ENDRECHERIの過去3作品が配信開始

KinKi Kidsの堂本剛によるソロ・プロジェクト〈ENDRECHERI(エンドリケリー)〉が、本日6月17日にニュー・アルバム『LOVE FADERS』をリリースした。これを記念して、過去の3作品――『HYBRID FUNK』『one more purple funk... -硬命 katana-』『NARALIEN』の配信がストリーミング・サーヴィスなどで始まっている。これまでENDRECHERIの音楽に触れてこなかった音楽ファンにも聴く機会が広がる、とても喜ばしい試みだろう。

正直に申し上げると、恥ずかしながら私は『LOVE FADERS』をまだ聴けていない。とはいえ、国内外のSpotifyやApple MusicなどのユーザーにENDRECHERIの音楽が開かれたということで、今回はこの配信解禁の意義や上記3作の音楽性を振り返ってみたいと思う。

 

フェス出演とサブスク解禁に感じる〈より多くの聴き手に音楽を届けたい〉という思い

ご存じのとおり、堂本は〈ENDLICHERI☆ENDLICHERI〉や〈美 我 空〉〈剛 紫〉などなど、さまざまなアーティスト名とプロジェクト名を持っている。その全貌や詳細を紐解く作業は識者による別稿に譲るとして……。現在、堂本の主な活動名義となっている〈ENDRECHERI〉は、彼がシンガー・ソングライターとして活動を開始して15周年の節目に立ちあげたプロジェクトだという(ENDLICHERI☆ENDLICHERIの再始動、という見方をするファンもいるようだ)。

ENDRECHERIとしての活動でまず気になっているのは、フェスへの出演を熱心に行っていること。特に〈SUMMER SONIC〉には2018年、2019年と連続出場を果たしている(2017年は、残念ながら突発性難聴のために出演が見送られた)。そこで初めてパフォーマンスを観た者の多くが驚愕して、SNSで大きな話題になる、という光景は何度も見られた。

ENDRECHERIが〈SUMMER SONIC〉や〈イナズマロックフェス〉のような大規模フェスに出演するのは、〈堂本剛のファン〉のみならず、より多くの聴き手に自身の音楽を届けたい、という思いの表れなのではないだろうか? というのも、多数の出演者が同時多発的にパフォーマンスするフェスという場では、観客とアーティストとの偶然の出会いが起こるからだ。もちろん、本当の理由は堂本本人のみぞ知るところではある(もしかしたらラジオやインタビューなどで語られているのかもしれないが、不勉強でそのあたりの事情をよくわかっていない)。

とはいえそう考えると、その姿勢は今回の配信解禁というトピックにも繋がってくる。配信サーヴィス上ではプレイリストを介して楽曲を偶然耳にすることがあるし、〈話題だから聴いてみよう〉という興味本位の試聴もできる。だから、〈ENDRECHERIの音楽をより多くの聴き手に届ける〉という点において、フェス出演と配信解禁は一貫しているのだ。

堂本の音楽については以前から堂本ファン以外の間でも評価が高く、〈彼の音楽がいかに優れているか〉が話題にのぼることも多かった。フェス出演で一層広がったこの認識は、配信解禁によってさらに後押しされることだろう。

Spotifyプレイリスト〈This Is ENDRECHERI〉

さて。ここからは、今回配信が始まった3作について語りたい。

 

山下達郎が参加、独自のファンクを追求した『HYBRID FUNK』

まず2018年5月にリリースされた『HYBRID FUNK』は、ENDRECHERIとしてのファースト・アルバムだ。

本作の注目すべきポイントは、山下達郎が参加していること。山下の参加は〈FUNKギターなら参加するよ〉というノリで決まったそうで、その〈ファンク〉で繋がった絆は“HYBRID ALIEN”という曲に見事に結実している(右チャンネルで目立つ高音弦中心の、キレのあるカッティングが山下の演奏だろう)。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“HYBRID ALIEN”

