アメリカで最初のジャズ・レコードが制作されたのと同時期、日本でもジャズは演奏された記録がある。ただ本当の意味での黎明は戦後占領期にひとつの端があり、アイデンティティを獲得するのは64〜65年、銀座のジャズ喫茶でのこと。そして続き急速な発展を促したのは、65年11月に米修業を終えた渡辺貞夫の帰国翌日の演奏だった。多くのレコード会社が彼のもとへ殺到したが、それに伍して熱心に交渉を続けた小さなオーディオ会社がある。タクト電機だ。ジャズ好きな小野正一郎企画室長が録音部を立ちあげ、大森盛太郎の監修のもと67年2月にマイナーな、しかし日本で唯一ジャズ専門を謳うタクト・レコードは始動。その第1 弾が渡辺の代表作となる『ジャズ&ボッサ』で、これは同年の国内ジャズ・ベスト・アルバムに輝く。

ジョージ大塚トリオ ページ1 [+1] Columbia(2014)

 年末にはシーンを煽動しボサノヴァという新しい音楽種の騎手も担うその渡辺と独占契約を交わし、翌年には日野皓正も専属に加え待望の初リーダー作を放った。世にブームと呼ばれるジャズ熱を巻き上げ、両者ともスターダムへのし上げた功績は何より注目に値しよう。ジョージ大塚菊地雅章鈴木弘杉本喜代志ら新鋭に光を当て、八城一夫菅野邦彦前田憲男宮沢昭穐吉敏子ら中堅にも活眼を配った。ジャズ専門誌と提携し人気上位者によるオールスターズ企画で話題をとると、その意気はメジャーをも凌駕する。マイナーたる機転と大胆さが荒削りながら鋭敏でセンシティヴな若き群像を占有できた理由だったが、その気運はメジャー内レーベルへと浸透し、タクト独占の時代はほんの短期間で終わってしまう。しかしこの短かった和ジャズ激変期の詳細を知るには、結局のところその録音遺産を当たっていくより他ないのである。

 今回リイシューされたピアノ・トリオ盤7作は、いずれも60年代末の空気を生々しく捉えた逸品揃い。ジョージ大塚作品の3枚、八城一夫作品中の1枚は、LP時代にはなかった希少ライヴが追加収録された。

※「Dig Deep Columbia」シリーズ次回作は、向井滋春が75〜84年にコロムビアに残した10作品(6/4発売)。