「ピアノ四重奏は皆さんが考えるより遥かに豊かで、難しいジャンルです」
2007年に結成しながらアンサンブルの熟成を待ち、2016年にデビュー盤『ハンガリアン・トレジャーズ』(ソニー)を録音したベルリン本拠のピアノ四重奏団〈ノトス・カルテット〉が初来日した。シンドリ・レーデラー(ヴァイオリン)、アンドレア・ブルガー(ヴィオラ)、フィリップ・グラハム(チェロ)、アントニア・ケスター(ピアノ)の4人組。ジャケット写真はクールに決めたが、素顔は今どきのヨーロッパの若者らしい気さくさと好奇心に満ち「初めての日本で見るもの、食べるもの、出会う人々のすべてが素晴らしく、早く再訪したい」と、楽しそうだった。
NOTOS QUARTETT ハンガリアン・トレジャーズ~バルトーク、ドホナーニ、コダーイ作品集 SONY CLASSICAL(2019)
──デビュー盤をハンガリーの作曲家で固めたなか、バルトーク幻の若書きである“ピアノ四重奏曲第1番”の世界初録音が注目を集めました。
「作品の存在は知られていたのですが、著作権が切れた後もハンガリーのバルトーク財団は非公開を貫いてきたため、長く楽譜を見ることができませんでした。幸い私たちの世代はインターネットやeメールを使った探索が可能ですから、四方八方に打診し、コピー譜を所有する個人を突き止めたのです。作品番号こそ20を与えられているものの1898年、17歳と最も早い時期の作曲。ベートーヴェンからリスト、ブラームス、ドヴォルザークに受け継がれてきた中欧音楽の歴史、直接には先輩のドホナーニの影響を色濃く受けながら、コダーイとともに民族音楽の収集に向かう以前、むしろシェーンベルクに似た方向を模索していた時期の興味深い作品といえます。これが演奏可能になったので手本にしたドホナーニと組み合わせ、夢のようなコダーイの小品を両者の間に置くハンガリー音楽特集に仕上げました」
──常設のピアノ四重奏団が少ないのは、レパートリーに限りがあるからですか?
「いえ、楽曲は皆さんが考えているより、ずうっと多くあります。問題は音楽祭などで四人のソリストが集まり、簡単なリハーサルだけで本番にかけるから、深いところまで掘り下げた演奏解釈に接する機会が乏しいことです。3人の弦楽器と1人のピアノと、機能的に異なる楽器の響きを整え、室内楽として上質のアンサンブルを保つのは容易ではない分、やり甲斐もあるのです」
――ドイツでは歌曲(リート)、室内楽などコアなジャンルの人気がガタ落ちと聞きます。
「ドイツに限らず、ヨーロッパ全体の若者が〈クラシックは退屈だ〉と思い込んでいるからです。確かに長時間静粛に聴くという19世紀以来のコンサートホールのマナー自体、現代のライフスタイルには適合しません。ベルリンでテクノのクラブに乗り込み、雑多な人々の前でモーツァルトから現代の新作まで、短めのプログラミングで演奏したら、全く別のホットな反応がありました」