永原真夏がミニ・アルバム『ラヴレター』を発表した。2009年にSEBASTIAN Xの一員としてデビューし、2015年にソロ活動を開始。永原はひとりのアーティストとして彼女自身のペースで覚醒していき、今ここに新境地を切り開いた。
昨年に永原は自身のバック・バンド〈SUPER GOOD BAND〉を解散。そして、今回は新たな布陣でレコーディングに臨んでいる。永原の音楽活動を常に支えてきたSEBASTIAN Xの工藤歩里(キーボード)をはじめ、タイジュ(ベース、音の旅crew)、チャック(ドラムス、音の旅crew)、オビナタユウサク(ドラムス、No Gimmick Classics)、柴由佳子(ヴァイオリン、チーナ)が参加したことによって、そのビート感はジャズやヒップホップを包括した、よりクロスオーヴァーなものに。ただ、勿論その軸にあるものは永原が紡ぎ出したメロディーと歌詞であり、そこには彼女が学生時代に洗礼を受けたパンクとロックンロールの影響が貫かれている。
今回は永原真夏というアーティストの音楽的な変遷と、そのなかで一貫してきたものをあらためて確認しながら、『ラヴレター』の全容に迫ってみたい。

もう時代とかどうでもいいな
――SEBASTIAN Xがデビューしてから、真夏さんがソロとして現在に至るまでの約10年間って、音楽シーンはもちろん、音楽の聴き方から業界の在り方に至るまで、とにかく激動しましたよね。真夏さん自身、そんな時代と並走してきた実感があるのでは?
「本当にその通りですね。この10年はまさに過度期で。SEBASTIAN Xは結成当初からいろんな方がまわりにいてくれたおかげで、音楽の業界でやっていく一連の流れを早い段階で学ばせてもらえたんです。言い方はよくないけど、まわりにお膳立てをしてもらったうえで自分たちの表現がやれてたし、ある意味ではそれが前提だった。それに、当時は今ほど個人で発信できるような土台もなかったし。あってもMyspaceとか?」
――Myspaceは革命的でしたよね。
「でしたよね。私が覚えているのは、SEBASTIAN Xで“光のたてがみ”(2011年)
というシングルを出すとき、みんなは配信に対して懐疑的だったなってこと。それがものの3~4年で、ガラッと変わった。そこで私はソロになった時点で〈どうせまた時代は変わっていく。そうなると、私はこのまま泳いではいけないな〉と思ったんです。作品の出し方しかり、なんのお膳立てがなくても作品を作れるようにならないと、私はだめだなって」
――もっとフレキシブルに動けないと、自分が今後も音楽活動を続けていくのは難しいだろうと。
「そう。ただ、今作に関しては〈もう時代とかどうでもいいな〉みたいな感覚もあるんです。自分はそれとは別のものを追求していきたいし、今回の『ラヴレター』がその一歩目の作品になるんじゃないかなって」
――では、今作を配信とアナログ盤の12インチでリリースすることにしたのは、どのような理由で? これもまた時代への意思表示なのかな、と思ったんですが。
「まず、配信は絶対にやる。それこそ私自身もサブスクを毎日使っていますし。12インチに関しては、ジャケットを担当してくれた画家の小磯竜也さんが最高に美しい絵を描いてくれたので、それをほぼ実寸大で伝えたい、というのがまずひとつありました。あと、今回からバンド・メンバーが新しくなって。ベースがレゲエ、ドラムがヒップホップのバンドをしている人なので、リズムが顕著に変わったんですよ。そうなると、このスタイルに合うのはレコードなんじゃないかなって」

――真夏さんが紡ぎたいグルーヴに変化があったということですか?
「軽やかさを表現したいなっていう気持ちはありました。ただ、けっこう言われたんです。メンバーが変わっても大差ないよって。でも、私はバンド・メンバーが変われば絶対に変わると思っていたし、その一方で無理矢理に自分の曲調や歌詞を変えたくはなかった。それでも絶対に今まで作ってきた音楽とは違うものになるはずだと確信を持って作りました」
ソロとして初の作品はSUPER GOOD BANDだった
――今回のリリースに先駆けて、真夏さんは昨年に自身のバックバンド、SUPER GOOD BANDを解散させていましたね。その理由もあらためて教えていただけますか?
