ユカリサは、空気公団の山崎ゆかりの新プロジェクト、ではない。もちろん、ユカリサの発案者は山崎で、空気公団にサポートで参加していた中川理沙(ザ・なつやすみバンド、うつくしきひかり)、吉野友加(tico moon)を誘って結成されたトリオではある。だが、山崎が望み、3人が同意したのは〈積み上げてきたものをゼロにして作る〉サウンドだった。
個性の違う女性ボーカル3声がうねるようにして混ざり合うハーモニーの特異さ、そしてピアノ、ハープ、オルガン、シンセ・ベースなどを中心に限られた楽器の音が織りなすサウンドスケープは、とても静謐。だが、それは息をひそめて鑑賞することを要求されるようなものじゃない。ある意味で、ユカリサという新しい生き物が動き出すさまを見つめ、彼女たちの声と音が作り出す呼吸とこちらの感覚とが一緒に混ざり合っていくようにさえ思える。
ジャケットやアルバム・タイトル、曲の持つ世界観、そして冬の海で撮られたというアーティスト写真が伝えるのは〈水〉のイメージ。生命の起源は海の水の中から生まれたということを自然と思い出した。
水から生まれ、これから始まるユカリサのことを、山崎、中川、吉野の3人に訊いてみよう。

山崎ゆかり、中川理沙、吉野友加――3つの〈声〉がユカリサに集まるまで
――まずは、ユカリサを始めようというアイデアはどなたからだったんですか?
山崎ゆかり「私からでした。中川さんに(空気公団の)サポートをお願いする前から、彼女のピアノがいいなと思ってたんです。それでサポートでの共演を経て、〈なにか一緒にやってみようよ〉って声をかけました」
――最初は山崎さんと中川さん、2人のユニットとして考えていたということですか?
山崎「いえ、もともと(吉野)友加さんも加えた3人にしたいと思ってました。tico moonは演奏も素敵だし、友加さんの歌声もいいし、ぜんぜん違う歌声の3人が集まったらいいだろうなと思いました」
――2人(中川、吉野)は、山崎さんからの誘いを受けて、どう思いました?
中川理沙「〈やったー、うれしい〉(笑)。空気公団のサポートをさせてもらって、ゆかりさんと一緒にハモりをするのが自分にとってすごく自然というか、自分の声もゆかりさんの声もよく聴こえるんだけど、溶けて一つになっているような不思議な心地がして、〈なんかすごいな〉と感動したんです。
空気公団のサポートでtico moonとも一緒になって、そのとき初めて友加さんとはお会いしました。初めて友加さんと一緒に音を出してすぐに大好きになったから、2人と一緒にやれるのはすごくうれしいなと思ったし、すごく自然なことのような気もしました」
吉野友加「私もユカリサを3人でやってみないか、ってゆかりさんから言ってもらったとき、〈楽しそうだな〉って思って、すぐに〈ぜひ!〉って答えました」
山崎「この3人は各々に母体があるんです。それぞれのバンドではできない音楽性というか、自分の表し方もある。そういうことがこの3人で集まれば、すごくシンプルにやれそうな気がするというのが(声をかけた)第一の理由でした。
ヴォーカルが3人いるから、アルバムを聴いても入れ替わり立ち替わりいろんな声があって面白い。だけど、ユカリサとして一本まっすぐ中心に線があるような感じに見えそうだなとも思いました」
どんどん引いていって、いちばん重要なところが重なってアルバムになるのが理想
――楽器の編成もミニマムだけど、すごくうまくそれぞれの個性がハマったなと感じます。
山崎「そうですね。極力、音を投げ込まない。自分たちにできることは限られてるけど、それを集めたらどんな音楽になるんだろう。それをもっと引いていって、このかたちになるというのがいいなと思います。
もともと〈引く〉ことは好きなんです。どんどん引いていって、いちばん重要なところはどこなのかを知り、それがダルマみたいに重なっていって一枚のアルバムになるというのが理想です」
――声だけじゃなく、楽器の音自体も重なり合って交差して変わっていく感じがして。
吉野「ピアノとハープって似てるようでぜんぜん違ってるんですけど、理沙さんの弾くピアノは私のハープとすごく近い気がしてます。ぶつかり合ったりしなくてすごく気持ちよく聴けるんです。それは理沙さんのピアノだから大丈夫なんだろうなと思ってます。
ゆかりさんもベースとか、シンセでちょっと弦っぽい伸びていく音を重ねてくれて、それで広がりがあって気持ちいいという感じにいつもなります」

ユカリサの自由さと新鮮さ
――中川さんはザ・なつやすみバンドがあって、うつくしきひかりもあって、このユカリサが正式に加入したユニットとしては3つ目になります。他の2つに比べて感じてるユカリサの面白さというのは?
