小さな日本人女性が世界で羽ばたくための、決断と達観の先に見えたもの

 北海道出身。現在は、生き馬の目を抜く猛者が有象無象するNYを拠点とし、世界を相手に活動を展開している。そんな寺久保エレナがNYに拘泥するのは、あるジャズへの気高い恋着の念を引きずるからだ。

 「ジャズのフィーリングは、ネイティヴな英語発音や、アメリカに根づく独特の話法や文化が影響していると思います。今一度その本質を探りたかったのと、現地のコミュニティと深く交わってみたかった。国籍のこと、ジェンダーのこと、体だって小さいので、NYでは様々なコンプレックスを抱えながら目的に向かって歩んできました。学位取得のため、活動を続けながら再びバークリー音大へ通いだしたのもそのため。お陰で語彙力は上向き、一般教養の成績もオールAを取る事ができ、自信がつきました」

 NYのライヴハウス〈スモーク〉でギグを終えると深夜バスに乗り、ボストンまで毎回5時間かけて通った。それでも日本、イスラエル、アルゼンチン、チリと、宿題を抱えてツアーを敢行。ひと回り大きくなると、コンプレックスのことも気にならなくなっていた。

 「先日もケニー・バロンから連絡をいただき一緒に3日間の大舞台に立てました。6月にスモークで行われる〈ジャパニーズ・ジャズ祭〉でもルイス・ヘイズをスペシャルゲストに招いて出演します」

寺久保エレナ アブソルートリー・ライヴ! Paddle Wheel(2019)

 NYでは日本のジャズも活況を呈しているが、最前線で旗を振るのは間違いなく寺久保だ。この原動力は、一度目のバークリー卒業後のNY行きに背を押した伊藤八十八との、永遠の別れにあった。そして小さな日本人女性であるのを逆手に、立ち位置を表明したのが昨年の『リトル・ガール・パワー』。NYの地でジャズの本質に肉薄する彼女のビ・バップ精神と、日本人特有の機微や思慮や技巧を馴染ませたバンド力を顕示。ただ高校2年の寺久保に初録音を体験させ、初のツアーに駆り出した佐山雅弘が、次はあの世に旅立っていた。

 「その訃報を聞いた翌月に日本に来て…本当はそこで佐山さんともお会いする約束だったんです。そして前作と同じ日本人クァルテットで全国ツアーをし、その最終日に新宿〈ピットイン〉で収録したのが本作。一抹の悲しみはありますがメンバーみんな私の音楽に全身で寄り添い、それをより良いものにしようと全力を尽くしてくれる。共通のゴールを引き寄せるため、活気に溢れたライヴという現場を必要としていました」

 まさに熱気とグルーヴに満たされた空間で、4人は寄り添い、馴染みながら、全力で加速する。一方、ソプラノの華麗な音色の追加、リズム種のカラフルな選択、アレンジと曲構成の上質なバランス感…日本人らしい精緻な心遣いもあって演奏は最高潮へと極まった。

 


LIVE INFORMATION

「アブソルートリー・ライヴ!」発売記念ツアー
○7/28(日)東京・新宿ピットイン
○8/14(水)青山・ボディ&ソウル
○8/17(土)銀座・銀座スウィング
○8/21(水)いわき・BAR 1%ER
○8/22(木)福島・MINGUS
○8/23(金)山形・Noisy Duck
○8/24(土)仙台・ノーバルビル1F(旧 JAZZ ME BLUES noLa)
○8/25(日)盛岡・すぺいん倶楽部
○8/26(月)秋田・THE CAT WALK
○8/27(火)青森階上・東門
○8/28(水)三沢・MOON RIVER
○8/30(金)室蘭・MUTEKIROU
○8/31(土)旭川・じゃずそば放哉
○9/ 1(日)札幌・Fiesta
【出演】寺久保エレナ・カルテット:寺久保エレナ(a-sax)片倉真由子(p)金森もとい(b)高橋信之介(ds)

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