ズーカラデルというロック・バンドをご存じだろうか? 2015年結成、ソングライティングを担当する吉田崇展(ギター/ヴォーカル)、鷲見こうた(ベース/コーラス)、山岸りょう(ドラムス/コーラス)からなる3人組は、札幌を拠点に活動中。抜群のメロディー・センスと豊かなアンサンブル、人間臭さあふれる独特の日本語詞で、次世代の日本語ロック・バンドとして期待を寄せられている(気になるバンド名は〈動物園=ZOOから出る〉の意らしい)。
2017年9月にライヴ会場とタワーレコードの一部店舗限定でリリースした自主制作盤『リブ・フォーエバー』が話題となって、地元からやがて全国の早耳リスナーへと口コミで広がり、同作収録曲“アニー”のミュージック・ビデオは公開後一気に10万回再生を突破し、2018年11月現在では80万回を越えている。完全自主的な活動をしていた、つまりノン・プロモーション状態の地方のインディー・ロック・バンドとしては、驚異的な数字であると言えよう。
そして、同作の発表から約一年、ズーカラデルは初の全国流通盤『夢が醒めたら』を来る11月21日(水)にリリースする。スピッツ主催の〈新木場サンセット2018〉や〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018〉へ出演し、先日は〈VIVA LA ROCK 2019〉への出演もアナウンスされるなど、この一年はバンドにとって激動の一年だっただろう。そんな中での正式なデビューとあって、いよいよ本格的なブレイクの気運が高まっている。
Mikikiでは『夢が醒めたら』リリースを次週に控えたこのタイミングで、この大型新人をフォーカス。彼らの人気を地元店舗の担当スタッフとして後押ししたタワーレコードの元・札幌ピヴォ店のバイヤー、清水真広からの証言を通して、ズーカラデルの実態、そして彼らにいま注目すべき理由について迫ってみた。
10年20年聴き続けられる日本語ロック・バンドの復権。その筆頭がズーカラデル
現在はタワレコの横浜ビブレ店に在籍する清水は、元々渋谷店で長きにわたって洋楽担当として勤務した後、吉祥寺店を経て札幌ピヴォ店に転勤。地方店に行ったことで、地元の音楽シーンを盛り上げたいという想いをより強く持つようになったという。そうしてアンテナを張り、日々いろいろなバンドを見聴きするうちに、ズーカラデルに出会った。
「流通にのっていないバンドっていっぱいいますよね。タワレコも〈Eggs〉など自社レーベルをやったり、このMikikiやbounceなどの自社メディアから独自の発信をしたりなどしていますが、店舗のスタッフも店舗発信で、知られざるいい音楽をいち早く紹介したいといつも思っています。それで、札幌にもそんなアーティストがいないかと探したなかで、ズーカラデルは一発でグッときてしまったんです。
店舗のスタッフでありバイヤーという立場上、つねに膨大な量の音源を聴いているんですが、ズーカラデルのどこに惹かれたのかというと、やっぱりメロディーですね。メロディーが抜群に良かった。もう、まずはそこです。間違いなく売り場でも映えるだろうと、一聴して感じました。
それから、歌詞も非常にいいんです。距離感がちょうどいいというか。僕は〈いい歌〉って、まるで自分のことを歌ってくれてるように聴こえる歌のことだと思うんですね。例えそれが作者や歌い手個人の想いが吐露されているものだとしても、作者のエゴや感情から切り離されたひとつの作品として響くと、多くの人に共感される。ズーカラデルの歌にはそれが圧倒的にあって、彼らの作品が多くの人の心を打つ理由はそこなんじゃないかと思ってます。だから、タワーレコードでも売れるはずだと。……まあでもそれは後付けというか、もう直感として〈めちゃくちゃいい! 届けたい!〉と思った。それが本音ですね」
ズーカラデルの歌は、普遍的な魅力を持っているということだろう。彼らがきっとビッグになる、そう確信したのは近年のシーンの時代背景とも関係があった。清水はこう続ける。
「2010年代のJ-Rockシーンは、タテ乗りの踊れる歌ものロックが流行っていて。もちろんいいバンドもたくさんいるんですけど、でもそれを日本語ロック好きのリスナーすべてが普段聴きする音楽ではなかったりもすると思うんですよ。〈もっと普遍的な、10年20年聴き続けられるような日本語の歌ものバンドっていないのかな?〉と、どこかで感じていました。
