第7期の終了から第8期の始動――約3年ぶりのニュー・アルバム『12』の完成までを紐解くcali≠gariへのソロ・インタヴューの第2弾に登場するのは、ギターの桜井青。石井秀仁(ヴォーカル)へ話を訊いた翌日に行ったこの取材は、相変わらずのシニカルな振る舞いで筆者を翻弄しながらも、〈表現〉に対する桜井の真摯なアプローチを開陳するものに。新作に関してはもちろん、今後のバンドについての話題も含めてここにお届けする。
〈うちのお客はこういうのを入れておけば喜ぶんでしょ?〉みたいな
――今回の『12』の制作は分業だったようですね。
「今回は石井さん、山羊(石井の別プロジェクトのGOATBED)の世話が忙しくって、cali≠gariであんまり世話かけさせるのも悪いかなと思って、こっちである程度できることはやっちゃおうみたいな。あと、これは結果的な話なんですけど、〈同期を前面に!〉みたいな感じではない方向にしたいってことを石井さんが言ってたから、今回はそこまで預けなくてもいいのかなって。生っぽい音メインでやるんだったら、別にこっちでもできちゃうから。だからホント、歌に関しても最後の最後ぐらいでね、こうして、ああして、っていう話をして。歌詞に時間がかかったからしょうがなかったんですけど。まあ、“わるいやつら”の歌詞は垂れ流しみたいなもので、早かったですけどね」
――今回の『12』、“わるいやつら”が冒頭にあるっていうのは驚きだったんですが……いきなりヴォーカルのみで〈死ねばいいのに〉ですからね(笑)。これまでの系統で言うと、“-187-”とか“37564。”とか?
「そうそうそう。そういうポジションですよね。〈うちのお客はこういうのを入れておけば喜ぶんでしょ?〉みたいな。僕は大好きですけど(笑)」
――猛烈にロウなテンションで。
「テンション上がんないですよね。囁くように〈死ねばいいのに〉とか言われても、って(笑)。ドラムのテンションはいきなり上がりますけどね。ホントにすごいと思います。ていうか、今回参加してもらった皆さん、全員すごいですけどね」
――せっかくなので、この流れのまま今回青さんが手掛けた楽曲について最初から順番に伺えればと。まずは、いま話に出た“わるいやつら”ですが、例えば“-187-”あたりは歌詞を書くきっかけがあったじゃないですか。これはいかがでした?
「ありましたね。まあ、失恋ですかね(一人で爆笑)」
――まあそうでしょうね。〈とんだお魚咥えたドラ猫〉ですからね。
「持ってかれちゃってますからね(笑)。〈かわいいふりしてあの子/わりとやるもんだねと♪〉(82年のあみんのデビュー曲“待つわ”)、っていうのを僕が作るとこうなったっていうだけの話です。どっちも可愛いから許すしかねえな、みたいな。〈この猫を焼き殺したい〉とか言ってるけど、そんなことはないんで(笑)。〈焼き殺したい〉とか書いたほうが、たぶんコロムビア的には困るんじゃないかと思って。
――出ました(笑)。
「コロムビアさんの力を見てみようかなと思って。別にそんなことは思ってないですよ。〈僕の頭のなかの猫、ごめんね〉って、謝罪をしながら書きました。僕の思いのたけがすごく詰まってると思います」
――やっぱり悔しかったんですね。
「でもね、これは失恋が元にあるけど、失恋に限らず、いろんなことに当てはまるわけですよ。〈お魚〉っていうのは、恋だったり、富だったり、夢だったり、希望だったり、いろんなことがありますよね。そういうものを横からサッて奪われると、やっぱり〈キーッ!〉てなりますよね。その初期衝動だけで書いた曲です。最初はこういう曲じゃなかったんですよ。ボンゴが鳴ってるみたいな、ちょっとトライバルな感じでした。〈狼少年ケン〉ってわかります?」
――はい。
「〈ボンボ・ボンボン・ドゥンバ・ボン・バボン♪〉みたいなね。それを上領(亘/NeoBallad)さんに〈好きにやってください〉って渡したら、自分の思っていたものの遥か彼方、斜め上を行くぐらいに、カッコイイ曲になっちゃったんですよ(笑)。渡した段階では、全然〈狼少年ケン〉でしたよ? それが一回叩いてもらったら全然違ったから、だったら上領さん、いっそこうしちゃってください、もうインプロにしちゃっても、ってその場で注文したらどんどん対応してってくれたんで、結果4~5回しか叩いてないんですよ。すげえなあと思った。現場は物凄く楽しかったですね。自分が想像してたものとはこれっぽっちもかすらないものになったのに、遥かにカッコ良くなったっていう良い例の曲です。すごく気に入ってます。1曲目にならなかったらもっと嬉しかったなっていう(笑)」
――こういう曲が冒頭にあるのもcali≠gariらしいかな、と。
「ほら、タワレコとかでも試聴盤を置いてくれるわけじゃないですか。で、前から言ってるけど、試聴盤って最初の3曲ぐらいしか聴いてくれないでしょ? これですよ、1曲目」
――1曲目で結構、選別されますよね。ここから先に進めるかどうか。
「(笑)そうですよね!」
――でも、これがイケれば、最後までイケますよ。
「ですね(笑)」
――だから、初めてのリスナーにとっては、この曲は踏み絵みたいなものですよ。
「……まあ、でも、ポップだとは思うんですよね。だって、〈チャッチャラッ・チャッチャッチャラッ♪〉って……(踊り出す)」
――その振りは、リリックにまったく合わない気がします(笑)。
「でも、気持ち的にシンクロしてくれる人が気に入ってくれればいいと思うんですよね、僕は。例えば、仕事とかで〈ギャーッ!〉ってなってる人が〈キターッ!〉て思ってくれたら、ストレスが溜まってる方にはぜひ聴いていただけたらと。一緒に〈不惑を結う〉って叫んでいただけたらいいかなっていう」
――〈不惑を結う〉は発音が重要ですね。これはサンプリングですか?
