結成30周年イヤーを歩む3人がニュー・アルバムで提示する80年代、昭和という時代――その栄枯盛衰が醸し出す刹那の煌めきと空虚な眩しさは『17』にどう映し出されている?

『17』に垣間見える時代

 結成30周年イヤーを邁進中のcali≠gariが、新作『17』を発表する。コンセプトは今回もないものの、いまのcali≠gariにどんな楽曲を持ち込むかという点には、各々で思うところがあった様子だ。

cali≠gari 『17』 密室ノイローゼ(2024)

桜井青(ギター)「僕の今回のテーマのひとつは〈『17』という数字からイメージできるもの〉。自分の青春時代に聴いていたような曲を作ったっていう。ちょうどバンドブームだったでしょ? TVもラジオも〈イカ天〉も、毎日がロックと隣り合わせみたいな日常だったわけで。毎日何かしら発見してたような毎日で、その発見したような曲をみずから作るみたいな?」

石井秀仁(ヴォーカル)「自分の曲はってことですけど、前作ぐらいから不必要にシーケンスを組むことをやめようと。〈ジャーン!〉ってギター一発でやれるような、音源とライヴの印象がさほど変わらないようなものがいまのcali≠gariには合ってるのかなって」

村井研次郎(ベース)「自分は2人の曲が出揃った頃に曲調がかぶらなそうなストックを投げるので、『17』用に作った曲ではなくて。ただ、2人の曲には余分な音が入ってなかったから、シンプルなバンド・サウンドでいくのかなとは思ってました」

 個々の持つ幅広い音楽的知識をモチーフとした遊び心が散りばめられているという点は通常通りと言えるだろうが、とりわけ今回、背景として鮮明に浮かび上がってくるのはさまざまなシーンを賑わせた80年代の音楽。詞と音の双方において、彼らがもっとも音楽を吸収していたであろう時期――ある種のベーシックな音楽性が垣間見える、本作はそんなアルバムだ。オープニングはノーウェイヴなカオスを繰り出す“サタデーナイトスペシャル”。昂揚感あふれるポップ・ロック“龍動輪舞曲(ロンドンロンド)”との落差もこのバンドらしい。

桜井「“サタデーナイトスペシャル”は〈粗悪品の拳銃〉っていう言葉のイメージだけで組み立てたような曲ですね。ガチャガチャしていて、そこはかとなく死の香りがするような、投げやりな感じ。林(正樹)さんのピアノでかなりスリリングになってますね。yukarieさんには〈ジョン・ゾーンをお願いします〉って言ったらDNA風になりました(笑)」

石井「〈キャッチーな曲を〉って言われたから、簡単にコピーできるような曲がいいかなと思って作ったのが“龍動輪舞曲”。歌詞はただ〈目を覚ませ〉ってことを言ってるだけです。それは自分に対してもで、歌詞の漢字は〈恋〉になってますけど、自分の場合は〈故意〉ですね。なぜロンドなのかっていうと、まず先に〈龍動〉を使いたいっていうのがあったから。兎年だった前作のときに“脱兎さん”を作ったんで、今年は〈龍〉を入れたかったっていう(笑)。それでいい言葉を探してたら昔のロンドンの表記は〈龍動〉だったって出てきて、そこから広げていった感じです」

 続いては、詞も音もハードコアな“バカ!バカ!バカ!バカ!”と、不敵なサウンドに乗る〈ワンチャン/ネコチャン/オサルサンバ〉といった謎の詞に面喰らう“乱調”。ぶっ飛んだ2曲で突っ走る。

桜井「“バカ!バカ!バカ!バカ!”は、サウンドのアプローチ的には“クソバカゴミゲロ”(2013年)方面ですよね。ライヴで〈クソバカ〉をやると盛り上がるんですよ。ああいうパワーのある曲は何曲あっても困らない。前々から〈ライヴで既存の曲と合わせられるような、パーツ的な曲を作る〉っていうテーマがあったんですが、今回のアルバムでこの曲を含めて数曲それが作れました。詞の中身はいつもの死生観ですけど、とりわけ今年は意味合いが違っていて。誰しもいつかは死ぬから、それまではとにかく楽しみましょうよって気持ちがいつもより強めに描かれています」

石井「“乱調”はクラウトロックから始まって、後半はわかりやすいヴィジュアルショックみたいになってくってテーマで作ったんですよね。歌詞はいまの世の中の〈ワンチャン〉に対してのアンチテーゼってことですけど……いまの子どもたちが言う〈ワンチャン〉って、本来の意味じゃないでしょ? だから、そんなのもう〈ネコチャン〉でもいいだろうっていう」

 前半の締め括りは村井による2曲。ハチャメチャな言葉がグラマラスに踊る“化ヶ楽ッ多”と、靄を纏って疾走するシンセ・ポップ “暗い空、雨音”が並ぶ。

村井「“化ヶ楽ッ多”はTVで『ゴーストバスターズ』を観たことをきっかけに作った曲です。タイトルは〈お化け〉だから〈バケラッタ〉。子どもの頃、『オバケのQ太郎』に出てくるドロンパが嫌いで。キザなヤツじゃないですか。この曲の歌詞はそこから。嫌いなところを箇条書きにして秀仁君に投げて」

石井「歌詞はもらったモチーフでブレずに書こうと。一部はフランク・チキンズの“We Are Ninja”ですけどね。〈煙幕投げてドロン〉ですよ。そのまんま入れてますから(笑)。あと、シンセのリードのフレーズはシーラ・E……っていうか、石川秀美の“もっと接近しましょ”。あの曲ってまんまシーラ・Eの“Glamorous Life”なんですよ。それをイントロのフレーズに入れてみたり」

村井「“暗い空、雨音”の仮タイトルは〈村井バレエ〉。SOFT BALLETみたいな感じをイメージして前作の時点で途中まで作って、保留になってたものです。それを今回、青さん、白石さん(エンジニアの白石元久)の順でアレンジしてもらって。もともとは晴れてる感じだった曲の雰囲気が、最終的にはちょっと曇りになりましたね」