独特のセンスで弾けんばかりにパッションを放ってきた4人が新たな愛の嵐を巻き起こす! 一生解けないマジックみたいなミュージックを引っ提げて、いざ都会の夜の自由気ままで危険なクルージングへ……

ヤバい航海

 Magic, Drums & Love(以下マジドラ)は、住所不定無職として活動していたYURINA da GOLD DIGGER(ドラムス)と℃-want you!(キーボード)、Jinta=Jinta(ギター)にFUNK O'ney "The Diamond"(ベース)が加わって、2015年に始まった(全員がヴォーカルを取ることができる)バンドである。そもそもロックンロールへの憧れを、アイドル・ソングにも通じるポップネスを駆使してエンターテインさせてきた住所不定無職だったが……。

 「最後のアルバム『GOLD FUTURE BASIC』は、レコーディング先行でやりすぎちゃって、ライヴでしっかり再現できる曲が一個もないぞ!ってなっちゃって。全然売れなかったし(笑)、やる気もなくなっちゃって、それで新しく、しっかりライヴで再現できるようなバンドを始めたいと思って」(YURINA)。

  「もともとソウルとかディスコ……ディスコはそんなに聴いてなかったですけど、70年代のソウルが好きで、そういうのをやりたいなあって感じではあったんです」(Jinta)。

 2016年に リリースしたファースト・アルバム『Love De Lux』で マジドラが聴かせたのは、ソウル・フィーリングがあって軽やか、ちょっぴりメロウなポップスで、それは住所不定無職の活動後期からの流れを汲むものでもあった。

 「すごく憶えているのは、ダフト・パンクのあのアルバム(『Random Access Memories』)が出たときに、Jintaが〈俺がやろうと思ってたやつ!〉ってすげえ言ってて(笑)。いくらなんでも後出しジャンケンすぎるよって思って聞いてたんですけど」(YURINA)。

 「いま思い返すと、ヒップホップ的なものがやりたくて、そのサンプリングのネタのソウルっていう流れだったような気がします。まあ、ヒップホップ的なことをやりたいと思いつつも、それをマジドラでやるとこの感じになるっていう」(Jinta)。

 シティー・ポップなど昨今のトレンドにリンクする音楽観も垣間見せるマジドラだが、バンドのキャッチフレーズはズバリ〈東京のロックンロール・バンド〉。

 「田舎者なんで、東京に対する憧れがずーっとあって。東京タワーとか、象徴的なものにはいまだにときめいたりするし、〈東京〉ってだけで結構テンション上がるみたいな、そういう感じがあって。角松敏生さんがすごく好きなんですけど、“Tokyo Tower”という曲があって、なんてケバくてイナタくて、私が思ってた東京の感じってこれこれ!みたいな」(YURINA)。

 「そのうえで、〈ロックンロール〉をやってるバンドだと。ロックンロールって思い入れがすべてで、食らった時のタイミングだとか世代とかでイメージは変わると思うんですけど、僕がイメージするロックンロールは、ザ・フーとかザ・ハイロウズとかで」(Jinta)。

 ファースト・アルバム発表以降、Negiccoのアルバム曲“マジックみたいなミュージック”における編曲/演奏をはじめ、脇田もなり、あヴぁんだんど、ばってん少女隊といったパフォーマーたちの楽曲にもそのセンスを落とし込んできたマジドラ。新たなファン層も徐々に獲得するなかで届けられたのが、ニュー・アルバム『HURRICANE UPSETTER』だ。先行した2枚のシングルに続き、松田"CHABE"岳二をプロデュースに迎えて制作された今作において、彼らはその持ち札をさらに増やすと共に、随所にインタールードを挿みながらコンセプチュアルな風合いを醸し出している。アルバム・タイトルが意味するように、それは危険いっぱいの航海記録とでもいった感じで。

Magic,Drums & Love HURRICANE UPSETTER HIGH CONTRAST/ヴィヴィド(2019)

