かつてない危機を乗り越えて7人が帰ってきた! 圧倒的にシアトリカルで壮大な音絵巻を備えて、世界最高峰のシンフォニック・メタル・バンドはまたしても力強く君臨する!

 「『Hydra』発表後、もうインスピレーションが湧いてこなかった。バンドの終わりが近づいてくるのを初めて感じたわ。 何年も音楽制作を続けたら、創造的インスピレーションとイノヴェーションだけが新しい作品を作るためのモチヴェーションとなる。とても長い休息、急ぐ必要のない決定、そして私のソロ・アルバム『My Indigo』のレコーディングのような新しい経験によっても、それが充電されることはない。でも、危機的状況は好転した。私たちの創造と革新への飢えが、ふたたび目を覚ましたのよ」(シャロン・デン・アデル、ヴォーカル)。

 そう、実は彼らはかつてない危機に瀕していたのだ。オランダが生んだ世界最高峰のシンフォニック・メタル・バンド、ウィズイン・テンプテーション。彼らにとって通算6枚目のオリジナル・アルバムとなる『Hydra』(2014年)は、母国のナショナル・チャートで首位に輝いたほか、全英6位、全米16位、ここ日本でも22位にランクインするほどのワールドワイドなヒット作となった。そんな新たな代表作を引っ提げて〈LOUD PARK 14〉で来日した姿を記憶している人も多いだろう。ただ、商業的にも内容的にも高く評価された同作の圧倒的な完成度の高さや達成感が燃え尽き症候群のような状況をもたらし、バンドの生命力を脅かす結果となったのは想像に難くない。

 ウィズイン・テンプテーションは、もともとサークルというバンドで活動していたロバート・ウェスターホルト(ギター)と、その公私に渡るパートナーのシャロンを中心に、サークルにいたイェローン・ファン・フェーン(ベース)らが集まって96年に結成されたバンドだ。翌97年に初作『Enter』をリリースして以来、ツアーと作品を重ねて欧州で人気をどんどん拡大、初めて本国でNo.1を獲得した3作目『The Silent Force』(2004年)を機にUSや日本でも注目されるようになる。初のコンセプト・アルバム『The Unforgiving』を発表した2011年からはロバートがスタジオ・ワークだけに集中する体制へ移行し、シャロンとイェローン、マイク・コーレン(ドラムス)、マタイン・スピーレンブルグ(キーボード)、ステファン・ヘレブラッド(ギター)、ルード・ヨリー(ギター)という現在の7人組が定着。北米やアジアから南米にまでツアー規模を拡大するなかで完成されたのが先述の『Hydra』であった。

 そんな状況下の2017年、かねてからアーミン・ヴァン・ブーレンのフロア・ヒット“In And Out Of Love”などバンド外でも歌ってきたシャロンはソロ・プロジェクトのマイ・インディゴを始動。バンドとは異なるエレポップやアンビエントといったメインストリーム系の音に乗せて清らかな歌唱のポテンシャルを見せつけている。そうした紆余曲折を経て完成したのが約5年ぶりのスタジオ作となるニュー・アルバム『Resist』なのだ。

WITHIN TEMPTATION Resist Vertigo/ビクター(2019)

 今回もバンドと盟友ダニエル・ギブソンがプロデュースを共同で行い、すべての詞曲をシャロンとロバートが共作するという基本線は変わらない。タイトルに冠された〈Resist〉は〈抵抗する〉ということ。そんなレジスタンスな姿勢は「スター・ウォーズ」をモチーフとした今作のヴィジュアル・イメージからも明白だろうが、シャロンは「抵抗することは大切よ。今日の社会では、いままで以上に人々は社会的服従に苦しめられているから。私たちは、自分自身を発展させていくために、自由を得なければならないの。より強い力で常に制御、監視されているときには尚更ね」とコンセプトの背景を語っている。アルバム全体もシアトリカルな意匠によって壮大な物語性を高める仕上がりだ。

 また、前作『Hydra』のトピックはターヤ(元ナイトウィッシュ)やハワード・ジョーンズ(元キルスウィッチ・エンゲイジ)、デイヴ・パーナー(ソウル・アサイラム)、ラッパーのイグジビットという客演の豪華さにもあったわけだが、その意味では本作も強力なゲストを揃えている。アルバム冒頭を飾る先行シングル“The Reckoning”ではパパ・ローチのジャコビー・シャディックスが風格十分にかまし、“Raise Your Banner”ではイン・フレイムスのアンダース・フリーデンが登場。さらに“Firelight”にはベルギーのシンガー/ギタリストであるジャスパー・ステヴァーリンク(アリッド/ギルト・マシーン)も参加している。

 この新たな大作『Resist』を完成させたバンドは、すでに昨秋から欧州ツアーを開始。久しぶりの来日にも期待を寄せつつ、さらにドラマティックになった美しき音塊を浴びてその真髄を堪能しておきたい。

 

ウィズイン・テンプテーションの近作を紹介。

 

『Resist』に参加したアーティストの関連作品を紹介。