ライヴハウスの分厚いドア1枚を隔てて、その外側が日常という名の〈地獄〉だとしたら、内側はロックンロール天国だった。

札幌発の3人組ロック・バンド、ズーカラデルが11月にリリースしたミニ・アルバム『夢が醒めたら』のレコ発として、札幌、大阪、東京をまわる初のワンマン・ツアー〈地獄の入り口 TOUR〉のファイナルとなった下北沢 BASEMENT BAR。ズーカラデルに改名してから、東京で初めてライヴをした場所だという思い出のステージで、彼らは、悲喜こもごもを丸呑みした泥臭いロックで熱い一夜を作り上げた。

 

SEにボブ・ディランの“雨の日の女”が流れ、メンバーがステージに登場。「ズーカラデルはじめまーす」。その吉田崇展(ギター/ヴォーカル)の言葉で、“誰も知らない”からライヴがスタートした。陽性のロック・サウンドに吉田の朴訥とした歌声がマッチして心地好い空間を作り上げていく。山岸りょう(ドラムス)がドラムスティックを打ち鳴らし口火を切った“ダンサーインザルーム”のあと、性急なビートを刻んだ“夜に”では、ミラーボールが優しくフロアを照らすなか、「メリークリスマス!」と、12月の下北沢に一足早く聖夜の訪れを感じさせてくれた。

最初のMCでは、「みなさま、地獄の入り口まで、ようこそおいでくださいました。楽しい地獄絵図が繰り広げられるんじゃないかと思っています(笑)」と伝える吉田。続けて、「われわれが持っている、もっとも強力なパンク・チューンでございます」と紹介し、“夢の恋人”へと突入した。が、その〈パンク・チューン〉という説明とは裏腹に、ピンクの照明を浴びて奏でたのは、ゆったりとしたポップソング。意表を突かれたが、そんなことを気にするより、その場所では、その夢心地のメロディーに身を委ねることが正解だった。

間奏にメンバーの短いソロ回しを挟んだ軽快な新曲のあと、小気味よい〈フーフー〉というコーラスワークが心を重力から解放するような“恋と退屈”へ。鷲見こうた(ベース)が歌うように奏でる柔らかなベースラインもその曲の切なさをいっそう引き立てる。吉田、鷲見、山岸の3人が向き合って演奏を始めた“生活”は前半のハイライト。改名前、〈吉田崇展とズーカラデル〉時代に発表された曲だが、エモーショナルな演奏のなかで語りかけるように歌うこのバラードは、些細なことに傷つき、涙を堪える日々のなかで〈鈍い痛み〉を抱えながら暮らす生活者たちを抱きしめるような、ズーカラデルらしい人間臭さが魅力的だった。

天然気味のベーシスト・鷲見を中心に下北沢に関するトークで笑いを誘った中盤のMC。札幌にはないというファミリー・レストラン、ジョナサンの素晴らしさを熱弁したほか、「3人で背伸びをしてオシャレなカフェでティータイムをしていたら、芸能人に会った」と、まるで楽屋で話すような緩い雰囲気にフロアも和む。そして、「北海道の偉大なシンガー・ソングライターのカヴァーをやりたいと思います」と言うと、中島みゆきの“悪女”を披露。続けて、銀杏BOYZの“漂流教室”のカヴァーを届けた。ズーカラデルのすべての楽曲のソングライティングを手がける吉田は銀杏BOYZの影響を強く受けていて、直接的に言えば、このあとに披露される“漂流劇団”のタイトルは、“漂流教室”の影響だろうし、6曲目に披露した“恋と退屈”に出てくる〈You and I, now and forever〉というフレーズは、GOING STEADYの楽曲(“You & I”)からの引用だ。

どこか懐かしい景色を感じさせるサウンドに「夢が醒めてもすぐ側にあるぜ」とロマンチックに歌う“パーティーを抜け出して”のあとは、この日最後のMC。吉田が「いちばんバンドマンとして美しいのは、〈愛し合ってるかーい?〉とか言える存在になれることだと思う。でも、残念ながら、現時点でわれわれはそういったものではないので。ただ、みなさんに何か言えることがないかなと思って、一生懸命曲を書きました」と言うと、「次の曲はみなさんへのラヴソングです」と伝え、“友達のうた”をアカペラで歌いはじめた。次第に加わっていくバンドサウンド。そこにのるフォーキーなメロディーが会場を優しく包み込んだ。

そして、「ラストまで一気にやっていきます!」と言うと、“漂流劇団”ではメンバーが煽らなくとも、フロアからは自然に力強くこぶしが突き上がった。山岸が叩き出すタムのリズムにのせて、「これから地獄のような生活に戻るけど、元気にやっていこう! またどこかで笑顔で会いましょう! 最後に“アニー”という曲をやって帰ります」と言って、ワン・ツー!のカウントから、誰もが待ち望んでいたであろうバンドの代表曲を直前に、吉田が痛恨のミス。もう一度カウントからやり直したのだが、そんなアクシデントが、さらにフロアの熱狂と興奮を呼び、最高にハッピーなムードでライヴは笑顔のフィナーレを迎えた。

アンコールでは「これから辛く苦しい冬がやってきますが、それを乗り越えてゆけるように」と、寒さの厳しい北国出身者らしい言葉とともに、春の訪れが待ち遠しくなるような温かなポップソング“春風”を披露。そして、最後は「ツアー・タイトルの伏線を回収したいと思います」と言って、前のめりなパンク・ロック曲“地獄の底に行こう”でライヴを締めくくった。

生活のなかでの悲しみや切なさを抱えてライヴハウスに訪れた私たちに向けて、それを吹き飛ばすでも、忘れさせるでもなく、胸に抱えたまま生きることを許してくれるズーカラデルのロックンロール。それはきっといまを生きる私たちに必要な音楽だと思う。

 


SETLIST
2018年12月20日 地獄の入り口 TOUR@東京・下北沢BASEMENTBAR

誰も知らない
ダンサーインザルーム
夜に
夢の恋人
新曲
恋と退屈
生活
悪女(中島みゆき cover)
漂流教室(銀杏BOYZ cover)
ジャーニー
パーティーを抜け出して
光のまち
友達のうた
漂流劇団
ビューティ
アニー
〈アンコール〉
春風
地獄の底に行こう

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