ようやく録音にこぎつけたユッセン兄弟のバッハ

 ルーカスとアルトゥールのユッセン兄弟がドイツ・グラモフォンから鮮烈なベートーヴェン・アルバムでデビューしたのは2010年のことだった。彼らはデビュー・アルバムの選曲に関し、まったく迷いなくベートーヴェンの作品を選んだ。彼らはドイツ・グラモフォンと契約した最初のオランダ人演奏家である。あれから9年、ふたりは26歳と23歳になり、世界各地で演奏するピアニストに成長。新譜は「いまようやく録音できる時期になった」というJ.S.バッハが登場した。

ARTHUR JUSSEN,LUCAS JUSSEN J.S.バッハ:2台のピアノのための協奏曲第1番、第2番、他 DG/ユニバーサル(2019)

 「前回の来日から3年半が経過し、以前はオランダが活動の中心でしたが、いまは各地でオーケストラと共演し、デュオのみならずソロ作品も演奏しています。バッハは僕たちが昔から愛奏している作曲家で、ようやく録音できるまでに自分たちが成長したと感じています。選曲は、《2台のピアノのための協奏曲》ハ長調とハ短調がまず決まり、そこにコラール集のジェルジュ・クルターグの編曲版を挟み込み、最後はカンタータの編曲版を加えて、みんなが笑顔になるような終わり方をしたいと考えました」

 このアルバムは、2018年5月、2019年5月、同6月と3度に分けてレコーディングされている。

 「共演のオーケストラ、アムステルダム・シンフォニエッタとは、とてもスムーズに録音ができました。彼らは温かな音色が特徴で、僕たちの方向性、表現を的確に理解し、寄り添ってくれました。バッハの2台のピアノのための協奏曲は、そんなに演奏される機会は多くありません。でも、これらの作品はだれがどのパートを弾いているということよりも、全体の流れ、音の繊細さ、透明感、オーケストラとの旋律の掛け合いなどが聴きどころ。そうした面を聴いてほしいですね。でも、コラールは時間がかかりました。ふたりが本当に満足する音になるまで、結構時間を要しました」

 ルーカスはとてもバランスのとれた、知的で繊細で鮮明な音色の持ち主。一方、アルトゥールは生命力あふれるみずみずしい音と、躍動感に富むリズム感が持ち味。そんなふたりは性格的にはかなり異なるものの、本当に仲がよく、ともに補い合っているという。

 「僕たちは〈ピアニストは孤独〉という状態には陥らず、常に一緒ですから友人同士のようにふるまえる。音楽に関しては、お互いに目いっぱい練習し、本番ですべてを出し尽くすという考えに徹しています」

 このバッハは若さがみなぎっているものの、その奥に繊細さと感情を抑制する精神が息づいている。「バッハを美しく弾くにはやりすぎないことが大切」をモットーに、室内楽的な響きでまとめている。国際舞台に飛翔した若きデュオ、来年は世界ツアーが組まれている。