アンダーワールドが新作『Drift Series 1』を11月1日(金)にリリースする。とはいえこれは〈普通のアルバム〉ではない。音楽や映像、エッセイなどさまざまな創作物を52週にわたって毎週リリースしてきたプラットフォーム〈Drift〉での発表曲からトラックを厳選し新たにミックス。いわば〈Drift〉の第一期集大成的な作品なのだ。
それにしても、結成から30年を経てもなお尽きることのない彼らの原動力とはいったい何なのだろうか。今回は、インターネット世代のトラックメイカーとの親交が深いimdkm、彼らが日本でビッグ・アクトになっていく時期に青春時代を過ごした木津毅、テクノ黎明期の伝説的なイヴェント〈RAINBOW2000〉をリアルタイムで体験した小野島大という異なる世代の3人のライターが、それぞれのアンダーワールドとの出会いや評価を示したうえで、新作を考察。意欲的な〈Drift〉シリーズの背景にある、不変のアティテュードに迫った。 *Mikiki編集部

UNDERWORLD Drift Series 1 - Sampler Edition SMITH HYDE PRODUCTION(2019)
インターネットのスピード感とともに疾走する〈Drift〉が持つアンダーワールドらしさ
by imdkm
アンダーワールドが2018年11月から継続してきたプロジェクト〈Drift〉。毎週木曜日に1曲ずつミュージック・ビデオ付きの新曲(もしくは未発表曲)を発表しつづける、並のヴァイタリティではなしえないようなプロジェクトだ。
〈Drift〉の楽曲を聴くと、このプロジェクト特有のサイクル、スピード感を感じずにはいられない。隅々までコンポーズされたというよりも、フィジカルな勢いのあるトラックが多いからだ。シンセサイザーの奏でるシンプルなリフが折り重なり、プロジェクトのなかでも図抜けた多幸感を生み出している“Listen To Their No”などもその好例だろう。
このプロジェクトの狙いのひとつは、音楽産業が要請する〈数年に一度はアルバムをリリース〉といった制作サイクルを打ち破ることだという。そのために沈黙することを選ぶのではなく、むしろハイペースで制作とリリースを繰り返す、無謀とも言えるプロジェクトに乗り出すのだから恐れ入る。
しかし、振り返ってみれば、彼らはヒット曲を持ったヴェテラン人気アクトというだけではなく、作品の発表の仕方ひとつとってもユニークな試みを行ってきたユニットでもある。
個人的にはアンダーワールドといえば、テクノを聴きはじめた時期にちょうどリアルタイムで『A Hundred Days Off』(2003年)を聴いたのをよく覚えているし、ライヴ・アルバムの『Everything, Everything』(2000年)も愛聴盤だった。 きらびやかな電子音やダンサブルなビートを打ち出す曲でも、リヴァーブのクールな感触やカール・ハイドのスポークンワードめいたヴォーカルが、超然としたスマートさを醸し出す。かと思えばライヴ音源で施される大胆なアレンジには、このうえない高揚感が埋め込まれている。このちょっとした二面性が彼らの魅力だと思う。
でも、そうしたサウンドと同じくらい〈一風変わった試みをするユニット〉という印象も強かった。オフィシャルサイトなどで発表される音源、自分たちのスタジオから発信されるラジオ番組など、作品やライヴ以外の窓口でユニットに触れる機会は多かった。たとえば2005年から2006年にかけて、音楽産業に先駆けてダウンロードのみで楽曲をリリースしていった 〈Riverrun〉プロジェクトは〈Drift〉の原型とも言える。
その意味で、〈Drift〉はきわめてアンダーワールドらしいプロジェクトだ。少なくとも、自分の思う〈アンダーワールドらしさ〉を投影してしまいたくなる。アティテュードの面でもそうだし、クールさと高揚が絶妙にミックスされたサウンドの面でも同様だ。未聴の方にもぜひ味わって欲しい、フレッシュさと彼ららしさを兼ね備えたプロジェクトだ。

