間違いを許容し合えるような隣人との会話
――真夏さんが音楽活動を通じて実践してきたのは、他者との対話に近いのかもしれないですね。ジャンルや思想、それこそジェンダーもそれぞれ異なることを前提としながら、そこで線引きをせず、どれだけお互いが歩み寄れるかっていう。
「そうですね。確かにその〈みんな違うんだよ〉ということはメッセージとしてあると思う。ただ、そこに世の中がフォーカスしすぎると、自分のメッセージが曲がっちゃうような気もしてて。多様性は素晴らしいし、尊重し合うべき。でも、いまはその多様性という言葉が重荷になっちゃってるというか、そこで心がつぶれかけている人がたくさんいると思うんです」
――真夏さんはそれをどんなときに感じるんですか?
「自分がそれまで培ってきた言葉や価値観って、どんどん再インストールされていくじゃないですか。たとえば、〈好きな異性〉よりも〈好きな人〉と言ったほうがいいよね、みたいな。私はそれって超いいことだと思ってるんです。ただ、その一方で〈うぅ、今日もまた間違えた。もう再インストールできない……〉みたいな気持ちになるのも、またリアルで。そこで心が疲れないためには、間違いを許容し合えるような隣人との会話が大切なんじゃないかなって。そこで思い浮かんだアイコンが、手紙。『ラヴレター』だったんです」
――相手が見えるコミュニケーションが大切なんじゃないかってこと?
「そう。それを比喩的に伝えたかった。だって人生、生きていれば絶対に間違えますから。その間違いを許容する隙間みたいなものが自分の音楽にあるといいなって。 レゲエやヒップホップの隙間を持ったリズムはそういう自分の表現したい部分にもフィットしました。そうやってつくったのが今作なんです」
みんなの心に余白を作りたい
――今作にはボーナス・トラックとして朗読が収録されてますよね。ただ、元々真夏さんのヴォーカリゼーションって、ポエトリー・リーディングと歌が滲み合うような節回しがよく出てくるじゃないですか。会話と歌の境目をなくそうとしているような歌い方というか。
「そういう意識はなかったけど、それいいですね(笑)。私が清志郎が好きなのは、彼の歌は喋っているみたいに聴こえるからなんです。だから、そもそも自分の好きな歌がそうだったっていうのはあるのかもしれないですね。ヒップホップもフォークも、自分はその人となりが伝わってくるような音楽が好きだし、それは自分のルーツでもあるのかもしれない」
――個人的には、朗読よりも歌を聴いてるときの方が、真夏さんとの会話に近い感じがしました。
「わあ、面白い! そういえば私、すこし前に母親とゴスペルを観に行ったんですよ。そしたらもう、涙がでちゃって。まさにあれも喋りながらやってる感じだったし、それこそ自分がやりたいことに近かった。あと、よかったのが、いちばん盛り上がってるときに集金するんですよね(笑)。私はゴスペルのそういうところも好き。綺麗事だけじゃないっていうか。思想も生活もぜんぶ一緒になって、みんな勝手に集まってる感じ。それを目の当たりにしたのは大きかったですね」
――新型コロナウィルスの流行によってライブハウスやクラブに厳しい目が向けられている今、音楽が生活とが切り離されて考えられがちですよね。それを生業としている人たちがいることを、世間は理解していない傾向がある。でも、本来は表現と生活って密接なものだし、真夏さんにはそこを伝えたい気持ちもあるのかなって。
「そう思います。私、ライブでよくコール&レスポンスをよくやるんですよ。私はコール&レスポンスが心底好き。これを自分のスタイルにしたいと思ってるんですけど、まさに私が観たゴスペルはそれと近かったんです」
――コール&レスポンスを自分のものにしたいというのは、どういうことなんだろう?
「だって、人の声が重なる瞬間ってすごくないですか? そこにいちばんのリアルがあるっていうか。一点突破できたと感じられる表現なんですよね。あと、歌詞に依存しない声っていうのも大きいのかもしれない。〈イエー!〉だけで気持ちが伝わるのって、ある意味では言葉を超えたものだと思う。そういう余白があるところが、私は音楽の素晴らしさだと思う。私はみんなの心にそういう余白をつくりたいんです」
LIVE INFORMATION
永原真夏『ラヴレター』リリースツアー2020「ラヴレター漂流記」
2020年4月11日(土) 島根・松江 NU
出演:永原真夏 (バンドセット)/あだち麗三郎(ソロ)/花園余市
DJ:tfcshigematsu/LL DISCO
2020年4月24日(金)大阪・心斎橋 CONPASS
出演:永原真夏(バンドセット)/川本真琴
2020年4月25日(土)名古屋 K.Dハポン
出演:永原真夏(バンドセット)/塩塚モエカ(from羊文学)
2020年5月3日(日)東京・新代田 FEVER
出演:永原真夏(バンドセット)/曽我部恵一/ラブリーサマーちゃん