そんな中で、ズーカラデルのような普遍的なメロディー・センスと曲作りのセンスを併せ持ったバンドが受け入れられたのは必然だったんじゃないかと感じています。タワレコの今年の邦楽インディーズ作品を振り返っても見ていても、バンドものではHump Back、キイチビール&ザ・ホーリーティッツ、ベランダなど幅広い世代が聴けるような歌ものバンドが徐々に復権してきています。いいメロディーを書けて、幅広い世代に刺さるバンドが続々と出てきてる気がしていて。そして、その筆頭がズーカラデルだと言えると思うんです」
清水が作成した『リブ・フォーエバー』のポップには(下掲の写真を参照)、〈初めてくるりやスピッツを聴いたくらいの衝撃〉〈この男(ズーカラデル吉田)に岸田繁級の才能を感じる〉などとある。大御所を引き合いに出した強気なキャッチは、やや大仰に感じられるかもしれない。だが、このポップに惹きつけられて、作品を手に取る老若男女は多いという。
「もちろんズーカラデルは〈くるりみたいなバンド〉でも〈スピッツみたいなバンド〉でもないんです。でも、彼らを好きな、エヴァーグリーンなグッドメロディーを愛するリスナーには刺さるであろうクォリティーとポテンシャルが間違いなくあります。そんな確信があったので、“アニー”を聴いて買いにきてくれた人やライヴハウスに通う若い人たちだけじゃなく、たまたまふらっと来店した大人の音楽ファンも買っていってくれるような展開を仕掛けました」
店舗限定販売作品としては初の快挙となる〈タワレコメン〉選出
では、自主制作盤『リブ・フォーエバー』はどのように全国へと拡がっていったのか。
「それまでも彼らのライヴ会場やごく限られた個人商店では買えたわけですが、大型店として地元のタワレコで『リブ・フォーエバー』を扱ったのは大きかったと思います。……ただ、実は札幌で扱い出したのはリリース後のことで。僕自身、彼らを知ったのも地元の方から〈東京や関西でめちゃくちゃ話題になってるよ〉と聞いたからなんですよ。そのきっかけが“アニー”のミュージック・ビデオだった。
その時点でタワーとしては未流通CDを紹介する企画コーナー〈タワクル〉がある渋谷店と、未流通作品を強化している梅田大阪マルビル店の2店舗だけの扱いだったんですが、早耳の方たちにはすでに売れていたし、“アニー”の再生回数は17万回再生くらいいってて。そんな背景を知って〈何この状況……〉と思いつつ音源を聴いて。〈なんで地元のタワーがやってないんだよ!〉と猛省しながら(笑)、すぐに仕入れる段取りを始めました」
『リブ・フォーエバー』が実際に札幌ピヴォ店に入荷したのは、今年の3月頭ごろ。通常、ポップを使用したタワレコの店頭展開は、よっぽどのロングセラーもの以外は一週間ごとに切り替える場合が多いが、『リブ・フォーエバー』は半年ほどかけての異例の継続展開だった。それほど日々飛ぶように売れていったという。
それは、全国各地の店舗からの展開要請もあったうえでの拡大展開、そして店舗限定販売作品としては初の快挙となる〈タワレコメン〉選出(2018年7月度)へと繋がり、トントン拍子にズーカラデルの名前は全国へと拡がっていった。各店舗からの熱烈なプッシュもあり、『リブ・フォーエバー』は歴代の〈タワレコメン〉の中でもトップクラスのセールスを叩き出した。清水は「地方のインディーズ・バンドがほぼ口コミのみでここまで売れ続けるのはかなり異例のこと」と念を押す。
「ちなみにですが、札幌にグミっていうバンドがいて。2016年の〈出れんの!?サマソニ!?〉にも出てた、地元のインディーズ・シーンで人気のあったバンドなんですが、ズーカラデルの鷲見さんはそのメンバーだったんですね。で、2017年の4月にグミが解散したときに、札幌ピヴォ店のタワーで展開していた経緯があり、鷲見さんと顔見知りになっていたことで、取扱いに関してはスムーズにいったところはありました。偶然ですが運命のようにも感じてます」
そんなバンド同士の繋がりもある、ズーカラデルを取り巻く札幌のバンド・シーンはどのようなものなのだろう?