スタジアム級のテクノ・アクトという責任から解き放たれ、自由な創造性を掴んだ
by 木津毅
僕たちの世代にとってのアンダーワールドは、何と言ってもダニー・ボイルの映画「トレインスポッティング」(96年)、そして“Born Slippy Nuxx”だろう。僕は当時中学生だったので劇場では観ていないが、日本では〈オシャレ映画〉としてわりと数年単位で語り継がれていたため(本当はオシャレどころか、英国におけるドラッグ・カルチャーの悲哀をしたためたものだったのだけど……)、その余波は地方のレンタルビデオ屋なんかでもじゅうぶん感じられた。そして、映画を通じて彼らにとっての永遠のアンセムとともにアンダーワールドに出会うことになった。そういう人はけっこう多いのではないだろうか。
いまから振り返っても、90年代末から21世紀の幕開けの時期のアンダーワールドは、スタジアム級の会場でのステージに立ったりフェスのトリを務めたりするビッグ・テクノ・アクトとしての〈責任〉をみずから引き受けるようなところがあった。トランシーなダンス・サウンドを貫いた『Beaucoup Fish』(99年)もそうだし、極めつけはライヴ・アルバム『Everything, Everything』(2000年)だろう。まさに大会場でのライヴの模様を当時の代表曲の連発とともにそのまま封じこめた同作は、アンダーワールドという存在がもっとも肥大していた時代を切り取ったものだ。彼らはその後、アートへの純粋な欲求と〈責任〉の間で引き裂かれていき、“Born Slippy 2003”ではメロウなピアノの旋律とともにスタジアム・アンセムを一度みずからの手で異化している。
それ以降ももちろんアンダーワールドはビッグ・アクトであり続けたが、しかしこの〈Drift〉シリーズからは彼らが〈責任〉からもはや解放されていることが伝わってくる。アルバムという制約に縛られなくなったことで、〈TOMATO〉※のチームとともにより純粋なマルチメディア・アート・プロジェクトとして自分たちを定義し直しているのである。だから『Drift Series 1』にはたしかにライヴ映えしそうな“Listen To Their No”なども収められているのだが、それはあくまで膨大な楽曲――非常に多面的なサウンド――の一部であって、アンダーワールドの持つ多様な側面はすべて等しく祝福されている。いま彼らが掲げているのは、何よりも創造性における〈自由〉である。

〈RAINBOW2000〉の忘れがたき記憶から辿る、挑戦を繰り返す歩み
by 小野島大
アンダーワールドの初来日公演は94年の新宿リキッドルームだった。“Rez”の大ヒットで一気にテクノ~ダンス・ミュージックの最前線に浮上したころだったが、残念ながら僕はそれを観ていない。初めて観たのはその2年後の96年、富士山麓の遊園地で行われた〈RAINBOW2000〉でのライヴだった。
日本で初めての本格的な野外オールナイト・レイヴということで開催された〈RAINBOW2000〉は、いまや伝説として語り継がれているけれども、なかでもアンダーワールドのライヴは本当に素晴らしかった。4年ぐらい前にカール・ハイドにインタヴューしたらそのときのことをよく覚えていて驚いたが、日本にテクノやダンス・カルチャーが根付くかどうかという時期、ちょうど“Born Slippy Nuxxが”映画「トレインスポッティング」のテーマ曲に起用されて大ヒットしたころで、石野卓球やケンイシイのDJプレイの素晴らしさや細野晴臣の幽玄なアンビエント・セットの気持ち良さと共に、その夜の幸福感は今でも体のどこかに残っている。明け方の気温が低く凍えるような思いをしたことも。
