸収していたであろう時期――ある種のベーシックな音楽性が垣間見える、本作はそんなアルバムだ。オープニングはノーウェイヴなカオスを繰り出す“サタデーナイトスペシャル”。昂揚感あふれるポップ・ロック“龍動輪舞曲(ロンドンロンド)”との落差もこのバンドらしい。
桜井「“サタデーナイトスペシャル”は〈粗悪品の拳銃〉っていう言葉のイメージだけで組み立てたような曲ですね。ガチャガチャしていて、そこはかとなく死の香りがするような、投げやりな感じ。林(正樹)さんのピアノでかなりスリリングになってますね。yukarieさんには〈ジョン・ゾーンをお願いします〉って言ったらDNA風になりました(笑)」
石井「〈キャッチーな曲を〉って言われたから、簡単にコピーできるような曲がいいかなと思って作ったのが“龍動輪舞曲”。歌詞はただ〈目を覚ませ〉ってことを言ってるだけです。それは自分に対してもで、歌詞の漢字は〈恋〉になってますけど、自分の場合は〈故意〉ですね。なぜロンドなのかっていうと、まず先に〈龍動〉を使いたいっていうのがあったから。兎年だった前作のときに“脱兎さん”を作ったんで、今年は〈龍〉を入れたかったっていう(笑)。それでいい言葉を探してたら昔のロンドンの表記は〈龍動〉だったって出てきて、そこから広げていった感じです」
続いては、詞も音もハードコアな“バカ!バカ!バカ!バカ!”と、不敵なサウンドに乗る〈ワンチャン/ネコチャン/オサルサンバ〉といった謎の詞に面喰らう“乱調”。ぶっ飛んだ2曲で突っ走る。
桜井「“バカ!バカ!バカ!バカ!”は、サウンドのアプローチ的には“クソバカゴミゲロ”(2013年)方面ですよね。ライヴで〈クソバカ〉をやると盛り上がるんですよ。ああいうパワーのある曲は何曲あっても困らない。前々から〈ライヴで既存の曲と合わせられるような、パーツ的な曲を作る〉っていうテーマがあったんですが、今回のアルバムでこの曲を含めて数曲それが作れました。詞の中身はいつもの死生観ですけど、とりわけ今年は意味合いが違っていて。誰しもいつかは死ぬから、それまではとにかく楽しみましょうよって気持ちがいつもより強めに描かれています」
石井「“乱調”はクラウトロックから始まって、後半はわかりやすいヴィジュアルショックみたいになってくってテーマで作ったんですよね。歌詞はいまの世の中の〈ワンチャン〉に対してのアンチテーゼってことですけど……いまの子どもたちが言う〈ワンチャン〉って、本来の意味じゃないでしょ? だから、そんなのもう〈ネコチャン〉でもいいだろうっていう」
前半の締め括りは村井による2曲。ハチャメチャな言葉がグラマラスに踊る“化ヶ楽ッ多”と、靄を纏って疾走するシンセ・ポップ “暗い空、雨音”が並ぶ。
村井「“化ヶ楽ッ多”はTVで『ゴーストバスターズ』を観たことをきっかけに作った曲です。タイトルは〈お化け〉だから〈バケラッタ〉。子どもの頃、『オバケのQ太郎』に出てくるドロンパが嫌いで。キザなヤツじゃないですか。この曲の歌詞はそこから。嫌いなところを箇条書きにして秀仁君に投げて」
石井「歌詞はもらったモチーフでブレずに書こうと。一部はフランク・チキンズの“We Are Ninja”ですけどね。〈煙幕投げてドロン〉ですよ。そのまんま入れてますから(笑)。あと、シンセのリードのフレーズはシーラ・E……っていうか、石川秀美の“もっと接近しましょ”。あの曲ってまんまシーラ・Eの“Glamorous Life”なんですよ。それをイントロのフレーズに入れてみたり」
村井「“暗い空、雨音”の仮タイトルは〈村井バレエ〉。SOFT BALLETみたいな感じをイメージして前作の時点で途中まで作って、保留になってたものです。それを今回、青さん、白石さん(エンジニアの白石元久)の順でアレンジしてもらって。もともとは晴れてる感じだった曲の雰囲気が、最終的にはちょっと曇りになりましたね」
大きな喪失感
後半は打って変わって、シブがき隊+チェッカーズな“ナイナイ!セブンティーン!”からスタート。タイトルからしてほぼあの曲である。