「違いますよ? 僕の声ですよ。これはそこの階段のところにMacを置いて、内蔵マイクで録ったんですけど、階段室のいいリヴァーブがかかってます(笑)。真夜中に〈不惑を結う!〉ってずっと叫んでたんですけれど、よく考えたらだいぶヤバイ人ですよね(笑)」
――このビルにはおかしな人がいる、って噂になりますよ。
「一応オフィスビルなんですけどね、ここ(笑)」
――ともかく、この曲は誰が聴いても何を歌ってるかがわかるので、そういう意味ではポップかなと思います。
「そうですね。明確にわかると思いますね。きっかけは悲しいものだったんですけれど、最終的にはこういう曲が作れたんで、ありがとうっていう気持ちでいっぱいです(笑)」
初めて〈愛〉っていう言葉を使った
――続いては“セックスと嘘”ですが。
「これが最初に作った曲なんですね。ドラマーをどうするか決まる前の話ですけど、次こそは〈ダンス〉を集めたアルバムを作りたいと思ったんですよ。デッド・オア・アライヴを本気でやってみました、みたいな感じの。だから、4つ打ちも含めた人力ドラムで、ダンス、ダンス、ダンスみたいな感じで曲を作って行こうかと思ったら、まったく反対の〈THE生〉なデモを石井さんが持ってきて(笑)。ちょっと待って、みたいな(笑)」
――ちなみに、そのときに石井さんが持ってきた曲は?
「“紅麗死異愛羅武勇”ですよ(笑)」
――なるほど、それで路線変更と(笑)。私がこの曲を聴いて思い出したのは、『11』の制作中に青さんがおっしゃってたことなんですよね。そのときは、〈カイリー(・ミノーグ)みたいな曲を作りたいんだよね。ハッピーになるような〉っておっしゃってて。ただ、最終的にそこでのエレポップは淫靡なほうに、“その斜陽、あるいはエロチカ”のほうに行かれたんですけど、カイリー路線は今回で出たのかなって。
「ああ~、石井さんもこの曲聴いてカイリーって言ってたんですけど、僕はデッド・オア・アライヴの“Brand New Lover”なんですよね。でも、よくよく聴いたらカイリーですね、これは(笑)」
――(笑)あとはプリンスですかね。
「それはわざとですよ(笑)。この曲、ひとつのフレーズを繰り返してるでしょ? それを軸にして、構成ごとにひとつずつメロディーを足してるんですよ、これ。Aメロ、Bメロ、Cメロっていう感覚よりは、AにB'を足してBメロを作って、AとBにC'を足してCメロを作るみたいな感じなんですよね。ほら、クラブでハウスDJとかが全然違うふたつの曲を、音程とスピードを合わせて一緒にかけたりするじゃないですか」
――いわゆるマッシュアップというものですね。
「聴いててあれ、気持ちいいですよね。それを最初から計算して1曲作ってみたらどうなるのかな?と思ってちょっとやってみました。楽しかったんでこれはまたやります」
――歌詞のテーマも、ちょうどカイリーの最新作『Kiss Me Once』(2014年)が性愛を上品に歌った作品だったので、通じるものがあるのかな?と。
「ああ~、なるほど。カイリーは僕、その前の『Aphrodite』(2010年)で止まっちゃってるんですけど……今回ね、土田さんは気付いてないと思うんですけど、僕、初めて〈愛〉っていう言葉を使ってるんですよ」
――あれ? これまで使ってなかったでしたっけ?
