パリ発、シャンソンとフレンチポップの名曲をロマンチックなアコーディオンの調べで
明るく、楽しいサウンドで元気をくれるアコーディオニスト、マニュ・モーガンの最新作は、パリのスタジオ440で録音された。「この数字はピアノのピッチから来ているんじゃないの」とインタヴューでマニュ問いかけてみたら、「そうだよ」と気さくに答えてくれた。そういえば、このアルバムには作曲・アレンジもこなすピアニストのヴァンサン・プレジオーゾが加わった。軽すぎることもなく、重厚すぎもしないピアノの音色が心地よい。
他にもローラン・ドゥラヴォーのベース、パスカル・バジルのドラムス、ジョヴァンニ・アンゴッタのギターがアルバム全体をスウィングさせながら支えている。そして時にリリカルに、または雄弁に語りかけてくるエステラ・コリューダ = ウドのヴァイオリンが楽曲に優雅さを添える。心がうきうきするアレンジを担当したのは、アコーディオニストでもあるエリック・ブーヴェルだ。《アニー・ゼット》ではこの曲の原作者フランソワ・パリジと一緒に演奏している。
このアルバムにはシャンソンやフレンチ・ポップスの名曲が多く収められている。氷上をスケートで滑り出すようにアダモの《サン・トワ・マミー》から始まる。フレエルの《青色のジャヴァ》。セルジュ・ゲンズブールの《ラ・ジャヴァネーズ》。リュシエンヌ・ボワイエがフランス初のディスク大賞を獲得した《聞かせてよ愛の言葉を》。シャルル・トレネが作詞・作曲して歌い、英語歌詞もつけられた《残されし恋には》。エディット・ピアフのレパートリーからは《バラ色の人生》《愛の讃歌》2曲が選ばれた。2018年の来日公演を終えて帰国後まもなく他界したシャルル・アズナヴールの代表曲《ラ・ボエーム》も感慨深い響きがある。
マニュ自身が作曲した《ラブ・ドリーム・イン・パリ》を口ずさみながらパリを歩くのもいいかもしれない。彼が歌詞を書き、エリック・ブーヴェルと曲をつけた《恋するパリで会いましょう》は唯一のヴォーカル・ナンバー。エリックの妻、サンドラがパリの陽気な下町のおかみさんといった風情で歌う。
アコーディオンを歌わせることを心得ているマニュ・モーガン。同時に楽器でリスナーの心を歌わせることにも長けている。彼は言った。「僕はアコーディオンを抱え、心臓の上に当てて弾きます。だから僕の音楽にはハートやフィーリングがこもるんですよ」。
昨年の10月25日、めぐろパーシモン小ホールで開催されたマニュのコンサートに集まった観客は、それを身をもって感じたに違いない。