ファースト・アルバム『春日部鮫』のリリースから現在までの約3年半、その間には鎖GROUP主催のMCバトル〈KING OF KINGS〉の初代チャンピオンの座の獲得や、TV番組「フリースタイルダンジョン」での〈2代目モンスター〉就任など、そのキャリアを確実に伸ばしてきた崇勲。

 「3年半で状況はまったく変わりましたね。自分自身の内面的な部分は変わらないんだけど、いままで冷たかった人が優しくなったり、逆に仲良かったはずの人が勝手に〈あいつは変わった〉みたいに離れていったり。そういう、いろんな手の平返しは見てきました」。

 彼のセカンド・アルバムとなる『素通り』は、そういった状況が一変するような環境や〈成功〉を大っぴらに誇るようなものではなく、それよりも、そこに至るまでの道程や、彼そのものの根本や内面を描くような内容が楽曲の芯となっており、ある意味では前作以上に〈ファースト・アルバム的〉な要素の感じられる作品となった。

崇勲 素通り Timeless Edition Rec.(2019)

 「自分でもファーストっぽいと思いました。『春日部鮫』はとにかく出来た曲をパックしていった感じだったんだけど、今回はラストの“OVER TIME”に至るまでに、どういう曲があったら最後の曲が光るかなっていう、時系列だったり構成をしっかり考えて作っていきましたね」。

 そんなアルバムのオープニングは、彼が〈KOK〉を制した年を冠した“2015”で始まる。

 「このトラックは〈KOK〉で優勝してゲットしたLIBROさんのビートだったんで、それも合わせて今回はバトルやフリースタイルを曲にしてみようって。いままではバトルについて書くことはできなかったんですよね、コンプレックスとして」。

 この発言は非常に興味深い。MCバトルが普遍化し、リリース形態も多様になった現在と違い、崇勲の世代がバトルに出たのは〈それしかアピールの場がなかった〉ことが要因として大きい。ゆえにそこにコンプレックスを感じるというのは、現在のラッパーには理解しにくい心境だろう。

 「音源やライヴではなく、バトルで最初に注目をされたっていうのは、やっぱり劣等感の種ではあったんですよね。ただバトルは自分の人生の中で大きな転機でもあるんで、感謝しなくちゃいけないことだし、それを曲にしようって」。

 “WAYBACK”では東京との心理的な距離感と現実的な距離という両面を形にしながら、同時に現行のヒップホップ・シーンに彼が感じる距離感も織り込んでいる。 

 「東京がメッチャ嫌いなんですよ(笑)。用事が終わったら速攻で帰りたいし、東京でワチャワチャしてる人が信じられないし、もう気に食わない(笑)。そういう距離感は大事にしたいんですよね」。

 また“血と骨”では、彼が子ども時代に影響を受けてきた事象がラップされるが、30代中盤としてはある種〈あたりまえ〉の内容が描かれ、世代論としての普遍性を高めている。一方で、それに続く“ラストシーン”や“SNPIKNBNWS”では、彼が所属するグループ=第三の唇がテーマとして押し出され(後者では後藤、板垣氏、naGiらのメンバーも客演)、彼の個としての根本やキャリアが明らかになっていく。そういった身の回りを描きながらも、“素通り”や“OVER TIME”、そして“道しるべ”で表現される、〈独歩者〉としての意思も印象的だ。

 「人のことをアテにしないっていう気持ちが強いんだと思いますね。浮かれてないんで、いまはみんな優しくしてくれるけど、結局、人はみんな『素通り』だぞっていう、自分への戒めが、このアルバムなのかも知れない。それがこのアルバムの正直な気持ちだし、100%嘘のない、いまの自分を表現したアルバムになったと思います」。

 


崇勲
埼玉は春日部在住のMC。10代の頃にラップを始め、地元の仲間と第三の唇を結成して活動をスタート。2011年頃からソロ活動を中心とするようになり、ライヴやMCバトルを通じて徐々に名を広めていく。2015年、鎖GROUPが主催する〈UMB2015(KING OF KINGS)〉に出場して優勝。前後してファースト・アルバム『春日部鮫』をリリースする。2017年よりTV番組「フリースタイルダンジョン」にて〈2代目モンスター〉として出演して知名度を高めていく一方、CARREC、DJ PANASONIC、J-TARO、Michita、DJ RIND、押忍マンらの楽曲にコンスタントに客演。注目を集めるなか、セカンド・アルバム『素通り』(Timeless Edition Rec.)を5月29日にリリースする。