「ふとしたネタで使ってることはあるかもしれないんだけれど、意識して使ったのって、たぶんね、バンド人生で初めてかも」
――まっとうな意味でっていう?
「まだ何が書きたいのかわからなかった二十歳前後の頃は使ってましたけどね。“LOVE FOR YOU”とか(笑)。そうではなくて、愛とは、みたいな感じを自分なりに理解したうえで書いたのは、ホント初めてですよ」
――どうしてここで書こうと思ったんですか?
「なんか、テーマがなくなってきてさ(笑)」
――そういう……(笑)。
「でも、これはラヴソングではないので。愛はあるんだけれど、おおっぴらに、表向きにできないことも愛だよってことを言ってるんで。浮気だって愛なんですよ、っていう(笑)。横恋慕だって愛なんですよ。メインストリームじゃなくて、ちょっと歪んじゃって人様にお見せできない、お見せできないっていうよりは両手放しでは喜んであげられないこともやっぱり愛だよねっていう。とかくホモの世界にはよくあるんですけどね」
――はあ。
「わりと、身体の関係が激しいので」
――気持ちがなくても。
「そう。全然できてしまうし、気持ちがなくてもっていうか、いや、それでもやりたいっていうのも含めて愛だと思うので」
――その、男性同士の場合は。
「うん。でも、そうじゃないにしても、例えば愛してる奥さんがいるんだけれど、歌舞伎町のお姉ちゃんのところに通っちゃったりとか、しかもお気に入りがいたりとか。それも愛ですよね。そういうものもひっくるめて、どれも愛は綺麗だよっていう。汚い愛なんかないんですよ。こんなこと言うようになっちゃいましたよ。どうしましょう(笑)? 大丈夫かな。温度感がないバンドだったのに、なんかあったかいことを言ってる感じがしてヤだなって(笑)」
――私は温度感がないと思ったことはないですけどね。むしろ生々しいといいますか。
「生々しいですか? 本音で言ってるからですかね。もっと綺麗ごととか話したほうがいいですか(笑)?」
――いや、いいと思いますよ。リフレインされている〈友愛を代償に言う〉というフレーズも意味深ですもんね。
「そこもね、ちゃんと意味があるんです。これは深く追求しちゃいけないんですけれど、最初に友達に言ったら、〈あんた、このフレーズ、エグイね〉って……(笑)」
(桜井、ここから複雑な新宿二丁目事情について物凄い勢いで語り続ける)
――……青さん、青さん、そろそろ話を戻してみませんか?
「すみません、横道に逸れました。最終的に僕は何が言いたいかっていうと、〈羨ましいぞ、この野郎〉ってことを言ってるんですよ。若い子たちって、いいわぁ~。……そういう感じで、まあ、恨みもこもってるような歌です(笑)」
――サウンドはロマンティックなのに。綺麗なんじゃなかったんですか(笑)。
「綺麗っていうか、羨ましいんですよ(笑)。あとサウンドについて言うなら、躍動感に溢れるようなところは加藤ミリヤを意識しました」
――ホントですか?
「ホントですよ! 僕、加藤ミリヤ大好きですもん。作品はほぼ全部持ってますね。歌、ホントに上手いですよね。シミショー(清水翔太)と歌ってるやつとか最高にいいですね」
――青さんのミリヤさん好きはちょっと意外でしたが……では、続いて“ギムレットには早すぎる”。
「これは研次郎(村井研次郎、ベース)君の曲ですね。石井さんにしても僕にしても毎回研次郎君の曲はcali≠gariっぽく作り変えるんですよね。で、二人とも結構バラバラにしちゃう。パーツを組み替えたり、自分のストックから足して再構築するんですね、いつもは。それが今回は違っていて、研次郎君の曲をまるまる活かしてるんですよ。サビのコード進行をほんとちょっと変えたぐらいで。〈研次郎君こういう曲も作れるんだー〉ってちょっと嬉しかったです(笑)。デモを聴いたときに、僕のなかでいちばん最初に浮かんだのは、昭和の木曜8時だったんですよね。大映ドラマの主題歌。もしくは『フラッシュダンス』とか? この曲が始まる前に、〈この物語は、二人の少女の数奇な運命を辿った……〉とか入りそうな(笑)、で、〈物語である〉ってナレーションが終わった直後に〈ジャン! ジャジャジャン!〉って始まるみたいな(笑)、そういう架空の主題歌のつもりで作ってみました」
――歌詞もストーリー仕立てになってますよね。
