SEBASTIAN Xの活動休止後、すぐにソロ活動の幕開けを告げた永原真夏。それから1年弱で彼女が完成させたファースト・ミニ・アルバム『バイオロジー』は、生命力の咆哮をそのまま写実するようにエネルギッシュな歌が、SEBASTIAN Xにはなかったブラス・セクションやギターを含む新たなサウンドを纏うことで、不変であると同時に清新な響きを獲得している。冒頭の“リトルタイガー”と“バイオロジー”を続けざまに聴いて、やはり真夏の歌のあり方は揺るぎないものだと痛感するし、そのうえで現在は、SUPER GOOD BANDのアンサンブルと交歓するようにして瑞々しく躍動しているのだとまざまざと感知する。そのSUPER GOOD BANDとは、音源制作とライヴの両方でサポートを務める6人編成のバンド。SEBASTIAN Xのピアノ&キーボーディストであり、真夏が「もはや家族と等しい関係性」とまで言う工藤歩里もメンバーに名を連ねている。いや、むしろSEBASTIAN Xの活動休止が決定したときに「すぐにソロ活動しなよ!」と真夏の背中を押したのは工藤だったという。
「だから、ありり(工藤のニックネーム)にはすごく感謝していて。ただ、ここまですぐにメンバーが決まるとは思ってなかったんです。私、バンドマンの友達がマジで少ないんですよ(笑)。まず、長年のひとつの夢というか、憧れとして、ブラス・セクションと一緒に曲を作ってみたいという思いがあったんです。ドラマーとブラス隊はスカ畑の人たちで、これまでまったく接点がなかった。でも、そのぶん、すっごくシンプルに音楽を共有できるんですよ。これはカッコイイ、これはカッコ悪いというシンプルな判断を下せるのが気持ちいいんですよね。制作もライヴもバンドの音が自分の身体のなかにギュンギュン入ってくる感じです(笑)」。
真夏流のパンク・ロック“平和”からはとにかくストレートなエモーションが放出されていて、中華街をジャンプ・ブルースに乗って行進するような食欲讃歌“唄おうカロリーメイツ”は実に楽しい。そして、いまの永原真夏の歌は大地に両足をつけた場所からつぶさに見つめる風景やそこで覚えた感情こそが真ん中にあるのだ、と確信させる“青い空”、日常の光輝にファンタジーを見い出すラストの“プリズム99%”と続いてこの作品は幕を閉じる。そんな本作に、彼女はなぜ『バイオロジー』=〈生物学〉というタイトルを冠したのか。なんとも〈らしい〉答えが返ってきた。
「〈~学〉って統計をもとに成立しているけど、実際には統計には反映されない少数派もあるんですよね。例えば、ロックでもパンクでもヒップホップでも、私が〈好きだ〉と思う音楽は、〈世の中にとっては優位な存在ではないけど、俺はこうやって生きている!〉ってズバーン!と表現しているものばかりなんですよね。でも、そういう感覚ってアーティストだけではなく、まだ何も持っていない女の子にだってあると思うんです。〈この制服、イヤだ〉とか〈この教科書、嫌い〉とか。いくら小さくても私はそういう感覚に音楽で寄り添いたいし、音楽だったら〈これが私の生物学だ!〉って堂々と差し出せると思ったんです」。
インタヴューの最後には、今後の展開について何やら気になる発言も。やはり彼女は、リスナーを絶え間なくワクワクさせたいと思い続ける歌うたいだ。いよいよ、始まった。新しい永原真夏の季節が。
「『バイオロジー』は私とバンドの肉体を使って作り上げたから、最新の文明の力とは離れた場所にあると思うんですよ。だからこそ、これまでの私のイメージとも近い作品でもあると思うし。でも、次はそれこそあえて文明の力をガッツリ借りて、今作とは対極にあるような作品を制作するのもおもしろいのかなとは思っていて。まだ詳しくは言えないですけど……お楽しみに(笑)!」
永原真夏
2008年2月から2015年4月まで、男女4人組のギターレス・バンドであるSEBASTIAN Xのヴォーカリスト/ソングライターとして活動。コンスタントにリリースを重ねるも、5枚目のミニ・アルバム『こころ』を最後に活動休止。その19日後にソロ・プロジェクトの始動を宣言し、2015年7月にはファーストEP『青い空』を発表する。同時に、フジロッ久(仮)やRYOJI & SKA PUNK ZOMBIESなどのメンバーを擁するサポート・バンドと永原真夏+SUPER GOOD BANDとしてのライヴを開始し、SEBASTIAN Xの工藤歩里とのユニット=音沙汰のステージも重ねる。このたび、本人名義としては初の全国流通盤となるミニ・アルバム『バイオロジー』(we are)をリリース。