桜井「リリースの2か月前ぐらいの時点で3曲しかなかったから、これはやべーぞ?と保険かけて突貫で作った曲。その割に気に入ってます(笑)。世界観は既存の“ミッドナイト!ミッドナイト!ミッドナイト!”と繋げていて、どちらもイメージは『特攻の拓』だったり『特攻天女』だったり。あとはまあ、〈ナイナイ〉って言ったら“NAI・NAI 16”ですよね。ぶっちぎりでヤバい森雪之丞氏の歌詞に負けないよう、ぶっちぎりに80年代な歌詞をノリだけで書いてます(笑)」
そこに続くのは、クールなグラム・ロック“恣”と、ジャジーなグルーヴと密やかな詞世界が蠱惑的に渦巻く“東京アーバン夜光虫”。
桜井「“恣”を最初に聴いたときは〈めちゃカッコいい曲がきた〉と思って。かと思ったら突然〈コラージュにモンタージュにソバージュ♪〉って始まってぶっ飛んだっていう(笑)」
石井「ラヴロケ(ラヴ&ロケッツ)みたいな淡々としたメロディーにしたかったんだけど、そこに日本語の歌詞を乗せると変になるから、だったらまるっきり意味のないものがいいだろうと。〈意味がないよ、こんなものは〉ってことを歌ってるっていう」
桜井「“東京アーバン夜光虫”のテーマは、最後の歌詞に集約されてますよね。〈夜しか生きられない〉し、〈夢は夜ひらく〉んですよ。強くないと、したたかじゃないと生きていけないねって。いまなんて、トー横がすごいことになってるじゃないですか。女の子がズラッと並んでて。でもまあ、時代は関係なく、宇多田(ヒカル)の母ちゃんも〈十五、十六、十七と私の人生暗かった〉って歌ってますしね。“圭子の夢は夜ひらく”わけです。あと〈Big City Tokyo〉ってフレーズは、浅川マキ氏の“TOKYOアパートメント”から拝借。80年代の東京がこれでもか、ってくらい溢れている大好きな曲ですね。いま聴いても『CAT NAP』(82年)以降のマキのアーバンさ加減は他の追随を許さないですから」
ラストの2曲は石井による“月に吼えるまでもなく”と、桜井による“沈む夕陽は誰かを照らす”。サウンドの方向性はそれぞれだが、詞世界から感じられるのはいずれも大きな喪失感。この一年の間に世を去った、彼らの音楽的な源流を遡ると行きつくであろう存在に向けたパーソナルな心情だ。
石井「“月に吼えるまでもなく”の原曲はデヴィッド・ボウイの“Heroes”みたいなミニマルな感じだったんですよ。それをコード進行だけ残して、もう少し日本人に優しい感じにしようと。ガッツリとした歌モノの曲にアレンジを変えました。歌詞は、書き出したらこうなってたってことです。それぐらい大きな出来事がありましたよね? それがなければ、こういう歌詞は一生書かなかったと思います」
桜井「“沈む夕陽は誰かを照らす”の大元になってるのは、『11』のときに作った“東京、40時29分59秒”。西新宿のあの時と同じ何も変わらない景色と空の色を見ながら、それでも望む望まないにかかわらず取り巻く環境はいつの間にか変わってしまっていて、そのことに感じる空虚さや焦燥感を30周年のタイミングで書いておこうかな、って。だけど、あまりにも大きい出来事が起こると、どうしてもそれに引っ張られちゃいますよね。高校のときからずっと追いかけてきた存在が、当たり前に続くと思っていた世界が突然失われてしまった。そんなときに自分はどうするか。その意志表明をしたというか、目的を見誤らないようにいまの思いを書いておきたかったというか。この歌詞はそんな感じです。サウンド面は“東京、40時29分59秒”と同じで、ファンハウスに移籍してからのオフコースのイメージ。思った通りのものに仕上がったと思います」
リリース直前からはツアーも開幕。「いまは『17』の曲をちゃんとやれるようがんばってるところ(笑)」(桜井)とのことだが、本文中にもあるように、既存曲と『17』収録曲との結び付け方もポイントとなるはず。最終公演のLINE CUBE SHIBUYAまで、cali≠gariの30周年はまだまだ続く。
cali≠gariの近作。
左から、2024年のEP『冬の日』(密室ノイローゼ)、2023年作『16』(ビクター)、2023年のEP『16予告版』(密室ノイローゼ)、2021年作『15』(ビクター)
石井秀仁と桜井青が参加したDER ZIBETのトリビュート盤『ISSAY gave life to FLOWERS -a tribute to Der Zibet-』(POP MANIA LABEL)