「bloodthirsty butchersやeastern youth、THA BLUE HERB、SLANG、Cowpersなど、僕は30代なので思い入れが強いのはそのあたりなんですけど、札幌発のいいバンドって多いですよね。それに続くものとして、いまはやっぱりTHE BOYS&GIRLSが絶大な支持があって、彼らに憧れるバンドが非常に多いです。あとは先ほどのグミもそうですし、グミと同じく昨年解散してしまった最終少女ひかさやカラスは真っ白、The Floorなども人気ですね。脈々と札幌シーンは続いています」
そしてもちろん、ズーカラデルもその盛り上がりを担うひとつ。北海道が誇る巨大ロック・フェス〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2018〉の〈RISING★STAR〉ステージ※に出演した際には会場で“アニー”の大合唱が起き、涙を浮かべるオーディエンスもいたという。このときのパフォーマンスは彼らの知名度をさらに上げるきっかけとなった。
※新人アーティストの登竜門的な側面を持つ、一般公募枠のステージ。過去にはサカナクション、tricot、The Floorも出演している
『夢が醒めたら』は『リブ・フォーエバー』に続く名盤となるか
そして、このたびリリースされるミニ・アルバム『夢が醒めたら』。本作は、ベースの鷲見が正式加入した現体制での初の作品となる。先日公開されたリード曲“ダンサーインザルーム”では「ふたりだけのダンスを少し空いた時間に踊ろう ダサい振り付けだねと笑って僕をみていてよ」と、冴えない男の恋心をポップに歌った吉田節満載の名ラヴソング。『夢が醒めたら』には彼らを札幌から全国区へと持ち上げた“アニー”以上の盛り上がりも期待できそうな、キャッチーでカラフルな楽曲が7曲収録されている。
『リブ・フォーエバー』がいかに名盤かを熱弁していた清水も「メロディーの良さは変わらずピカイチ! 鷲見さん加入の影響もあってかアンサンブルがタイトになっているし、塩入冬湖さん(FINLANDS)が参加した楽曲など新機軸もあって。この一年の様々な経験が影響してか、いい意味でバンドの印象が変わりましたね」と、太鼓判を押す。
リリース後の12月14日(金)からは札幌、大阪、東京の3か所を廻る初のワンマン・ツアー〈地獄の入り口TOUR〉もスタート。たまに物販を手伝うこともあるほどズーカラデルのライヴによく足を運んでいるという清水は、最後にこう語った。
「ズーカラデルは、お世辞抜きで10年にひとつの才能を感じさせるバンドだと思います。ただし、音源もライヴもまだ伸びしろがあるとは思います。いまのままでも十分素晴らしいですが、これからもっと多くの音楽ファンの心に響く楽曲を発表してくれると思います。今後すぐにこういった会場の規模で観られなくなる可能性は大いにあると思うので、これまでのファンも、『夢が醒めたら』で気になった人も、迷いなく観に行ってほしいですね」
Live Information
〈ズーカラデル NEW MINI ALBUM『夢が醒めたら』発売記念 インストアイベント〉
11月24日(土)タワーレコード札幌ピヴォ店 14:00~
12月8日(土)タワーレコード新宿店 20:30~
12月16日(日)タワーレコード梅田大阪マルビル店 16:00~
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〈地獄の入り口 TOUR〉
12月14日(金)札幌SOUND CRUE
12月18日(火)大阪 Live House Pangea
12月20日(木)下北沢 BASEMENT BAR
チケット:2,800円(+1D)
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