KinKi Kidsの堂本剛によるソロ・プロジェクト〈ENDRECHERI(エンドリケリー)〉。そのニュー・アルバム『LOVE FADERS』のリリースと同時に、過去作品(『HYBRID FUNK』『one more purple funk... -硬命 katana-』『NARALIEN』)がSpotifyやApple Musicなどの配信サーヴィスで解禁された。それについては先日、こちらの記事で詳しく書いた次第だ。

続報をお伝えすると、さらに〈美 我 空(びがく)〉(2009年)から〈SHAMANIPPON(シャーマニッポン)〉(2011~2016年)までの10作品、全82曲が、7月15日(水)に追加で解禁されるとのこと! このまま〈ENDLICHERI☆ENDLICHERI〉などの楽曲も解禁されるとうれしい。

全作品を聴いてきているファンには関係ないことかもしれないが、多岐にわたる堂本の音楽プロジェクトは(私のような〈にわか〉にとっては特に)複雑に見える。しかし、ディスコグラフィーの全体が配信サーヴィス上でカタログとしてまとめられれば、ミュージシャン・堂本が辿ってきた音楽の旅路を今一度振り返り、その全体図を描けるようになるだろう。また、全世界のリスナーに向けて堂本の音楽家としての全体像が提示される意義も大きいはず。

さて。ENDRECHERIとしてのサード・アルバム『LOVE FADERS』は、前作『NARALIEN』(2019年)から約10か月という短いスパンで届けられた。その制作ペースはENDRECHERIとしての活動の充実ぶりを伝える。そして今回もやはり、堂本らしい〈ファンク〉を究めた内容になっている。

アルバム・タイトルの〈FADERS〉とは、どうやらミキシング・コンソールの〈フェーダー〉のことで、〈宇宙、そして地球や様々な惑星たちと愛のフェーダー(ボリューム)をあげよう!〉というコンセプトを表しているのだとか。前述の記事にも書いたように、堂本のファンクとはすなわち〈多種多様の異なるものや人々が繋がり合うための音楽〉であるように思う。ジャケットに見て取れるように、本作では愛をもって繋がろうとする範囲が、宇宙にまで及んでいるのではないか。〈One Nation Under A Groove〉ならぬ〈One 宇宙 Under A Groove〉というか……。

〈奈良〉というルーツに立ち返ったこともあったためか、『NARALIEN』には削ぎ落とされたストイシズムがあった(とはいえ、〈LIEN〉の部分は〈ALIEN=エイリアン〉なのだが)。どこか内省的かつヘヴィーな趣もあった前作に比べて、本作(の特に前半)はとにかくピースフルで開放的。ファンクの楽しさが全宇宙に向けて開かれ、どばっとあふれ出している。前作がスライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動(There’s a Riot Goin’ On)』であったなら、本作はパーラメントの『Mothership Connection』?

それゆえに、アナログ・シンセサイザー風の電子音が飛び回るスペ―シーな“FUNK 一途 BEASTS”は、『LOVE FADERS』のコンセプトをはっきりと打ち出している。ここでは、〈平和を歌おう〉と直接的なメッセージが歌われるのだ(歌詞について言うと、英語の〈it〉を日本語の〈一途〉とするワード・センスも、堂本らしい唯一無二の感覚)。そして、ファンクを得意とする白根佳尚による手数の多いドラミングと、R&B系のシンガーと組むことが多い鈴木渉の地を這うようなベース・プレイ――2人が生むファンク・グルーヴは、とにかく力強い。

続く“CREPE”は、Pファンク風のファンキー・ホーンが楽しい一曲。最小限のミニマルな歌詞で食べ物と官能的なイメージを繋げ、扇情的なムードで聴き手に届けるあたりは、やはり堂本らしい(その次のザップ風ブギー“MIX JUICE”も同様だ)。

そのようにして、これまでどおり往年のファンク・ミュージックへの敬愛を垣間見せつつ、独自の〈ファンク道〉を往く堂本ではあるが、一方で音楽的な野心をむき出しにした実験的な楽曲もある。

たとえば、まるでクラフトワークのようなエレクトロニック・サウンドやロボ声による“Kun Kun Yeah! ~Muscle Commander~”には、いきなりトラップのビートが差し挟まれる(そういえば、80年代風の“Everybody say love”でもトラップ・ビートが聴けた)。また、“AGE DRUNKER”ではノイジーな電子音と過剰なエディットが生演奏のグルーヴと一体化している。こういった〈ハイブリッド・ファンク〉は、堂本という音楽家ならではのものだろう。

アルバムのエンディングを飾る“Oh...”と“あなたへ生まれ変われる今日を”は、ファンクから離れたサウンドだ。中心に据えられているのは、堂本の歌と粘度の高い歌謡曲的なメロディー。2曲ともピアノの響きが印象的で、特に60年代のアメリカン・ポップ/リズム・アンド・ブルース調のオーセンティックなアレンジで聴かせる“あなたへ生まれ変われる今日を”は、なんとも感動的だ(本作はほぼ全曲が堂本とGakushiによる編曲だが、この2曲は堂本と十川ともじによるアレンジ)。

“あなたへ生まれ変われる今日を”の歌詞は、なんだか示唆的である。もちろん、何を歌ったものなのかは堂本のみぞ知るところ。しかし、〈あなたを傷つけてばかり〉の〈馬鹿〉で〈弱い僕ら〉とは人類で、〈僕〉が憧れる神々しい〈あなた〉とは母なる地球、あるいはそれを抱擁する宇宙であるかのように思える。

ところで、最近読んだ劉慈欣のSF小説「三体II 黒暗森林」では、地球の出来事なんて宇宙規模で見ればほんの些細なことだ、ということが繰り返し語られていた。しかし人類は、些末なことにこだわって宇宙規模の危機に対処できない。結末は人類の〈愛〉に深く関わっているものの、読んでいる間は〈木を見て森を見ず〉な人類の愚かしさばかりが気になった。もとは2008年に書かれた本であるのに、まるで2020年の世界/社会を描いているかのように思えた。

“あなたへ生まれ変われる今日を”で締め括られ、宇宙規模の愛を歌うENDRECHERIの『LOVE FADERS』も、「三体」と似たことをテーマにしているように思えてならない。いまこの世界にあるさまざまな問題は、宇宙規模で見れば大したことのないもの。それなのに、どうして争いや差別はなくならないのだろうか。それらを乗り越えるために、いまこそ宇宙規模の想像力でもって愛のフェーダーを上げよう――ENDRECHERIは、『LOVE FADERS』でそんなことを歌っているかのようだ。