クラリネット界の中の垣根を越えてフランス物に挑戦

 ウィーン・フィルの若き首席クラリネット奏者であるダニエル・オッテンザマーが2枚目となるアルバムをリリースする。題して『バラ色の人生~フランス・クラリネット音模様』。難曲として知られるフランセのクラリネット協奏曲を中心に、フランスの作品ばかりを集めたアルバムだ。

DANIEL OTTENSAMER バラ色の人生~フランス・クラリネット音模様 Sony Classical(2019)

 「クラリネット奏者にとってフランスのクラリネットのための作品は必須のもの。僕も学生の頃から親しんできました。それをフランス式の楽器ではなく、ドイツ式の楽器で演奏してみたいというのがこのアルバムの狙いです」

 と語るオッテンザマー。吹奏楽でクラリネットを吹いている方などはご存知だろうが、クラリネットには大きく分けてフランス式とドイツ式というシステムの違いがある。それぞれに個性があり、その個性の違いにも注目したいアルバムだ。

 「フランス音楽、特に近代のクラリネット音楽は、ドイツ式の楽器に合うというのが僕の考えです。ウィーン的なフレージングやアーティキュレーションが、フランス音楽にぴったりだとずっと思ってきました。それを今回、実現したのです」

 華麗なフランセの世界、そしてオーケストラと一体となったドビュッシーの《第1ラプソディ》はそのオッテンザマーの思いを伝えてくれる演奏だ。

 「まさにオーケストラと一体化したドビュッシーの演奏にトライしてみたかった。もちろんソロの部分はソロとして目立たなければいけないけれど、オーケストラとの一体感はドイツ式クラリネットならではの世界ではないでしょうか? あくまで僕の考えですが」

 それ以外にもたくさんの小品が詰まっている。そこには盟友であるチェロ奏者シュテファン・コンツの存在も大きい。

 「彼とはフィルハーモニクスでも活動を共にしているし、プライヴェートでもとても親しい関係にあります。今回は、チェロの演奏だけでなく、指揮、編曲でも活躍してくれました。またミヨーの《スカラムーシュ》を演奏するように薦めてくれたのも彼でした」

 そのコンツの編曲によるシャンソンの2曲《バラ色の人生》《パリの空の下》は共に編曲が面白い。

 「コンツの編曲のセンスは天才的なものがあります。これまでのシャンソンとはまったく違う味付けになっている。特に《バラ色の人生》はビッグバンド・ジャズ風のアレンジで、面白いと思います」

 クラリネット界の中の垣根を越えて挑戦したフランス物のアルバム。そこには常に新しいアイディアで音楽を創ろうとするオッテンザマーの世界が広がる。