「歌詞は長いけど、ぶっちゃけ一秒間の歌ですからね。人の頭ってすごいから、一秒間で物凄い情報量を片付けるじゃないですか。これはそういう歌ですよ。一瞬チラッと見ただけで、声をかけるかかけないか。そういった駆け引きみたいなものは一秒間で成立するなっていう。その一秒を長ったらしく書いてみました(笑)」
――雰囲気としては、80sのアーバン歌謡のようなもので。
「今回、詞は全体的にそうなんですけど、僕、〈詩〉じゃなくて〈歌詞〉を意識して作ってるんですよ。まあ、今回も石井さんに譜割りが難しいって言われたんですけどね(笑)。あとは、母音の重なりとかは意識したりしましたよね。こういうことを、過去の作詞家たちが物凄いいっぱいやっていらっしゃいまして。やっぱり、秋元康さんと売野雅勇さんはすごいですね。詩っていう点で見ると松本隆さんが最高に好きなんですけど、メロディーに乗せるっていうところで言うと、売野さんと秋元さんは凄すぎます。とてもじゃないけど追い付けない。もう嫉妬しかないですね」
――今回の歌詞は……。
「超バブル期の秋元先生を意識したんですけど上手くいったかどうか(笑)。曲でいうと、崎谷健次郎さんに詞を提供してた頃ですね。“思いがけないSITUATION”とか、“愛されてもいない―ハーレムの天使たち―”とか崎谷さんが〈ラヴソングの帝王〉と言われていた頃のものですね。すごく勉強しましたよ。いまもし続けてますけどね」
――『11』のときはラヴソングを書いてみようというテーマもあったと思うんですが。
「うん、あんまりドロッとしてない感じのもの。さらっとした感じのもの。あと、いままでは絶対接続詞を使ってたんですけど……見慣れた夜景〈に〉とか、見慣れた夜景〈が〉とかやってたんですけど、今回はそうじゃなくて。A、B、Cってそれだけ言えば人はわかるのに、これまでは〈AはBをCしました〉みたいな感じだったから、今回はあえてそういうところを外してるんですよね。句読点とかも一切なし。どうしてもここだけは、みたいな感じのところだけ。でも歌詞を書いてる人たちって、こんなことあたりまえのようにやってますよね。いまさら感満載です(笑)」
――そういう研究の成果が。
「あとは、ちょうど去年か、村上春樹さんが(レイモンド・)チャンドラーの『ロング・グッドバイ』を翻訳してたってことを知って、読み直したんですよ。そしたら、〈ああ、そうだよね。昔の訳で言ってることとは違うな〉って。例えば、昔の翻訳だったらば〈女王〉っていうところは、要は〈オカマ〉なんですよ。〈ドラァグクイーン〉のことなんですよね。〈色眼鏡〉は〈サングラス〉だったりとか、そういう訳し方の違いがいろいろあって、おもしろいなって。それで、久々に昔の訳も読みたくなって、『ロング・グッドバイ』を二連チャンしたんですよ。同じものを二冊読んだっていう(笑)。それが、頭に残ってたんですよね。〈ギムレットは早すぎる〉っていうのはこのなかの有名なセリフで、前から〈いいなあ〉って思ってて。だからこの歌詞は、『ロング・グッドバイ』を読んでいると、よりいっそう意味がわかるよっていう。『ロング・グッドバイ』は良すぎてね、去年の第7期終了ライヴのサブタイトルにも使っちゃった(笑)。訳すと〈さよならを言うのは、少しだけ死ぬことだ〉ってなるんですけど。ハードボイルド小説、いいですよ。〈ハードボイルド気取ってる〉っていう歌詞は、要はチャンドラーの小説とかを読んでいて、そういうのが好きだったっていうね」
――隠れた設定があるわけですね。「ロング・グッドバイ」を読んでいるとよりディテールがわかると。そうじゃなくてもシチュエーションがわかりやすく浮かぶものだとは思いますが。
「そうですよね。ちょっとバブルの匂いを漂わせて」
――その、バブルの匂いとSATOち(MUCC)さんの熱いドラムとのマッチングが……。
「なんか、大映ドラマっぽくていいですよね」
――めちゃめちゃ練習したという話を伺いました。
「あの子は真面目ですよね。レコーディングにも立ち会ったんですけど、とにかく良かった。〈大丈夫、全然オッケー。どれでもいいよ〉って。〈好きなの使って〉みたいな(笑)。YUKARIEさんのサックスもヤバイですよね~」
――シチュエーションを想像させるものになってますよね。
「音作りは今風にしちゃったけれど、これ、音質をもうちょっとモコっとさせたら、ホントに84~5年の曲だよ?って言っても違和感はないんじゃないかなって思っちゃったり。ホント、満足です」