冬のケルト音楽の祭典 ケルティック・クリスマス 2015
ケルト・ミュージック・ファンお待ちかね
アイルランドから人気の3バンドが来日!

 日本のケルティック・フォーク・ファンにとって一年で最も心躍る季節がやってくる。恒例の年末一大イヴェント〈ケルティック・クリスマス〉が今年も開催されるのだ。

 今回は、いつもにも増してアイリッシュ色が濃厚である。なにしろ、名実共に頂点に立つアルタンと、最強ライヴ・バンドの評価も堅いダーヴィッシュというアイリッシュ・トラッド・シーンを代表するトップ・バンド二つの揃い踏みであり、更に、ここ数年最も熱い注目を集めてきたグループであるウイ・バンジョー・スリーまで加わっているのだから。

 ウイ・バンジョー・スリー(WB3)は、その名のとおり、バンジョーを核にしたグループだ。ケルティック・トラッドの世界ではバンジョーは古くから使われてきたが、ほとんどの場合、脇役にすぎなかった。しかしWB3では、アコースティック・アンサンブルの中心になるのは常にバンジョーであり、曲によっては4人のメンバー中3人がバンジョーを弾いたりもする。本来はフィドルやアコーディオン、イリアン・パイプなどが担うべき主役の座をバンジョーが奪い、バンジョーの奏でる躍動的メロディ、明るく乾いた音色を核にしてサウンド全体が組み立てられているのだ。ブルーグラスやアパラチア系オールドタイミー・ミュージックとアイリッシュ・トラッドを巧妙に掛け合わせたサウンドは、90年代以降の米国では少なからず作られ、〈ケルトグラス〉と呼ばれてきたが、その手法をアイルランド本国で最も果敢に突き詰め、ポップに洗練させたのが、このWB3だと言っていいだろう。

 WB3は、欧米メディアで〈バンジョーの魔術師〉と謳われるエンダ・スカヒルが中心になり、ゴールウェイを拠点に2009年から活動してきた。エンダ以外のメンバーは、エンダの弟ファーガル(フィドル他)、マーティン・ハウリー(バンジョー/テナー・ギター他)&デイヴィッド・ハウリー(バンジョー/ヴォーカル他)兄弟。つまり二組の兄弟からなる珍しいユニットだ。

 2012年のデビュー・アルバム『Roots Of The Banjo Tree』がアイリッシュ・タイムズ紙で〈年間最優秀トラディショナル・アルバム〉に選出されるなど、いきなり絶賛を浴び、昨年発表された2作目『Gather The Good』は最近日本盤も出た。彼らの最大の特長は、独自の〈オルタナ感覚〉である。アンサンブルの組み立て方やスピード感に、90年代以降のオルタナ・ロック~アメリカーナを通過した今現在のセンスが隅々まで脈打っている。と同時に、伝統音楽の滋味や哀感、ある種の田舎臭さもしっかりキープされている。日本ではまだ無名に近いが、エンタテインメント性の高い彼らのライヴ・パフォーマンスは、きっと観客に衝撃を与えるはずだ。

 アルタンも、最近、新作『The Widening Gyre』が日本発売されたばかり。このアルバムは、米国オールドタイミー/ブルーグラスに真正面から取り組みつつ、自分たちの土台であるドニゴールの伝統音楽を改めて見つめ直したコンセプト・ワークである。

 録音は、バンジョー奏者アリソン・ブラウンの運営するナッシュヴィルのコンパス・サウンド・スタジオでおこなわれ、ティム・オブライエン、サム・ブッシュ、ジェリー・ダグラス、ブライアン・サットン、スチュアート・ダンカン、ブルース・モルスキー、ダロール・アンガー、トッド・フィリップス等々、オールドタイミー/ブルーグラス系のスーバー・プレイヤーが多数参加している。

 アルバム・タイトル『The Widening Gyre』は、イェイツの叙事詩「The Second Coming」の一節からとられたものだが、その意図について、リーダーのマレード・ニ・ウィニーはこう説明する。

 「イェイツの詩の〈広がる螺旋〉のイメージは、中心から外側に向かって広がっていく円、心の内側から広がっていくもの、そして私たちのたどって来た音楽的旅の過程を表しているように思ったの。ドニゴールを基盤とする私たちの音楽は、行く先々で他の文化と混ざり合い、影響を与え合いながら世界に向けて広がってきたわけで。アルタンの現時点での音楽的、歴史的ポジションを捉えたタイトルとしてびったりだと思った」

 本作はまた、アコーディオン奏者がダーモット・バーンからマーティン・トゥーリッシュへと替わった新生アルタンの第一弾でもある。新作収録曲のパフォーマンスでは、バンジョー名人揃いのWB3とのコラボも期待したいところだ。

 その他、〈ケルティック・クリスマス〉では常連である最強助っ人のジョン・ピラツキ(カナダを代表するステップ・ダンサー兼フィドラー)と、キャラ・バトラー(トップ・アイリッシュ・ダンサー)ももちろん参加することになっている。ここまで濃密なアイリッシュ・セッションを体験できる機会はなかなかないはずだ。

 


 

We Banjo 3 (ウィ・バンジョー・スリー)
アイルランド出身の兄弟2組により2012年に結成された今最高にイキのいいバンジョー・グループ。 メンバーそれぞれがバンジョー、フィドルのアイルランド・チャンピオンで、輝かしい実積を持つプレイヤーぞろい。アイルランドの伝統音楽シーンを牽引する若手として各メディアからも大絶賛されている。

WE BANJO 3 Gather the Good PLANKTON(2015)


 

Altan (アルタン)
アイルランド・ドニゴール地方出身、現在のケルト音楽シーンにおいて名実ともに最高峰グループ。フィドルを中心とした躍動感溢れるダンス・チューンと、マレードの天使のような透き通ったヴォーカル曲が魅力。デビュー以来、ドニゴールの伝統音楽を純粋で素朴過ぎるほど正攻法に表現し、世界中を魅了し続けている。

ALTAN The Widening Gyre PLANKTON(2015)


 

Dervish (ダーヴィッシュ)
アイルランド・スライゴー出身。魅惑的な女性ヴォーカルと、地元のセッションで腕を磨いた男性陣の力強い演奏。25年以上に渡り伝統音楽シーンの中核を担ってきた実力派。「アイルランド音楽のアイコン」と称されるグループ。

DERVISH セレブレーション!! 1989-2014 ベスト・オブ・ダーヴィッシュ PLANKTON(2015)

 

★12月5日(土)に東京・すみだトリフォニーホールで開催される〈ケルティック・クリスマス 2015〉の公演詳細はこちら