愛って何? 永遠を誓ったあの日の喜び、醜い嫉妬心、家族を慈しむ気持ち、別れの悲しみ――勇壮なチェロの音色やハウシーなビートに乗せ、多彩なゲストと共にその答えを探しに行こう

ケンブリッジから世界へ

 オフィシャルの資料によると、シングルの総セールスは4000万枚以上、ストリーミング再生総数は100億回以上、動画再生総数は35億回以上……と、桁違いの記録を持つUK生まれのクリーン・バンディット。ケンブリッジ大学で出会ったジャック・パターソン(ベース/サックス/キーボード)、グレイス・チャトー(チェロ)、ニール・アミン・スミス(ヴァイオリン)の3人に、ジャックの弟ルーク(ドラムス)を加えて2009年に結成されたユニットだ。彼らは2014年1月にリリースした“Rather Be”の大ヒットで、一躍グローバルな存在へ(翌年にはグラミーの〈Best Dance Recording〉も受賞)。アルバム・デビュー前のジェス・グリンをフィーチャーした同曲には、歌メロをドラマティックに盛り上げるストリングス、ファットで心地良いビート、ゲーム・ミュージック風の電子音などこのグループの持ち味が凝縮。安部春香が出演し、日本で撮影されたMVも大きな話題を呼び、その騒ぎは音楽シーンを飛び越えるまでヒートアップしたものだ。

 そうした追い風に乗って、2014年5月にファースト・アルバム『New Eyes』を発表。美しいストリングスと耳馴染みの良いメロディー、そしてグルーヴィーなベースラインによって、クリーン・バンディットは〈クラシック音楽meetsベース・ミュージック〉というスタイルを確立する。と同時に、この10年ほどの間でデヴィッド・ゲッタらがメインストリームのトレンドのひとつに押し上げた、クラブ系のプロデューサーが多数のゲストを招いてポップなアルバムを作るという手法に則り、気鋭のシンガーたちを起用しながらUKガラージ、ダンスホール、エレクトロ、IDM、ファンクなどメンバー各々の趣向を鮮やかに提示。そして同作の成功を皮切りに、〈グラストンベリー〉や〈ベスティヴァル〉、〈コーチェラ〉をはじめとする大型フェスに招待されるようになり、BBC関連のイヴェントや番組にもたびたび出演して、とりわけ本国では確固たるポジションを築くのだった。

 その『New Eyes』の喧騒が少し落ち着きはじめた2016年以降、彼らは次々と新しいシングルをカットして来るべきセカンド・アルバムへの期待を煽っていく。その口火を切ったのがショーン・ポールとアン・マリーを迎え、ムーンバートンを軸にしたメランコリック・ポップ“Rockabye”だ。歌い手2人の奮闘と、ダンサブルでありつつ物思いに沈むようなクリーン・バンディットらしいサウンドが支持されたのはもちろん、シングルマザーに捧げたリリックも大きな共感を集め、UKチャートで9週連続1位をマーク。続くディープ・ハウス調のセカンド・シングル“Tears”では、番組史上最年少で「The X Factor」を制したルイーザ・ジョンソンの情熱的な歌唱をフィーチャーし、こちらも難なく全英No.1に。だが、同曲に火を噴くようなヴァイオリン演奏を添えたニールが突然の脱退。順風満帆だったグループに暗雲が忍び寄る。