「私がソロとしてはじめて作った作品は〈バンド〉だったと思うんです。SUPER GOOD BANDは、4年くらいかけて一個の集合体を仕上げるという、壮大な作品だったなって。それが昨年に『BEΔUTIFUL』というミニ・アルバムを出して、そのツアー・ファイナルが終わったとき、メンバー全員にやり切った感があったというか。ソロで初めて何か作れたなと思えたので、これは新しい門出のタイミングだなと思ったんです」
――楽曲制作のやり方は、プロジェクトによって変化していますか? SEBASTIAN Xの場合は、真夏さんがアカペラでつくった曲を基にして、メンバーがそこにコードやリズム、アレンジをつけていくというやり方でしたよね。
「今も基本的にはそのやり方で作っています。もちろん私も打ち込みの技術を得たり、以前よりも細かい指示を出せるようになったりはしましたけれど、基本的にはずっと変わらず、アカペラから作っています。その作曲方法が色んな場面で通用するように、理論や知識も身につけました」
――メンバーが変われば、バンド内の共通言語も自ずと変わるのでは?
「そうなんですよ。プレイヤー1人ひとりにそれぞれの知性と技術、美意識があるので、そこに通じるような言葉を私も理解していかなきゃいけない。相手の表現を理解できるように努める必要は当然あるし、何よりも私は自分のイメージを壊してくるようなミュージシャンが好きなので(笑)。アカペラから自分の完璧な脳内イメージに近づけていくことはできるんですけど、私が〈これいい曲だな〉と心から思えるものって、やっぱり他者のエッセンスが入っているんですよね」

やっぱりSEBASTIAN Xは、最高のバンド。大好き
――そもそもSEBASTIAN X自体、かなりクセのあるミュージシャンたちの集まりですものね。
「ホントそうですよね(笑)」
――SEBASTIAN Xは今、どんな状況なんですか?
「今は仲良いですよ(笑)。タイミングが合えばやりたいとも思ってます。やっぱりSEBASTIAN Xは特別な存在だし、最高のバンドだと思う。大好き。私たちは男女比も半々だったので、偏ることもなかった」
――ソロとなった現在はいかがですか? ジェンダー間の隔たりを感じるときはある?
「あります。それに、なんだか私もすこしは先輩になったみたいで(笑)。女の子のアーティストから相談を受ける機会が増えたんですよね。私も過剰に女の子扱いをされるのが本当に得意じゃないし、ある部分では、作品でも中性的な表現をしてきたつもりで。ファッションのスタイルとしてかわいいものは好きだけど、メンタリティーとしてはそうじゃないから。でも、たとえばライブハウスの打ち上げ文化って、やっぱり女性は苦労するんですよね。自分は蚊帳の外だなって感じる」
――ただ、SEBASTIAN Xの関係性はそれを感じさせなかったと。
「うん。そこも魅力だったし、なによりSEBASTIAN Xがいちばん大事にしてたのは〈人々の生活〉なんですよね。そこから私たちの表現は始まってる」
――〈人々の生活〉というのは?
「飯食って寝るってことをどれだけ謳歌できるか、ってことかな」

いつも指針となるのはパンク
――元々SEBASTIAN Xはパンクの影響下にあるバンドじゃないですか。今の話はそういう発想からきているように感じました。
「いつも指針になるのはそこです。それは鋲ジャン着るとか、そういう話じゃなくて、パンクを自分の根本として生きていくってこと。今もそれしか考えてないのかもしれない」
――真夏さんが影響を受けたパンク・カルチャーとはどういうものだったのか、あらためて教えてもらえますか。
「元々はブルーハーツが好きで、高校生の頃になると初期パンクに目覚めて〈私はピストルズよりもクラッシュ派なのかも!〉みたいなことが始まりでした。The FuturesとかGauzeみたいな日本のパンクもどんどん好きになって。そういう流れで、おのずと高円寺20000Vとか、吉祥寺WARPとか、いわゆるハードコア/パンク界隈のライブハウスに出るようになったんです。なので、ライブハウスで育まれたんでしょうね。そこで知り合った遊び仲間の影響が大きいと思う」
――そのシーンのどんなところに惹かれたんですか?
