栄誉と引き換えにそれぞれの道を選んだ二人の再会は、いままでになく強固になった絆の揺るぎなさを新たな音楽に変えた。アンダーワールドはそれでも輝かしい未来へと向かう!


解散だけはしないと決めていた

 大反響だった日本でのTV番組出演や、初の〈SUMMER SONIC〉参加発表など、話題に事欠かないアンダーワールド。そんな彼らの7枚目のアルバム『Barbara Barbara, We Face A Shining Future』は、過去のどのオリジナル・アルバムよりも長いインターヴァルを要する作品となった。そもそも2010年に『Barking』をリリースして以降、リック・スミスは2012年にロンドン・オリンピック開会式の音楽監督を務め、ダニー・ボイル監督の映画「トランス」(2013年)のサウンドトラックも担当。一方のカール・ハイドも初のソロ・アルバム『Edgeland』(2013年)を発表し、ブライアン・イーノとのタッグでもアルバム2枚を完成させるなど精力的に活動していた。

UNDERWORLD Barbara Barbara, We Face A Shining Future Smith Hyde/BEAT(2016)

 アンダーワールドとしてもまったく動きがなかったわけではなく、2014~15年にかけては『Dubnobasswithmayheadman』(94年)と『Second Toughest In The Infants』(96年)のリリース20周年を記念したリイシュー・プロジェクトが進行し、それに伴って全曲再現ライヴも行っている。他にもステージでパフォーマンスを共に披露することはあったが、逆にそれ以外の場では意識的に距離を置いていたという。

 「とにかく僕らは休息を必要としていて、他の何かをやる必要があったってこと。やっぱりフラストレーションが溜まるようになってきていたんだよね。互いにアンダーワールドの外に出ることで、それぞれのアイデンティティーを得ようとしていたんだ。こういう離散した状況から大半のバンドが引き出す結論というのは〈解散〉しかなかったりするけど、僕たちはいつだってそれだけはやらないと心に決めていた」(カール・ハイド:以下同)。

 課外活動の成功によって自分たちのクリエイティヴィティーに自信を深めた両者だが、カールはいつも傍らにいたリック不在の穴も徐々に感じはじめたというから、互いの関係性を見直すためにも〈外に出る〉ことは正しかったようだ。そして然るべきタイミングを迎え、2人は惹かれ合うように2014年8月にスタジオ入りしたという。不思議なことに前作から長いブランクを擁した作品にもかかわらず、彼らにしては異例の早さだという14か月の制作期間でリリースへと漕ぎ着けた。

 「これは僕たちが終始スタジオで一緒に顔を突き合わせながら作った、初めてのレコードなんだ。ひとつあったのは〈今回はアンダーワールドを忘れてやってみよう〉ということだったね」というアルバムには、いままでのアンダーワールド作品では表立っていなかった、喜びに満ちた明るいヴァイブが作品全体に通底し、アルバム・タイトルともシンクロするポジティヴな空気がある。しかしその裏には、美談として容易に受け入れ難い、辛い現実も隠されていた。


いまだに〈アルバム〉が大好きだ

 「アルバムのタイトルはリックが聞かせてくれた話から来ていてね。昨年リックは父親を亡くしたんだけど、彼が世を去る少し前に、リックの母親に話しかけているなかで出てきたのがあのフレーズだったそうなんだ。リックの母親の名がバーバラで、つまりリックの父は妻に希望を残そうとしたんだね。彼は希望について話していたし、彼女に〈僕たちは輝かしい未来に向かっているんだよ〉と語りかけていたわけ。で……リックにその話を聞いてすぐに、〈この言葉を自分たちのアルバムのタイトルに使わなければ〉と思った」。

 加えて過去の作品と趣が異なる点として、〈アルバム〉というフォーマットをより意識した内容だということも付け加えておかねばなるまい。多数の外部プロデューサーと共に取り組んだ『Barking』は、メロディアスでエモーショナルな方向性を示しながら曲ごとの完成度を追求していたが、今作の土台は(引き続きハイ・コントラストを共同プロデューサーに起用しているとはいえ)すべてカールとリックの2人が6年越しで辿り着いたアプローチで組み立てられている。その結果ダンス・ミュージックの要素は後退したが、力強くビートを刻む“I Exhale”から始まり、従来通りカールの呪文のようなヴォーカルとスケール感を以て昂揚の頂へと疾走していくダンス・トラック“Low Burn”、オリエンタルなギターの調べが陶酔へ誘うノン・ビートの“Santiago Cuatro”、カールのソロ作とも共鳴するオーガニックで穏やかな“Motorhome”、女性コーラスを配したキラキラと眩く開放感に満ちた“Nylon Strung”など、描かれるサウンドスケープは多彩だ。例えば“Born Slippy”や“Rez”“King Of Snake”のような爆発力こそないものの、聴くほどに味わいを増していくヒプノティックで幻想的なサウンドはアンダーワールドそのもの。今回はそこに統一感ももたらされている。

 「僕たちは〈アルバム〉が大好きだし、僕はいまだにアルバムのファンなんだ。いろんなアーティストがそのアルバムをどんなアート作品として扱っているのか、それを知ることにいまも魅了されているし、アーティストがどうやってマテリアル群をひとつの作品として機能させているか、全体の曲順や組み合わせをどう処理しているかを知るのに夢中なんだよ」。

 一歩踏み誤れば解散もありえたかもしれないアンダーワールド。リックはプライヴェートでの不幸もあり、2人にとっては険しい6年間の道程だったのではないだろうか。しかしカールはそんな自分たちの困難な状況から、不穏なニュースが連日届けられる世界情勢までも引っ括め、常に視線は前を見据えていた。

 「現代というのは人類史上もっとも平和な時代なんだよ。いや、もちろん現代に恐怖は存在するし、不安定な要素はもちろんある。ただ、だからこそ僕たちは物事のポジティヴな面に目を向け、前向きな考え方を鼓舞していかなくちゃいけないんだよ。だからこそ、自分たちの隣人に対して恐怖心を抱くのではなく、彼らとのコミュニケーションをもっと増やしていくように務めないといけないね」。