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COLUMN

VA『前田憲男 マエストロ・ワークス』 五線紙上の魔術師、前田憲男——〈両手で譜面を書く〉多彩神話と人柄が浮かぶ2枚組

五線紙上の魔術師 前田憲男
「両手で譜面を書く」多彩神話と人柄が浮かぶ2枚組

 本稿を受諾し、視聴音源の到着を待つ間、この「編曲の達人」と、2名の故人との接点が(絶対にあったはず、だと)気になって調べてみた。1人は前田より4歳年上で同じく作・編曲家/ピアニストとして大活躍した宮川泰(2006年、75歳で没)。そして2歳年下で前田永眠のほぼ一年後となる今秋10月に亡くなったイラストレーター/エッセイスト/映画監督の和田誠(いずれも享年83歳)。推測は的中した。共に大阪育ちの宮川・前田は「終生のライバル」と互いを認め合い、後者の上京を見送る際、指垢に塗れた板張り版「紙のピアノ」を宮川先輩が進呈される秘話も遺している。名著「ビギン・ザ・ビギン」でも知られる和田との接点は、前田憲男・佐藤允彦・鈴木宏昌の各多重録音ソロ演奏を収めた作品集『ピアニック・ピアニズム』のジャケを和田が描いているが、これらの幅広い憲男交友録に関しては今後も追跡調査を継続したい関心事。じぶん自身は五歩一勇著「シャボン玉ホリデー~スターダストを、もう一度」の取材・文を担った際に宮川本人と、加山雄三20周年記念のツアー目録を編集制作した際にイラスト&コメント依頼で和田本人と接しているが……少年期からブラウン管上のクレジットで見慣れてきた、このマエストロとは一度も面識はなかった。「紙のピアノで」「独学で」と知れば即座に武満徹を連想するが事実、黛敏郎が「アカデミズムとは無縁の天才」と前田の偉業を絶賛した際、並び称したのが武満の名前だったとか。じぶんなどは正直、亡くしてから悔やむ系の超怠慢な取材者の典型例だが、公式HP上の〈山下洋輔氏ご推薦!!JAZZ MANGAの天才くんを紹介〉から4コマ漫画「マエノリくん」を笑読するとそれこそ、(憲男ランドの華麗なアトラクション性を賞味する)お楽しみはこれからだと想う。

VARIOUS ARTISTS 前田憲男 マエストロ・ワークス Columbia(2019)

 彼の偉業を一気に俯瞰できる、この2枚組の話題作『前田憲男 マエストロ・ワークス』。やはり昨秋、本誌にCD評を寄稿した『宮川泰 テレビテーマ・ワールド』と仲良く並べて「宝」としたい。「うん、これは大西部劇のテーマソングだな。これはいいよ、ロマンがあるよ!」とは、デモ段階では曖昧な受諾心だった小林旭が「本チャンの音が出来ました」と、かの“熱き心に”を渡されて初聴きした際の感想だ。芸能生活50周年の同名自伝本、その取材・構成を任された時期に旭邸で直接本人の口から聴いた「憲男マジックの妙」を象徴している関係者談。同じ大瀧詠一との傑作コラボとして、本作では森進一の“冬のリヴィエラ”を堪能できる。耳の戦後史を語る際、絶対外せぬ一級の永久保存盤(講座付き!)がまた一枚編まれた。憲男を聴く会、安すぎる!?

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