音楽経験のなかったサラリーマンが、行きつけのバーの常連客たちと酔った勢いでバンドを組んだものの、初ライヴ当日に他のメンバー全員がドタキャン。やけくそでリズムマシーンに合わせてパンツ一丁で行った即興ソロ・パフォーマンスが〈笑えるけど泣ける〉と話題になり、活動を開始…… そこから14年間、全国各地を巡り、年間200本に迫るライヴを行い続けてきたスギムによるソロ・ユニットがクリトリック・リスである。

 2016年には自身をモチーフとした映画「光と禿」で役者デビュー、2017年には47歳にしてメジャー・デビューも果たしているが、約2年ぶりとなるサード・アルバム『ENDLESS SCUMMER』は、自分の表現したい音楽を作るため完全自主制作、自身のレーベル・SCUM EXPLOSIONからのリリースとなる。

クリトリック・リス ENDLESS SCUMMER SCUM EXPLOSION(2019)

 「クリトリック・リスの作品としては、これがスタート地点。もともとメジャーの迫力のある音よりも、手作り感のあるローファイの音が好きやったので、今作は打ち込みでありながら籠もった感じの温かみのある音を目標に作りました。身の丈に合った音というか、宅録ローファイの空気感が伝わるような音になったと思います」。

 ヴォーカル・レコーディングを3日間で終える一方、ミックス作業に費やしたのは2か月。全国をライヴで巡るなかで知り合った岡山在住のエンジニア・栗本亮平のもとに何度も通い詰め、納得いくまで何度もやり直して完成させた。また、トラック制作に参加しているギタリスト、高井真の貢献も大きい。

 「高井くんとはライヴハウスで知り合って、楽曲制作のサポートをしてもらうようになりました。最初に作った曲が“群青の純情”で、メールで何回もキャッチボールをしながら作っていったんです。初期曲“のんちゃん”“レイン”も改めて一緒に作り直しました。最後の“RAVE”は2日で作ったんですよ。高井くんが用意していたループに僕が曲とメロディーを乗せて。ただ、クラブ寄りでブリブリな感じのサウンドがいいかなと思って、DAFのような海外の打ち込みのアーティストを意識したミニマルな実験作にしてみました」。

 クリトリック・リスの楽曲は実話に基づいた歌詞が多く、泣きながら笑えるような聴き手の感情を呼び起こすことが多い。その大元には、スギムがサラリーマン時代に受けたフレーミング・リップスやbloodthirsty butchersの影響があるという。今回の『ENDLESS SCUMMER』に並ぶ楽曲も、会社の先輩と後輩の禁断の恋(?)を描く“ちゃう”や、アイドルオタクを描写した“俺はドルオタ”など、さまざまな感情を思い起こさせる。なにより、本作はアルバムとしての完成度が高く、そこは本人も自信を覗かせるところだ。

 「1作目は“バンドマンの女”や“ライス&ライス”、2作目は“1989”や“BUS-BUS”みたいな代表曲があったんですけど、今回は激しい曲もミッドテンポな曲もゆっくりな曲も、みんな思い入れがある。ほんまにアルバムで聴いてもらいたい。正直これまでの作品は、自分の中でも繰り返し聴くに耐えられなかった(笑)。やっと繰り返して聴けるものに仕上がったなと思っています」。

 そんなクリトリック・リスは、2019年4月20日、日比谷野外音楽堂で自身最大規模のワンマン・ライヴに臨む。音源と同じようにDIYで行う予定だ。50歳にして臨む大舞台。どんな形であれ、伝説の夜となることだろう。

 「成功するか失敗するかわからない。何も変わらないかもしれないけど、変わる可能性も大いにある。これまでブッキングからアルバムの曲作りまで一人でやってきたつもりなんですけど、野音に向けて手伝ってくれる有志のスタッフも集まり、クリトリック・リスがチームとして機能してきている。50歳以降も戦える状況になってきているので、まずは野音を最高の1日にしたいですね」。  

 


クリトリック・リス
69年生まれ、大阪出身のスギムによるスカム・ユニット。2006年、会社勤めの傍ら結成したバンドのライヴにメンバーが来なかったことをきっかけに活動をスタートする。パフォーマンスが徐々に評判となり、2010年の『萌えるゴミの日』、翌2011年の『男達の宴』といったライヴ盤を自主リリース。2015年にTOWER RECORDSから全国流通のファースト・アルバム『あなたのあな』を発表する。その後は〈MOOSIC LAB 2016〉出品の映画「光と禿」で初主演を務め、2017年には『HAGECORE』をメジャー・リリース。日比谷野外音楽堂でのワンマンも4月20日に控えるなか、ニュー・アルバム『ENDLESS SCUMMER』(SCUM EXPLOSION)をリリースしたばかり。