「私がよく覚えてるのは、スーツでライブハウスに来たお客さんが、上着を脱いだら鋲ベルト付けてたこと(笑)。〈かっけぇ! こんなの見れるとこ他にないぜ〉と思いましたね。そういうディテールに惹かれたし、そこに音楽を感じたんです。私、パンクのそういうスタイルと音楽性から生き方が溢れてるところが好きなんです」
――演者ではなく、お客さんにそれを感じるっていうところが、真夏さんらしいですね。
「あと、私が出会ったパンクの人たちって学童保育の仕事とかをやってたり、社会について真剣に考えてるんですよね。私が今まで生きてきたなかで、そうした人たちを目の当たりにできる場所がライブハウスだったんです」

お前だけはその真摯さを忘れるなよ
――僕はパンクおおらかさに惹かれるんです。それこそクラッシュとか、めっちゃおおらかじゃないですか。
「クラッシュはマジおおらか過ぎますよね(笑)」
――そういうおおらかさを、僕は真夏さんの音楽にも感じます。あくまでもパンクを起点としながら、異なる要素をどんどん受け入れていくおおらかさがあるし、まさに今作はそういう作品だと思ってて。
「うんうん。実際、ジャンルの垣根を越えるのってそんなに簡単なことじゃないんです。みんなそれぞれの思想があるなかで、軽々しく〈これとこれを混ぜてみました!〉
みたいなことは絶対にできない。たとえば最近、ジャズやってる友達もできたんですけど、やっぱり最初は話がまったく噛み合わないんですよ。でも、そこで〈私はこれだよ〉といえるスピリットをひとつ持っていれば、お互いに分かち合えるものが生まれるんですよね」
――真夏さんにとっては、それがパンクだったと。
「そうですね。私のスピリットは完全にパンク。そのスピリットが確かなものであれば、レゲエの人にもヒップホップの人にも、私の音楽を面白がってもらえると信じてたし、今回はその気持ちだけで挑戦したところはありました。で、最初の話に戻すと、今の私は時代ではなく、そのスピリットにフォーカスを絞りたいんですよね」
――お互いの根本にあるものが理解できれば、信頼関係は築けるはずだと。
「うん。ただ、〈私のスピリットはパンク〉と言えるようになるまでには、やっぱり勇気がいるんです」
――なんとなくわかります。
「ずっと悩み考え、苦しんできたし、負け続けてきたんですよ。〈ああ、私は今日、自分のスピリットに反したな〉みたいなことがしょっちゅうあるし、そうやって掴んでいく音楽だと思う」
――以前に真夏さんは〈私は音楽家としてナメられがちだ〉とも言ってましたよね。
「ウジウジ言ってましたよね(笑)」
――そのあたりの実感は今、いかがですか。
「そういう感覚は以前ほどなくなったかな。多少は自信を持てたのかもしれない。長年一緒にやってきたマネージャーから独立したときは、どうしたらいいかわからなかったけど、それでも続けていくなかで、もうそんなこと言ってられなくなったというか。やっぱり真摯に生きるしかないんですよね。〈ナメられてるとか言ってるから、お前はナメられるんだよ〉みたいな(笑)。別にナメられてもいいから、お前だけはその真摯さを忘れるなよ。今はそう思いますね」

間違いを許容し合えるような隣人との会話
――真夏さんが音楽活動を通じて実践してきたのは、他者との対話に近いのかもしれないですね。ジャンルや思想、それこそジェンダーもそれぞれ異なることを前提としながら、そこで線引きをせず、どれだけお互いが歩み寄れるかっていう。
「そうですね。確かにその〈みんな違うんだよ〉ということはメッセージとしてあると思う。ただ、そこに世の中がフォーカスしすぎると、自分のメッセージが曲がっちゃうような気もしてて。多様性は素晴らしいし、尊重し合うべき。でも、いまはその多様性という言葉が重荷になっちゃってるというか、そこで心がつぶれかけている人がたくさんいると思うんです」
――真夏さんはそれをどんなときに感じるんですか?