中川「全部編成が違うから、面白いです。出来たばかりでまだバンドのイメージもない分(ユカリサなら)自由になんでもできるかなって。
私が今回出した2曲(“みずうみ”“声のしずく”)はもともとソロで歌っていた曲で、バンドでやるのは違うし、行き場のない曲だったんですよ。だけど、ユカリサでやってみたらいいかもしれないと思ったんです。2人に歌ってもらったし、いつも自分がひとりでやってる感じとはぜんぜん違うものになってよかった」
吉野「tico moonでは、ほとんど私は歌ってないんです。たまに数曲は歌うことがあるんですけど、本気で歌をやろうと思ってやっていたわけではなく、ハープがメインという感じだったんです。
ユカリサにもハープで誘われていて、歌わなくちゃいけないとは思ってなかった(笑)。でも、歌うということがわかってから、〈もうちょっとしっかりしなくちゃいけないな〉って気持ちになりました。そこがいちばん新しいことですね。
コーラスもあるし、歌わないでいる曲があんまりない感じ。それは初めてのことです。何回かユカリサでライブをしたときも、一本のライブを通して歌ったので、これまでとはだいぶ違います」
――最初、吉野さんはハープだけで誘われたんですか?
吉野「いえ、3人でなにかやりませんかという感じで、特に詳しい要望があったわけではなかったので、私が勝手にハープで誘われたと思ってただけなんです(笑)」
中川「私もそう。メイン・ヴォーカルはゆかりさんで、私はピアノとコーラスだと思ってました。でも、やってみたら〈私もリードを歌うんだな〉って思ったし、2人が歌ってくれるから私がコーラスだけのときもあるし、それは確かに新鮮です」
〈お花をバトンタッチする〉ような不思議なコーラス・ワーク
――3人が均等に、というか、それぞれがリードもありコーラスもありで、役目を入れ替わりながら演奏してる感じの面白さがありますよね。
山崎「そうですね。それは新しい気がします」
吉野「特に決まってない感じで自由があって」
山崎「友加さんはいちばん高音が出て、中川さんは幅広い音域が出せて、私は下なので、そこのバランスはすごくいいんです。だけど、その人に〈ここまで高いところに届いたから、そのままやってて〉みたいに指示するのは違う。昔、学校の先生にコーラスを習ったとき、〈ひとりひとりに花を持たせる瞬間が欲しい〉って言われたことを意識してます。
だから、(決まった音域で)すごいきれいなハーモニーを作ることは可能だけど、そうじゃなくて低いところを歌ってた人が高いところにきて、高かった人が中音を歌ったりするのもすごく美しいし、これも新しいという気がしてます。その交差する瞬間にお花をバトンタッチしてるように聴こえるのかな、と考えてます。
中川さんからも最初に〈このパートって、ずっと上じゃないんですね? この人、すごく(音域が)動いて難しいんですよ〉って言われました」
中川「全員、動いてますよね(笑)」
吉野「“musuitai”も、誰がどこを歌ってるのかぜんぜん把握してないし、自分の声もよくわからないから。本当に不思議な感覚なんです。聴いててもそうだし、歌っててもよくわからないけど、すごくきれいだなって思います」
〈積み上げてきたものを一回ゼロにする〉という挑戦
山崎「バンドって、この人がドラム、この人がベースって決まってるじゃないですか。メンバーがいると、その人のことを考えますよね。その人のよさとか、〈こういうことをやってくれるかな?〉みたいなこと。
だけど、ユカリサはそういうのはまだなにも感じないところでやってるので、自由ですね。そのうちそういう壁にぶち当たるかもしれないけど。〈あ、ここまでは歌えないのか〉とか(笑)」
中川&吉野「マジかー(笑)」
山崎「やっぱり3人ともすでにデビューしてるじゃないですか。そのなかでまた新しくデビューするわけだし。ファースト・アルバムって、いろんなものが詰まってると思うんですよ、どのバンドでも。その感じを絶対に残したい。