〈RAINBOW2000〉の翌年の97年には〈フジロック〉が始まった。日本に本格的なフェス文化が生まれつつあった。その鍵となるのがダンス・カルチャーのロック・フェス的展開で、日本だったらボアダムスやROVOや電気グルーヴ、そして海外のアーティストだったらアンダーワールドこそがその主役だった。間仕切りのない自由な野外空間で好きにカラダを動かして踊るという文化がロック・リスナーの間で根付こうとしていた。
『Everything, Everything』の舞台となった99年の〈フジロック〉は現在の苗場に移っての最初の年で、とりわけ印象深い。以後も彼らは幾度となく日本で素晴らしいライヴをやっていて、どれも忘れがたい思い出だ。アンダーワールドは僕、いや日本人にとって特別なアーティストである。ダンス・ミュージックが好きで、アンダーワールドが大嫌いなんて奴には会ったことがない。日本人はアンダーワールドが大好きなのだ。
プロジェクト〈Drift〉が始まったとき、その無謀なチャレンジ精神に感服した。言うなれば毎週一回新曲とそのMVを作り発表するわけで、手間暇やお金がかかるだけでなく、彼らが長年培ってきた知識やノウハウや人脈があってこその企画である。〈TOMATO〉のサイモン・テイラーという頼れる相棒がいてこそだし、〈Drift〉プロジェクトの入門編として位置づけられるCD〈Sampler Edition〉の選曲と構成は、アンダーワールドを発掘したレーベル、ジュニア・ボーイズ・オウンのオーナー、スティーヴン・ホールが担当している。
これまで通りCDアルバムを何年かに1枚リリースすれば事足りるものを、あえて自分たちを駆り立てるように新しく困難、というよりは面倒な試みに身を投じてみる。なんでもカール・ハイドが「もうアルバムは作りたくない」と言い出したのが今回のプロジェクトのきっかけとなったようだが、そういう思いきりの良さが彼らにはある。彼らとしては昔ながらのCDアルバムのタイム感ではみずらの創作のモチヴェーションを、もっと言えば欲望を満たせないという思いがあったのだろう。
仲介者を通すことなく、いち早く、即座に、直接的に、リスナーと繋がりたいという欲望だ。いい曲が出たらすぐに発表したい、楽曲が出来上がったら直ちにリスナーと共有したい、と思うのはアーティストなら当然望むことだ。ストリーミング配信というインフラの普及もそれを後押ししたことだろう。アンダーワールドはさらに、楽曲を映像と共に提供することで、より広がりと奥行きをもった表現として提示することができた。
〈Drift〉プロジェクトで発表されているのは、現在までに32曲。自分たちの持てる手駒をすべてさらけ出し、なおかつ新境地を開拓するような意気込みに溢れた多彩な楽曲の数々。最近の彼らとしてはダークでアシッドでアグレッシヴなダンス・トラックが多いのも嬉しい。あたかもアンダーワールドというバンドの歴史を辿ったようでもあり、新しい試みもあり、あるいはこれまで表に出ることのなかった隠された側面があらわになっている感もある。ゲストも多彩で、メルト・バナナの鬼才ギタリスト、AGATAが“Altitude Dub”※に参加したことは嬉しい驚きだった。彼らの人脈の幅広さがうかがえる。
83年にフルーアというニューウエイヴ・バンドでデビュー、アンダーワールドと名を変えて地道に活動を続けたものの、どうにもパッとしない。そのまま消えてしまってもおかしくなかった。結局彼らは90年代になってダレン・エマーソンという若いDJをメンバーに迎えてテクノ~ダンス・ミュージック路線に大胆にシフトして成功を収めた。慣れ親しんだやり方に固執していたら、居心地のいい場所に安住しているだけでは今日のアンダーワールドは決して存在しなかったろう。
彼らはもはやテクノ~ダンス・ミュージックの最前線にはいない。リリースするごとにフロアの様相を一変させ、シーンを塗り替えていくような革新性はもはや望めないだろう。だがそれは彼らが戦う場所を変えたということに過ぎない。あの“Rez”から26年。彼らは依然健在である。