ヨーロッパで大きな存在感を誇るピアノ四重奏団のデビュー盤
ヴァイオリンとヴィオラ、チェロとピアノによるピアノ四重奏曲というジャンルは、ロマン派と相性がいい。各楽器のキャラクターを重視しがちなピアノ三重奏曲とも違い、弦楽四重奏曲のように構築美を前面に出すこともない。それぞれの楽器が親和性をもって溶け合うことで、感情の起伏をより自在に奏でられるというわけである。
常設のピアノ四重奏団、ノトス・カルテットのデビュー盤がリリースされた。彼らが取り上げた作品は、この分野の嚆矢であるモーツァルトではなく、完成形ともいえるブラームスやフォーレでもない。ハンガリーの作曲家たちがまだ若かったとき、ドホナーニとバルトークが17歳、コダーイが23歳で書いた3作品。19世紀の終わりから20世紀の最初にかけて、ロマン派の最後の輝きといっていい時代の音楽だ。
それら若々しい作品をノトス・カルテットは驚異的な一体感で織り上げる。のちに後期ロマン派の保守本流の道を歩むことになる、若きドホナーニによる「ピアノ四重奏曲嬰ヘ短調」は、まるでシューマンを思わせる憂いを宿しつつ、じつに爽やかだ。
オーストリア=ハンガリー帝国の嫡子として、ウィーン風の音楽を志したドホナーニに対し、コダーイとバルトークはハンガリーの独自性に目を向けた。民謡研究家としても名高いコダーイの「弦楽三重奏のための間奏曲」には、民謡的な旋律も顔を覗かせる。
その民族性の追求を経て20世紀音楽へ新しい扉を開いたバルトーク。彼の「ピアノ四重奏曲ハ短調」は世界初録音。楽譜も出版されておらず、これまでほとんど演奏されていなかった作品を発掘したのだ。きわきわにソリッドで知られるバルトーク作品と違い、こちらはブラームスの延長線上にあるような、濃い口のロマンティシズムが漂う。今年7月、待望の来日公演では、このバルトーク作品と、この作品とどこか似ているブラームスの四重奏曲第1番を組み合わせたプログラムを披露する。
LIVE INFORMATION
2019年ノトス・カルテット来日公演
○7/2(火)19:00開演 京都コンサートホール
○7/3(水)19:00開演 宗次ホール
○7/5(金)19:00開演 王子ホール
【演目】
バルトーク:ピアノ四重奏曲 ハ短調 Op.20, Sz9(日本初演)
ブライス・デスナー:エル・チャン
ブラームス:ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 Op.25