ダリウス・ミヨー没後40年記念限定ボックスは、メロディの宝庫

 かつてミヨーに師事した別宮貞雄は「Beaucoup de Mélodies!(たくさんのメロディを!)」としょっちゅう言われていたと述べていた。ミヨーの音楽、ちょっと聞くとただ騒がしいようにもおもえるが、そこにはそれぞれの楽器が嬉々としてメロディを奏で、その結果、混沌としてしまっていたりする。それがまた、べつべつの調性だったり、おもいがけない楽器の組み合わせのなか、乱反射をおこし、きらきらと輝く。そしてそれぞれの線はしっかりヒトの息のながさで動く。

VARIOUS ARTISTS 『Une Vie Heureuse - Darius Milhaud 40th Anniversary 10CD BOX』 Erato(2010)

 あれ、今年は?といささか戸惑ったけれど、一応10年ごとでみていくならアニヴァーサリー・イヤーではある。ダリウス・ミヨー、没後40年。その回想録とおなじタイトルを冠し、『幸福だった私の一生』、10枚組。ボックスの裏面には、デュカとダンディに学び、「6人組」の一員となり、合衆国とフランスで教師としても活躍、しかもデイヴ・ブルーベックやバート・バカラックは弟子である、とある(フィル・グラスの名がないのはご愛嬌?)。

 Eratoで録音されたものをこんな機会に集めただけ、などと言うなかれ。いや、言ってもいいけど、ばらばらにリリースされた音源がまとめられたメリットははっきりとある。バレエ/オーケストラ曲、交響曲、ピアノとオーケストラのための作品、その他協奏曲、ピアノ曲、弦楽四重奏、デュオ/トリオ、木管による室内楽、声楽曲、そしてミヨー自作自演と、膨大な作品からよりすぐり。主として有名曲だが、マリンバ/ヴィブラフォンのための協奏曲やオンド・マルトノの組曲といったなかなか聴く機会がない作品があるのはうれしい。演奏はマルグリット・ロン、ロリオ姉妹、エルフェ、パレナン四重奏団といったフランスの往年の名手から、ロストロポーヴィチ、チェリビダッケ、バーンスタイン、ディスカウといった大家、さらにタロー、ルサージュ、アプショウ、デセイまで、1950年代から2010年代にまで及ぶ。

 もしかするとメロディなんて時代遅れ、というところもあるかもしれない。でも、わたしとしてはメロディの宝庫として手元におきたいボックスなのである。