 「ちょっと早いかなって思ったんですけど、アルバムを作るならこういう雰囲気……ブライアン・ウィルソンの『Smile』だったり、ビートルズの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』だったり、去年出たSTRUGGLE FOR PRIDEのアルバムだったり、そんなイメージがあって、そのうえで旅感、航海感、それも〈ヤバい航海〉みたいな感じを出したかったんです。今回のこだわりのひとつは、メロトロンをめっちゃ使ってるところ。アルバムを作るにあたって買いました。ゾンビーズやビートルズで聴いてたあの音が大好きで、わりとサイケ的なものとして使われていたじゃないですか。それもあって、入れたらイイ感じになるだろうなって」(Jinta)。

 

転がり続けるだけ

 アルバムは、“~Voyager 1928~”なるイントロダクションを経て、「ユーミンや吉田美奈子さんのイメージ」(Jinta)で編んだというミディアムの美曲“メテオ・フライト”へ。いつになく物静かそうに言葉を紡いでいくYURINAの歌声に思わずハッとなる、純粋にイイ歌。

 「これは危険な航海感あるかも。不穏な感じというか、いつものキーと全然違う、低いところできたなって」(YURINA)。

 先行リリースしたディスコ・チューン“大東京今夜的愛”に続くのは、O'neyがほぼ人生初の作詞をしたというジャパニーズ・ルンバ的なエキゾティック・ナンバー“MOMONA”。最新のアーティスト写真からも窺えるように、Jinta的には「これがマジドラのイメージ。たぶん、俺しか作れない曲」だとか。インタールード“~Pilot 1942~”を挿んで、メンバーも意表を突かれたドゥワップ歌謡“渚のハッピー大作戦”、モバイル時代前夜のロマンティシズムが描かれたアーバン・ポップ“℃apital ℃ity ℃rawl”。その2曲はいずれも℃-want you!が詞を書いたもので、後者ではメイン・ヴォーカルも担当している。

 「“渚のハッピー大作戦”はウェディング・ソングってことなんですけど、シャネルズがすごく好きなので、一人称は絶対〈俺〉だなって(笑)」(℃-want you!)。

 そして、これまた先行曲となるライト・メロウ感覚の“恋はパラディソ”、インタールード“~Explorer 1963~”に続いては、三輪二郎とのグルーヴィーなデュエット・ナンバー“HURRICANE VOYAGE~キケンな航海~”。

 「男女のデュエットは、そうじゃないと出ない声がそれぞれにあるから、いい旨味が出ますよね。もうちょっとエロくなるかなって思ったけど、そうはならなかった(笑)」(YURINA)。

 “恋はパラディソ”のカップリングとして発表済みの〈ももち讃歌〉──YURINAとJintaがハロプロ愛全開でハモる“一生解けない魔法とは。”、そして本編最後は、ロボ声とジェマーソン・ライクなベースが効いた“DEATH COUNT”。とてつもなく聴き応えがあり、それでいて人懐っこく、キャッチーさにも溢れた『HURRICANE UPSETTER』に、メンバーも大きな手応えをつかんでいるようだ。さて、このあとの目標などを訊いてみよう。

 「住所不定無職の時は〈ライヴでできねえ〉って諦めたけど、このアルバムではしっかりライヴでも表現できるように、それはホントにがんばりたい。そしたらまた次のステップに行けると思うから」(YURINA)。

 「これ以上、テクニカルな方向には行かないだろうし、行けないと思います」(Jinta)。

 「そういうとこがロックンロール・バンドっていう」(℃)。

 「ロックンロール=気合いってことでね」(YURINA)。

 「甲本ヒロトさんが、〈ロックンロールはやった時点で目標達成だから〉って言ってたので、目標は達成してます(笑)。あとはやるだけ。転がり続けるという」(Jinta)。

 

Magic, Drums & Loveの作品を紹介。

 

文中に登場したアーティストの作品。

 

関連盤を紹介。