現代アイリッシュ・トラッドを牽引するアルタンが、新しい扉を開いた傑作が誕生
年末の〈ケルティック・クリスマス2018〉で来日したアイリッシュ・トラッド・フォーク・バンド、アルタンに久しぶりに対面取材を申し込んだのは、去年出た『ザ・ギャップ・オブ・ドリームス』があまりにも素晴らしかったからである。リーダーのマレード・二・ウィニーと共に長年バンドを牽引してきたフィドル奏者キーラン・トゥーリッシュが脱退し残ったメンバーだけで録音されたその新作は、しかしまったくパワーダウンすることなく、逆にバンドに新たな視点と可能性をもたらしたと思う。
「特別な作品になったと私も思うわ。実際、新メンバーを補充をしないままでのアルバム制作は大きな賭けだったけど、思い切ってやってみたおかげでバンドの音楽が更新されたというか、自分にとっても予想外のいい変化をもたらしてくれた」
そんなマレードの言葉を更に掘り下げるのは、前作『ザ・ワイドニング・ジャイル』から加入したアコーディオン奏者マーティン・トゥーリッシュ。
「逆境的変化によって新しい扉を開くことができたんだ。メンバー間の距離が縮まり、絆がより強まった状態で作業を進めることができた。結果、何かマジカルなものが自分たちの中に生まれ、そのカタルシスが一気に噴き出る感じで最後まで走り抜けたんだ。アルタンというバンドにおいて初めてマレード一人だけのフィドルが聴ける作品だし、また、それによってブズーキやギター、アコーディオンなど別の楽器の音をよりクリアに聴けるようになった作品でもある。いい意味でスペイスができたおかげで、アンサンブルの柔軟性と一体感が更に高まったんじゃないかな」
その“スペイス効果”と“柔軟な一体感”がとりわけはっきりと感じられるのが、即興セッションでのほぼ一発録りだという《オ・ボイルの娘》や《シーラ・アンディの放浪者》だろう。
「歌とパラレルに動く形でギター、ブズーキ、アコーディオンの3人がその場で最小限のリズムとコードを付けたんだけど、結果、歌が美しく際立つことになったと思う。このスタイルはもっと続けるべきだと周囲からも言われているの」とマレードも満足げ。
後年、きっと本作は彼らのキャリアにおいて『アイランド・エンジェル』(93年)と並ぶ記念碑的作品として語られるのではなかろうか。
「素晴らしい指摘だわ。あれは、私の最初の夫フランキー・ケネディの間近に迫った死がバンドにもたらす強い一体感によって生まれた作品だった。確かに、今回の一体感もあの時に近いと思う」
アルタンは新しいステージの幕を上げたのである。