ライブでより強く感じるフィジカルなグルーヴ

ウィリアムスが先駆けて2020年2月にリリースしたライブ・アルバム『Live At Dekmantel Festival』は、本作とバンド・メンバーが共通している(ウィリアムス、リック・ジェイムス、グレッグ・ポール、クイン・メイソンの4名)。『Wu Hen』のはしばしに感じられるエネルギッシュな躍動がむき出しに味わえるパフォーマンスだ。

カマール・ウィリアムスの〈Dekmantel Festival 2019〉でのライブ映像

カマール・ウィリアムスの2020年のライブ・アルバム『Live At Dekmantel Festival』

ポールのドラムに関して言えば、『Live At Dekmantel Festival』ではサンプリング・パッドを用いたエレクトロニックなサウンドを要所にとりいれ、808のスネアやロールするハイハットなど現代的なベース/ビート・ミュージックへの参照も感じられる。しかし、その根幹に、ここまで述べてきたようなフィジカルなグルーヴがあることは一貫している。加えて言えば、『Wu Hen』ではむしろスムースな印象のあるクイン・メイソンのサックスがパーカッションのように響く瞬間も多く興味深い。

 

スピリチュアルな世界からストリートへ――『Wu Hen』が描くストーリー

改めて『Wu Hen』に戻ると、アルバムはダンサブルな4つ打ち2曲を経て、ローレン・フェイスをフィーチャーした“Hold On”、ウィリアムスのキーボードとメイソンのサックスが向き合う“Early Prayer”で締めくくられる。浮遊感に満ち、ほろ苦くもメロウな味わいを残す“Early Prayer”は、スピリチュアルな世界を垣間見せつつ、現実のストリートへとリスナーを軟着陸させるようでもある。

ビートレスな楽曲でアルバムを締めくくる点は前作『The Return』とも共通するが、サウンドのチョイスにウィリアムス自身や彼をとりまく環境の変化をおもわず聴き取ってしまう。よりやわらかく、おぼろげな――それはメイソンのサックスに導かれてのことかもしれない。今後しばらくは本作のバンド・メンバーで活動する計画とのこと。状況が許せば、ぜひパフォーマンスを見てみたいところだ。

※本文中で引用したウィリアムスの発言はオフィシャル・インタビューより引用した

『Wu Hen』収録曲“Hold On”