〈これまで積み上げてきたものを出してほしい〉じゃないんです。〈初めて弾くぞ〉っていう感じ。録音する時に、そういうことは2人にも言いました」
吉野「録音の初日、私と中川さんでハープとピアノを録るいちばん最初にゆかりさんがトークバックで、いまおっしゃったようなことを言われましたね」
山崎「帳消しにするのって難しいんですよ。積み上げてきたものをゼロに一回して作るのは挑戦でもあったと思うし、そこで新しいものも入り込んだ気がします」
〈ユカリサ語〉で歌われる“musuitai”
――そういう意味で、アルバムの1曲目である“musuitai”は象徴的ですね。〈ユカリサ語〉というんでしょうか、日本語から意味を取り払ったような歌詞で歌われていて。
山崎「そうですね。マスタリングのときに思ったんですよ。“musuitai”ってユカリサにいざなう曲で、この曲だけ録音も先にしたんです。ユカリサってこういう感じになるんだということを、3人ともあの曲で漠然と思った」
――3人の声がどんどん移り変わっていく曲の構成も象徴的ですしね。でも、やっぱりこの言葉ですよね。ハミングでもスキャットでもない。言葉はあるけど意味はない。部分的に意味を感じられる瞬間もあるけど、意味も移り変わっていく。
中川「いい曲だし、英語とか日本語とかよりも私にとっては発音しやすくて、すぐに覚えられたからすごいなと思いました。3声でずっとハモりっぱなしなんですけど、ひとりひとりがすごく高いところにも低いところにも行ったりして交差するのが面白かったです」
吉野「本当に、ユカリサってこの感じだなっていうのを曲で教えてくれました。いまも〈ユカリサはこういうのだ〉って完全にわかってるわけではないし、みんな感じてることは違うかもしれないけど。
“musuitai”をそれぞれが歌って演奏してみることで感じるものがすごくあって、ひとつのものを作り出していく感じがしました」
――正解がなくていい感じというか、それぞれの“musuitai”をすり合わせて近づけたりもしない。ハモりの順列もどんどん変わるし、ちゃんと聴けば聴くほどびっくりするんですけど、聴き終えると不思議な気持ち良さが残りますね。
山崎「〈ムスイタイ〉って単語も世界にないんです。だけど、中川さんが〈タイ~〉って歌うのは、〈なんか、すごくイントネーションがいい!〉って感じたし。友加さんもすごく発音が綺麗だって思うし。そこに自分のなかにあるなにかの要素が交わってる瞬間が見えるのかな」

全員が曲に参加しなくてもいい
――“musuitai”からスタートしたとして、その次にアルバムの骨格を担っていった曲というのは、どれですか?
山崎「最初は、それぞれの曲を持ち寄った感じだったんですけど、最後の“WATER”は〈3人で作りましょう〉って言ってはじめたんだけど、私が脱落しました」
吉野「脱落したというより、私が冒頭を作って、理沙さんがその先を作ったんですけど、その理沙さんのパーツがすごすぎて」
山崎「もう完結してたんだよね」
吉野「本当はそこから言葉や歌を乗せてと考えてたんですが、〈なんにもいらないね〉という話になったんです」
――そこはさっき山崎さんが言っていた〈引く〉という意味でもあるんでしょうか。必要がない要素を足す必要がないという判断ですが。
山崎「よく言えば、そうですね。でも、グループとかバンドって、全員が曲に参加しなくてもいいんじゃないかとも思うんです」
ユカリサ流のシンプルさで奏でたNegicco・Kaedeへの提供曲“飛花落葉”
――3曲目“飛花落葉”はNegiccoのKaedeさんのソロに山崎さんが提供した曲のセルフ・カヴァーになりますが。
山崎「中川さんに歌ってもらったらどうなるのかなと考えました。Kaedeさんのヴァージョンはすごく豪華なアレンジですけど、ユカリサ流のシンプルさでやったのを聴いてみたかった」
――7曲目“浜辺にて”も、吉野さんの曲に山崎さんが歌詞をつけているという意味で、ユカリサとしての関係性が見える曲です。山崎さんが吉野さんに曲を依頼したんですか?