しかし“HYBRID ALIEN”は、いかにも山下達郎風というわけではない。プリンスやザップの80sファンクを思わせつつ、ヴォーカルに過剰なエコーやエフェクト、パンニングが施されており、サイケデリックな音作りが特徴だ。このあたりのユニークな音楽的志向が堂本=ENDRECHERIらしい。

“MusiClimber”はファンカデリック風の怪しげなファンク・ロックで、“YOUR MOTHER SHIP”や“SANKAFUNK”“おめでTU”はパーラメントへのオマージュを感じる(〈MOTHER SHIP〉はパーラメントの76年の名盤『Mothership Connection』への言及だろう)。また多くの曲でファンカデリック/パーラメントのバーニー・ウォーレルを思わせるシンセサイザーの音が聴け、Pファンクへの愛が惜しげなく披露されている。プリンスへの愛も随所で感じられ、無視されがちな後期にあたる90年代から2000年代のプリンスを愛聴してきた印象も受けた。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“YOUR MOTHER SHIP”

一方で“逝くの?!”はファンクのゴッドファーザー、ジェイムズ・ブラウン風のホーン・アレンジがキマっている。だが、1分45秒あたりから楽曲は急にダビーな音像に飲み込まれ、思いもよらない展開を聴かせる(その後、JB風に戻っていく)。

ラストの“Tonight”はファンクから離れ、90年代後半から2000年代前半のR&B風だ。その一方で一風堂の“すみれ September Love”(82年)に似たメロディーが登場する点が印象深く、本人が語るUKロックからの影響やニューウェイヴ/ポスト・パンク、s.h.i.氏が指摘する欧州ゴシックとの関連性も感じる。先の“逝くの?!”にせよ、このように堂本流の〈+α〉がファンクに加えられることで、ENDRECHERIの音楽は独自性を獲得しているのだ。

2018年作『HYBRID FUNK』収録曲“Tonight”

 

KenKenが参加したシングル『one more purple funk... -硬命 katana-』

続く『one more purple funk... -硬命 katana-』は、2018年8月に発表されたシングルである。

ENDRECHERI 『one more purple funk... -硬命 katana-』 RAINBOW ENDLI9(2018)

配信版では〈Complete Edition〉として5曲が収められ、EPやミニ・アルバムのヴォリュームだ。鬼や狐の面、龍のイラストが配された、なんとはなしにエロティックなアートワークが怪しく、ブラック・サイエンス・フィクションの発想を日本人の堂本が解釈したかのよう。ジョセフ・ライムバーグのアルバム『Astral Progressions』(2016年)のジャケットをふと思い出した。

表題曲はファンカデリックやジミ・ヘンドリックスを思わせるファンク・ロック。ベースはなんとあのKenKen(RIZE)で、1分44秒あたりからすさまじいベース・ソロを聴ける。シンプルなコードやフレーズのループでぐいぐいと盛り上げていくところはファンク・マナーだが、歌謡曲的なメロディーを艶めかしく歌うあたりがENDRECHERI印だ。

2018年作『one more purple funk... -硬命 katana-』収録曲“one more purple funk... -硬命 katana-”

対照的に音数を抑えた“funky レジ袋”は曲名からして強烈で、〈レジ袋〉の〈シャカシャカ〉という音がコーラスに翻案されているところがユーモラス。〈左に傾いていく様な/右に吸い寄せられてもいく様な/ハッキリしない/まるでこの耳の様な左右違う世界〉〈平和と愛の概念すら捨て/もっとファンキーにファニーに擦れ合いたい〉という、メッセージ性と官能的なイメージと自身の経験とを重ね合わせたかのような歌詞が実におもしろい。

2018年作『one more purple funk... -硬命 katana-』収録曲“funky レジ袋”

他には、プリンス風のアップテンポな“神機械”、落ち着いたR&B調の“Rainbow gradation”、パーラメント風のスペーシーな“奥奥奥之院”と、ユニークな音楽性と言葉遊びの効いた歌詞(古語などを意識的に取り入れた堂本の作詞センスは、実に素晴らしいと思う)によるENDRECHERIらしい曲が収められている。

