ソウル~R&Bからドラムンベースまで……進化著しいメロウなアーバン・ビートメイカーの新作が登場!

 サウス・ロンドンで生まれ育ったマルチなサウンド・クリエイター、DJのヘクター・プリマーのセカンド・アルバム。2014年にリリースされたジャイルス・ピーターソン選曲によるコンピレーション『Brownswood Bubblers 11』にフィーチャーされ、ジャイルスが設立した財団(スティーヴ・レイド基金)でイノベーション賞を受賞。ジャイルスお気に入りのクリエイターとして注目を集めたが、2017年には初のフル・アルバム『Sunshine』をリリース。本国イギリスでも多くのDJに気に入られるなど、その音楽の魅力が広がりつつある。

HECTOR PLIMMER 『Next To Nothing』 Albert's Favourites/rings(2019)

 そんな彼の新作は、彼の持ち味である静かで緻密なエレクトロニック・サウンドをベースとしながらも、エゴ・エラ・メイやアンドリュー・アションといったソウルフルなシンガーたちをフィーチャーしたことで、よりソウル~R&B寄りの趣が感じられる。ゆらゆらと立ち昇る炎のような、静かな情熱と哀愁を感じさせるエゴ・エラ・メイのヴォーカルがエモーションを掻き立てる“Sonnet 17”や“Before Sunshine”。そして、その息遣いまで聞こえてくるような表現力豊かなヴォーカルが魅力のアンドリュー・アションのフィーチャリング曲“Somebody Else”は、どこかタイラー・ザ・クリエイターのような茶目っ気も感じられる彼の個性が存分に活かされている。

 これら際立ったヴォーカル・トラックはもちろん、静謐な世界観が貫かれたインストゥルメンタルの数々もすこぶる心地よい。全体的にダウンテンポで、どんよりとした冬の曇り空の様でいながら、ところどころにディープハウスやドラムンベース、エレクトロ~ヒップホップなどのダンス・ミュージックの要素が隠し味的に潜んでおり、安易なリスニング・ミュージックに陥っておらず、静かに攻めているのだ。ともかく、一言では言い表せない奥深い魅力をもった一枚と言えそう。