「私は歌手であり、ソングライターでもありギタリストでもありますが、私はもうひとつ、ブラジル人のジャズミュージシャンです」
MPB(ムジカ・ポプラール・ブラジレイラ)黎明期から活躍し続けているブラジルのシンガーソングライター、ジョイス・モレーノ。初録音から今年で50周年とのことで、『ハイス~私のルーツ~』と名付けられたアルバムを発表した。タイトルから想像できるように、自身のルーツを振り返ったカヴァー曲集だ。以前にジョイスはアルバム『リオ』の中で、彼女のルーツに関わる、生まれ育ったリオの街の想い出と共にある歌を歌っていた。今回はどのような基準で選曲されたのだろう?
「選曲を考えているとき、私が最初にスタジオで歌ったのが1964年だったことを思い出したんです。それはサイドシンガーとしての仕事で、ボサノヴァの作家であり、家族付き合いしていたホベルト・メネスカウ(ロベルト・メネスカル)によるプロジェクトでした」
その作品とはサンバカーナの“サンバカーナ”。当時のジョイスはまだ高校生で、いつか本当に歌手になりたいと思っていたころだという。
「というわけで、選曲の基本は〈私がティーンエイジャーだったころどんな曲をよく聞いていたか?〉になりました。ほとんどの曲はいままでレコーディングしたことのない曲です」
ただ単にジョイスが影響を受けた曲、というざっくりとした内容ではなく、10代の頃にジョイスに大きく影響を与えた、ごく私的な想いでが詰まった曲がならぶこととなった。たとえばドリヴァウ・カイーミの曲。
「ドリヴァウ・カイーミは私がまだ子どもだったころ、私と家族にとってヒーローでした。母と兄弟もドリヴァウの曲をとても好きでしたし、母はいつも彼のレコードを買っていました。またドリヴァウは、コパカバーナとイパネマの境界にあるポスト・セイスという地域に住んでいた私たち家族にとって隣人でもあったんです。でも実際にカイミ家と知り合ったのは、ちょうど私が曲をプロとして作り始めたころでした」
アントニオ・カルロス・ジョビンの2曲“ヂザフィナード”と“モーホには出番がない”は、ライヴではバンドでこれまで何度も演奏してきた曲だ。
「でも、いままでレコードでは発表していなかったんです。今回は、ライヴでのレパートリーを録音して残しておきたかった、という面もあります」
バーデン・パウエルが残した“イアンサンの歌”やルイス・エサ作の“タンバ”などではピアノのエリオ・アウヴィスが大活躍している。
「私はこれまでにもクラリネットのナイロール・プロヴェータや、フルートとサックスのテコ・カルドーゾなど、バンドの中にソロプレーヤーを迎えてきました。最近は、私はよりピアノ・サウンドに傾倒しているので、私が大好きな、才気あふれるエリオをバンドのソロプレイヤーとして迎えているのです。特に“タンバ”では私の恩師でもあったルイス・エサに敬意を表してイントロ部分でルイスのピアノラインを再現するように頼みました。決して簡単なフレージングではありませんが、エリオは完璧に演奏してくれました」
アレンジは3曲を除きすべてジョイス自身が手掛けているが、最終的に曲は、息の合ったバンドと共に創り上げられる。中でも“モーホには出番がない”などは、これまで多くの音楽家が演奏してきた有名曲を、彼らはまったく新しい表情で聴かせてくれる。
「私は歌手であり、ソングライターでもありギタリストでもありますが、私はもうひとつ、ブラジル人のジャズミュージシャンです。私が曲とともに、こうしたいと思う形とハーモニーの青写真のようなものを提示します。その着想に沿った上でミュージシャンは自由な自己表現や提案をして、曲表情を作っていきます。ここで聴けるのはジャズ音楽であり、音楽的自由が生んだ音楽ということです」
LIVE INFORMATION
「ジョイス - ハイス ~私のルーツ~ -」
2014年7月12日(土)& 13日(日)東京・丸の内 コットンクラブ
開演:17:00/20:00(2ステージ)
http://www.cottonclubjapan.co.jp/jp/sp/artists/joyce-140712/
2014年7月15日(火)& 16日(水)東京・南青山 ブルーノート東京
開演:19:00/21:30開演(2ステージ)
https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/joyce/
出演:Joyce(ヴォーカル/ギター)/Helio Alves(ピアノ)/Bruno Aguilar(ベース)/Tutty Moreno(ドラムス)