吉野「私が勝手に書きました」
山崎「〈これに言葉があるといい〉って言われたのかな? それで私が詞を書いた」
吉野「なんか一曲作りたいなと思って。このアー写は1年くらい前に海でとったんですけど、そのときの印象がすごく残ってたんです。その日の海とか空とか。そういうイメージで初めてピアノで作りました。普段はハープでしか曲を作らないんですけど」
――そうか、そこにも〈初めて〉があったんですね。そして、9曲目“いらない”も印象に残ります。アルバム中、もっともポップな曲です。
山崎「ユカリサにできることの上と下、見せること聴かせられることの範囲の上と下があるとして、“いらない”は“musuitai”の対極で、〈こういうこともできるよね〉っていう曲だと思います。
これほど歌詞がはっきりしてる曲も、それぞれのバンドにはないと思う。しかも、言葉としてはそこにあるけど、見えてるものはそれぞれ違う。すごく簡単な言葉で書いて、答えはそれぞれのなかで違っていていい。そういう意識が出てる曲だと思います」

これからユカリサに塗り重ねられていく〈色〉
――そこも“musuitai”で意識したことにつながっているかもしれませんね。ちなみに、ユカリサが、なんとなくモデルにしている音楽はあるんですか?
山崎「ないですね、特には。この3人でできることをやりたいなと思ってるだけです」
吉野「特に〈こうだ〉みたいなものはなかったですね。でも3人でやったら楽しいからなにかはできるだろう、っていう感覚でした」
――むしろ、アルバム・タイトルにもなっている水のイメージとかですかね。
山崎「うーん。水のイメージというか、最後の“WATER”で、〈それってなに?〉って訊いてるセリフがあるんですけど、私のなかではその答えは〈WATER〉なんですね。やっぱり人を作ってる必要なものだから〈WATER〉にしたいと思いました。
アー写を最初に撮った時点で曲もぜんぜんなかったので、そういうのもあったかな。この写真が自分にとってのひとつのヒントというか、ユカリサを作っていくうえでの枠になりました。
これがなかったらイメージが無限大になってしまって、無限大だとつまらなくなってしまうので。ちょっとした囲いがあったほうが、そこからあふれ出る感じがあって面白いかな」
中川「私も、“musuitai”を聴いたときに水のイメージがあったんです。“みずうみ”“声のしずく”も、たまたま水のことを考えながら作った曲でした」
――“musuitai”は〈無水帯〉と頭のなかで漢字を当てはめて考えることもできるし、そういう意味でも水のイメージは関わってるんでしょうね。
山崎「まずここで『WATER』というアルバムを出すことで、自分たちのなかで一色が敷かれた感じで。その上にどういう色が重ねられていくのかは、このアルバムのライブをしていくことで、また見えるものが違ってくるだろうという気がしてます」
LIVE INFORMATION
ユカリサ『WATER』Release Live
2020年4月25日(土)埼玉・川口 senkiya ※中止
いつもユカリサを応援していただきまして、誠にありがとうございます。
2020年4月25日(土)埼玉senkiyaにて予定しておりました『WATER』Release Liveですが、この度の新型コロナウイルスの感染拡大の影響を踏まえ、実施は難しいと判断しまして、今回の公演を中止させて頂くことになりました。
本公演を楽しみにしていただいておりましたお客様には、大変ご迷惑お掛け致します。
また、このようなご案内となりましたことを心よりお詫び申し上げます。
本公演をご予約されておりましたお客様につきましては、取り消しとさせていただきますのでご了承ください。
またこの状況が終息され、平穏が戻りましたら、改めてsenkiyaさんでのユカリサLIVEを開催できたらと考えております。
どうぞよろしくお願い致します。
2020年5月14日(木)京都 磔磔
開場/開演:18:30/19:30
前売り/当日:4,000円/4,500円(いずれもドリンク代別)
ご予約:チケットぴあ(Pコード:177177)/e+/磔磔(メール予約)
2020年6月18日(木)東京・渋谷 WWW
開場/開演:19:00/19:30
ゲスト:須田洋次郎(ミツメ)
前売り/当日:4,500円/5,000円(いずれもドリンク代別)
ご予約:チケットぴあ(Pコード:177-446)/チケットぴあ電話予約(0570-02-9999)/ローソンチケット(Lコード:73244)/e+
※会場には一部座席のご用意がございます。数が限られておりますので予めご了承ください
※各公演について今後、変更の可能性がございます。詳しくはユカリサのオフィシャルサイトをご確認ください