 

より濃度の高いファンクに挑んだ『NARALIEN』

そして『LOVE FADERS』の前作にあたるのが、2019年8月にリリースされた『NARALIEN』。

『HYBRID FUNK』にしてもそうだったが、1曲目に非常にイメージ豊かで抽象的なイントロを配しているあたりに、〈アルバム〉というフォーマットへの愛やこだわりを感じる。

〈奈良〉と〈エイリアン〉の合成語をタイトルにしたと思われる表題曲“NARALIEN”では、ディアンジェロの『Black Messiah』(2014年)からの影響が顕著で、ドラムの響きや地を這うようなベースの音に表れている。さらにファンカデリックとパーラメントのエッセンスも感じられ、自由に弾きまくるギターや派手なシンセの音が神秘的で宇宙的なサウンドを生み出す。

2019年作『NARALIEN』収録曲“NARALIEN”

〈Soul Power〉を〈宗 流 Power〉と言い換えた堂本らしい言葉遊びが独特な“宗 流 Power”は、遅いビートによってヘヴィーにうねるファンク・グルーヴを生んでいる。コーラスとホーン・セクションの抜き差しによって、最小限の音をパワーに変えているかのようだ。

2019年作『NARALIEN』収録曲“宗 流 Power”

一方で現在のヒップホップを意識したかのような“Pani9 Disorder Man”や、R&B+トリップ・ホップな“水 面 音”には、音楽的な挑戦が込められている。

『HYBRID FUNK』は〈ハイブリッド〉感が強かったが、『NARALIEN』は総じて音数を抑え、ファンクの濃度や純度が高い。より濃く、よりタイトに、よりヘヴィーに、よりストイックに〈ENDRECHERIのファンク〉を追求しているように感じるのだ。〈奈良〉をタイトルに入れていることにも、ルーツ志向が表れていると思った。

 

繋がり合い、団結するためのENDRECHERIの〈HYBRID FUNK〉

それにしても、〈HYBRID FUNK〉とはENDRECHERIの音楽性をそのまま表している見事な言葉だと思う。つまり、混血のファンク。プリンス、Pファンク、ディアンジェロ、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、ジェイムズ・ブラウン……。ENDRECHERIというプロジェクトでは、堂本が愛する音楽の数々が〈ファンク〉の名のもとに詰め込まれ、縦横無尽に結びつけられ、まさに〈ファンク絵巻〉〈ファンク曼荼羅〉と呼びたい音楽が生み出されている。

しかしそれが単なるオマージュや過去の音楽の焼き直しにまったくなっていないのは、堂本のヴォーカリストとしての個性や作曲家としてのメロディーセンス、あるいは神秘主義志向などが、あまりにも強烈だからだろう。それによって堂本剛=ENDRECHERIは、ミュージシャン/アーティストとして他ならない個性を勝ち得ている。

ファンカデリックの『One Nation Under A Groove』(78年)という名盤がある。〈ひとつのグルーヴで繋がれたひとつの国〉と訳せるそのアルバム・タイトルは、ファンクという音楽の本質を表しているように思えてならない。つまり、多種多様の異なるものやこと、人々が繋がり合い、団結するための音楽、ということ。〈愛〉という言葉を繰り返し強調するENDRECHERIの〈混血のファンク〉にも、そんな志向と思想を感じるのだ。

ENDRECHERIについては、堂本のヴォーカリゼーションや参加ミュージシャンたち、歌詞の面など、まだまだ語るべきポイントがある。それらは、また別の機会に触れることにしたい。それまでは今回配信が始まった3作や『LOVE FADERS』を聴いて、ENDRECHERIのファンク沼にどっぷりと浸かることにしよう。

『LOVE FADERS』では、どんな〈ENDRECHERIのファンク〉が展開されているのだろう? 早く手に入れて、確かめたいところだ。