©Ayako Gaullier

〈シャルラン愛〉に満ちるブルノ・ゴリエが名録音をリマスタリング!

 アンドレ・シャルランという伝説的なエンジニアがいた。1903年生まれで、幼い頃はフルート奏者を目指したが、のちに技師として200あまりの特許を取得。映像や音響、自転車のハブダイナモなど、彼のアイディアはさまざまな分野で華開いた。

 LPレコードの登場と共に、シャルランは録音の分野でも存在感を示す。デュクレテ・トムソン、ディスコフィル・フランセ、エラートなどのレーベルで名録音を残した。

 1962年、シャルランは、〈エディション・アンドレ・シャルラン〉を立ち上げる。その優秀な音質もさることながら、珍しい宗教曲などのレパートリーにも強いこだわりを感じさせるレーベルだった。ただ、経営者としての才を発揮できなかったのか、1979年に会社は倒産、多くの原盤が差し押さえに。のちに版権を取り戻したものの、1983年にシャルランは80歳で世を去った。

 シャルラン・レーベルは、いくどかCD化も行われた。なかにはオリジナルとはかけ離れた音質のものも。原盤が失われたため、状態のよくないテープなどから復刻を行ったためだ。

 昨年、リマスタリングによるディスクがリリースされた。ミヨーの自作自演となる管弦楽曲、カンプラの宗教曲の2点だ。

DARIUS MILHAUD, ORCHESTRE DES CHAMPS-ELYSÉES 『ミヨー:屋根の上の牡牛 Op.58、世界の創造 Op.81』 Charlin/キングインターナショナル(2023)

ROGER DELAGE, COLLEGIUM MUSICUM DE STRASBOURG ENSEMBLE 『カンプラ:モテット「主がシオンの繁栄を回復したもうとき」、クリスマス・オラトリオ「われらの主イエス・ キリストの降誕」』 Charlin/キングインターナショナル(2023)

 そのリマスタリングを行ったブルノ・ゴリエ氏によると、会社が倒産したとき、ガサ入れに入った役人によって多くの原盤が手荒に扱われ、破損してしまったものが多いとのこと。シャルラン・レーベルは、日本の代理店トリオ・レコードと提携しており、日本で保管されていたマスター音源を送り返してもらい、CD化に漕ぎ着けたものも多い。

 ゴリエ氏の仕事は、多くの音源を比較し、もっともコンデションのいいものを選び出す。そこから、シャルランがかつて目指した響きを再現する。「シャルランの仕事を保存しようと思っているので、自分で何か手を加えたり、変えようとすることはありません」

 1954年、シャルランはダミーヘッドを用いたバイノーラル録音を発明。鮮明にして自然な音場感をもつワンポイント録音で、一世を風靡した。多くのマイクを立て、それぞれの音をミキシングする録音のほうが効率的とゴリエ氏は言う。しかし、それは失われるものも大きいと。「ワンポイントで録音するには、マイクの位置を厳密に計算しなければなりません。それがうまくいくことで、会場となっている教会の雰囲気までを収録することができるのです」