ジャズやフォークからフィールドレコーディングまでを融合させた独自の瞑想的なサウンドで、世界的な注目を集めている若き異才ナラ・シネフロ。2022年にリリースしたデビューアルバム『Space 1.8』が絶賛を集めたことも記憶に新しいが、先日2ndアルバム『Endlessness』を発表、早くも今年のベストアルバムの一つとして称賛されている。待望の来日公演も開催目前だ。
今回Mikikiは、新作について短期集中連載を展開。様々な聴き手に異なる環境と媒体で『Endlessness』を聴いてもらい、その場で感想を聞く。第3回(最終回)は、音楽評論家・柳樂光隆に、鎌倉にあるオーディオ評論家・和田博巳の自宅リスニングルームで聴いてもらった。アメリカのブランドYG Acousticsの超高級スピーカーHailey 2.2でCDを再生した。
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繊細に作り込まれ、構成された音世界
柳樂光隆「(聴き終えて)……いや~、素晴らしい!」
――まるで一本の映画を見たかのようでしたね。
和田博巳「最後の盛り上がりがすごかったですね。螺旋階段で下に降りていくような……いや、むしろ上っていくのかな。
このアルバムには〈終わりのない世界〉という素敵なキャッチフレーズが付けられていて、アンビエント系と言われていたので、最初はリラックスして聴いていたんです。でも、聴いているうちに〈これはすごいレコードだ!〉と思って。背筋をちゃんと伸ばして、きちんと真面目に聴かなきゃシネフロさんに対して失礼だと思ってね。永遠に聴き続けていたいアルバムですよ。今年一、二を争う大傑作だと思います」
柳樂「この環境で聴いたら本当に素晴らしかったですね。和田さんの以前のご自宅でホセ・ジェイムズの『No Beginning No End』を一緒に聴いたのって覚えてます? あのアルバムって普通に聴くとネオソウル的なバンドサウンドなんですが、音の解像度が高い環境で聴くと、かなり手の込んだ作り物的な音であることが気持ち悪いぐらいわかるんですね。ナラのこのアルバムも、そういう作り物感が強いことがよくわかりました」
和田「シネフロの音楽は〈せーの〉で肉体的に演奏するジャズと違って、すごく繊細に作り込まれていますよね。それがディテールまでよくわかると、こんなに気持ちいいんですね」
――シンセやドラムの鋭い音、鋭角的な響きがはっきり聞こえました。
和田「ドラマーのセンスがすごくいいですよね。手数が多いわけではないんですけど。これは誰なんですか?」
――トリップ・ティック・トリオ(Tryp Tych Tryo)などで活動しているナシェット・ワキリです。
柳樂「インプロ系の演奏をしているタイプの人だからよかったのかもしれないですね。ロンドンのコミュニティの中ではちょっと変わった人を使っているんですよ。1曲目だけブラック・ミディのモーガン・シンプソンが叩いているんですけど」