(左から)ポニーのヒサミツ、中川理沙
 

ポニーのヒサミツが11月にリリースした4作目のフルアルバム『Portable Exotica』が、じわじわと聴かれ続けている。元シャムキャッツのメンバーが主宰するTETRA RECORDSからのリリースという心機一転の作品でもあるし、9月に配信リリースされたシングル曲“タイフーン・マンボ”の時点から〈今度のポニーのヒサミツはいい感じだ〉という声が僕にも聞こえてきていた。

実際、アルバムが醸し出す感覚はとてもいい。コロナ禍で海外旅行が禁じられた現況だから余計に異郷が恋しいという思いも反映されているのかもしれない。普段の暮らしと異世界がすんなり同居した世界観と穏やかな頑固さにも感じるところが大きい。細野晴臣『トロピカル・ダンディー』(75年)や高田渡『Fishin’ On Sunday』(76年)といったシンガーソングライター・マインドがちゃんとあるジャパニーズエキゾの名作を起点とした系譜に、このアルバムも連なる作品なんだなと納得できるのだ。

ポニーのヒサミツの私生活面において、2019年12月に中川理沙(ザ・なつやすみバンド/うつくしきひかり/ユカリサ)とミュージシャン同士で結婚したというのも大きな変化だ。突然の報告に驚きこそあれ、二人が同世代であり、音楽活動のペースや作品の性格などに共通点が多いことを間近で見ていた人たちには、自然ななりゆきと思えた気もする。二人が夫婦として歩み出したことで生まれた変化。いろんなものが大きく変化したこの2年の世の中ではそれはささいな出来事に過ぎないのだろうが、パートナーを得たことでの刺激や安息がポニーのヒサミツの新作に与えた影響は、決して小さくないはず。

今回の取材では、彼ら夫妻に、アルバム『Portable Exotica』について、二人の生活と音楽の関係について話を訊いた。

ポニーのヒサミツ 『Portable Exotica』 TETRA(2021)

カントリー、ポール・マッカートニー、エキゾチカ

――ポニーのヒサミツの4枚目のアルバム『Portable Exotica』、ゆったりとしたエキゾアルバムで、すごくいいですね。

ポニーのヒサミツ「ファーストアルバム『休日のレコード』(2013年)を出したあと、この先やりたいことをなんとなく考えていたんです。それが、カントリーと、ポール・マッカートニーと、エキゾチカ。セカンドの『The Peanut Vendors』(2018年)を出す頃は、メンバーと一緒にライブするのが楽しかったので、その流れでカントリーをやりました。次のサードアルバム『Pのミューザック』(2020年)は、宅録でポール・マッカートニー。その順番で作っていって、まだやってなかったのがエキゾチカだったので、今回『Portable Exotica』の着地点になりました」

――なんと三部作だったとは。しかも、初志貫徹だったんですね。

ポニー「そうですね。今回のアルバムまでが、前からやりたいことだったんです。でも、カントリー、ポールを通過したからこそ今回のアルバムが出来た、って部分はあります。やった順番はたまたまでしたけど、その順番も大事だったと思います」

――とはいえ新作では、コロナ禍でどこにも行けない状況と架空の楽園を夢見る思いが、エキゾチカ的な表現に絶妙に重なっています。

ポニー「〈この時期に作りたいな〉となったのはちょうどいいタイミングだったのかもしれないですね」

――1曲目の“ごあんない”が短い弾き語りですよね。高田渡の『ごあいさつ』(71年)とか細野晴臣の『HOSONO HOUSE』(73年)っぽいといえばそうなんですけど、歌詞の面ではコロナ禍の思いがわりと直接的に託されてるとも感じました。

ポニー「この曲は最後に出来たんです。最初はこれ以外の全10曲で出そうと思ってたんですけど、今回のリリース元になったTETRAの大塚(智之)くん、藤村(頼正)くんとリモート会議をしているときに、藤村くんに〈このアルバムは弾き語りで始まったら面白いんじゃない?〉って言われて。その意見には僕もうなずけるところがあったので、翌日くらいに曲を作って入れたんです。なので、アルバムのなかではいちばん歌詞にコロナの影響が反映されています」

『Portable Exotica』収録曲“ごあんない”