「自分がそれまで培ってきた言葉や価値観って、どんどん再インストールされていくじゃないですか。たとえば、〈好きな異性〉よりも〈好きな人〉と言ったほうがいいよね、みたいな。私はそれって超いいことだと思ってるんです。ただ、その一方で〈うぅ、今日もまた間違えた。もう再インストールできない……〉みたいな気持ちになるのも、またリアルで。そこで心が疲れないためには、間違いを許容し合えるような隣人との会話が大切なんじゃないかなって。そこで思い浮かんだアイコンが、手紙。『ラヴレター』だったんです」
――相手が見えるコミュニケーションが大切なんじゃないかってこと?
「そう。それを比喩的に伝えたかった。だって人生、生きていれば絶対に間違えますから。その間違いを許容する隙間みたいなものが自分の音楽にあるといいなって。 レゲエやヒップホップの隙間を持ったリズムはそういう自分の表現したい部分にもフィットしました。そうやってつくったのが今作なんです」
みんなの心に余白を作りたい
――今作にはボーナス・トラックとして朗読が収録されてますよね。ただ、元々真夏さんのヴォーカリゼーションって、ポエトリー・リーディングと歌が滲み合うような節回しがよく出てくるじゃないですか。会話と歌の境目をなくそうとしているような歌い方というか。
「そういう意識はなかったけど、それいいですね(笑)。私が清志郎が好きなのは、彼の歌は喋っているみたいに聴こえるからなんです。だから、そもそも自分の好きな歌がそうだったっていうのはあるのかもしれないですね。ヒップホップもフォークも、自分はその人となりが伝わってくるような音楽が好きだし、それは自分のルーツでもあるのかもしれない」
――個人的には、朗読よりも歌を聴いてるときの方が、真夏さんとの会話に近い感じがしました。
「わあ、面白い! そういえば私、すこし前に母親とゴスペルを観に行ったんですよ。そしたらもう、涙がでちゃって。まさにあれも喋りながらやってる感じだったし、それこそ自分がやりたいことに近かった。あと、よかったのが、いちばん盛り上がってるときに集金するんですよね(笑)。私はゴスペルのそういうところも好き。綺麗事だけじゃないっていうか。思想も生活もぜんぶ一緒になって、みんな勝手に集まってる感じ。それを目の当たりにしたのは大きかったですね」
――新型コロナウィルスの流行によってライブハウスやクラブに厳しい目が向けられている今、音楽が生活とが切り離されて考えられがちですよね。それを生業としている人たちがいることを、世間は理解していない傾向がある。でも、本来は表現と生活って密接なものだし、真夏さんにはそこを伝えたい気持ちもあるのかなって。
「そう思います。私、ライブでよくコール&レスポンスをよくやるんですよ。私はコール&レスポンスが心底好き。これを自分のスタイルにしたいと思ってるんですけど、まさに私が観たゴスペルはそれと近かったんです」
――コール&レスポンスを自分のものにしたいというのは、どういうことなんだろう?
「だって、人の声が重なる瞬間ってすごくないですか? そこにいちばんのリアルがあるっていうか。一点突破できたと感じられる表現なんですよね。あと、歌詞に依存しない声っていうのも大きいのかもしれない。〈イエー!〉だけで気持ちが伝わるのって、ある意味では言葉を超えたものだと思う。そういう余白があるところが、私は音楽の素晴らしさだと思う。私はみんなの心にそういう余白をつくりたいんです」
LIVE INFORMATION
永原真夏『ラヴレター』リリースツアー2020「ラヴレター漂流記」
2020年4月11日(土) 島根・松江 NU
出演:永原真夏 (バンドセット)/あだち麗三郎(ソロ)/花園余市
DJ:tfcshigematsu/LL DISCO
2020年4月24日(金)大阪・心斎橋 CONPASS
出演:永原真夏(バンドセット)/川本真琴
2020年4月25日(土)名古屋 K.Dハポン
出演:永原真夏(バンドセット)/塩塚モエカ(from羊文学)
2020年5月3日(日)東京・新代田 FEVER
出演:永原真夏(バンドセット)/曽我部恵一/ラブリーサマーちゃん