81年のデビュー以来、日本の音楽シーンにおいて洗練されたサウンドをストイックに追求し続けている音楽家、角松敏生。近年、折からのシティ・ポップ・ブームもあり、国内、そして国外の若いリスナーやDJ、ミュージシャンが大いに注目する存在である。
そんな角松は、プロデューサーやコンポーザー、アレンジャーとして数多くのアーティストの楽曲を手掛けていることも知られている。今回、その名曲群からタワーレコードのスタッフが厳選し、コンパイルした2タイトル『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』『角松敏生ワークス -GOAL DIGGER-』がリリース。前者はソニー・ミュージックダイレクトからのCD、後者はキングレコードからのタワーレコード限定CDとなっている。
杏里や中森明菜、今井優子、西城秀樹の楽曲など、両作とも〈角松敏生の仕事といえばこれ!〉という定番を押さえつつ、こだわりのシングル・ヴァージョンや未配信のレア音源を複数収録。さらに、全曲に2020年の最新リマスタリングが施されており、繊細かつパワフルな音は聴きごたえが抜群だ(なかにはTokyo Ensemble Labや青木智仁といった、30年以上の月日を経てリマスターされた楽曲も)。また角松本人がセルフ・カヴァーし、ライブの十八番になっている人気曲の原曲も多い。つまり、角松のキャリアにおいても重要な作品ばかりなのだ。
鈴木英人による美しいアートワークに彩られた、2つの輝かしいコンピレーション。その2020年的な聴きどころを、角松へのインタビュー経験もある音楽ライター/ディレクターの柴崎祐二が掘り下げる。 *Mikiki編集部
後世への決定的なインフルエンサー角松敏生
今年1月に刊行されたディガー集団〈lightmellowbu〉による書籍、「オブスキュア・シティポップ・ディスクガイド」(DU BOOKS)の編集大詰め作業として登場アーティスト名の索引一覧を作成しているとき、特に印象的だったことがある。1986年〜2006年という、一般的に〈シティ・ポップ黄金時代〉とされていた70〜80年代半ばを過ぎた後の期間における〈隠れたシティ・ポップ名盤CD〉を紹介する同書にあって、本文中、固有名詞として他を圧する頻度でその名前が登場するのが、角松敏生だったのだ(書名通り、〈オブスキュアな〉盤を紹介する趣旨の書籍なので、知名度の高い角松本人の作品は一枚も掲載されていないにもかかわらず)。
紹介されるCDに角松がプロデューサーとして関わっている旨が書かれているものから、アルバム内容に角松の音楽からの影響を指摘されているものまで、様々な文脈においてその名が度々語られている。一人のアーティストとして現在ではジャパニーズ・シティ・ポップを象徴する存在と目される角松だが、プロデューサーとしての旺盛な活動をはじめ、後に続く〈シティ・ポップ的なるもの〉の浸透と伝播とを形作った決定的インフルエンサーであったことも知れるのだった。
角松敏生の幅広い仕事を網羅した2作のコンピ
この度登場した2作のコンピレーションCD、『角松敏生ワークス -GOOD DIGGER-』(ソニー)、『角松敏生ワークス -GOAL DIGGER-』(キング)は、彼のプロデューサー/コンポーザー/アレンジャーとしての魅力を味わうのにうってつけの作品だろう。杏里や中森明菜、中山美穂、JADOESといった代表的なプロデュース・ワークスから、新人ヴォーカリスト発掘&紹介オーディション・プロジェクト〈VOCALAND〉の関連曲、また、Tokyo Ensemble Lab、青木智仁、NOBU CAINE、友成好宏といった玄人好みの盟友的プレイヤーたちの作品まで、その幅広い〈仕事〉の数々が網羅されている。
2CDとなるソニー編、1CDのキング編ともに、タワーレコードのスタッフによる現在の現場感覚濃厚な選曲で、角松敏生に深い敬愛を捧げる韓国人DJ/プロデューサーのNight Tempoらが牽引する〈フューチャー・ファンク〉的センスでも鑑賞したいダンサブルな曲が揃っていることも特筆すべきポイントだろう。
2作とも満遍なく〈美味しいところ〉がしっかりと選曲されている印象だが、あえていえばソニー編は、2枚組というそのヴォリュームを活かしたなかなかマニアックなチョイスが魅力だ。特に、大御所シンガーと意外な邂逅を果たした、〈布施明 MEETS KADOMATSU〉名義の“IF YOU LOVE SOMEBODY”(96年)や、角松の敬愛する先達・佐藤博の楽曲をダンス仕様にリミックスした“ANGELINE -Extended Power Club Mix-”(87年)などは個人的にも嬉しい収録だ。
一方キング編は、同社原盤の中山美穂や今井優子作品をはじめとして、岩崎宏美などの女性アーティストが歌った圧倒的完成度の楽曲を中心にコンパクトにまとめられ、一枚を通して聴いたときの統一感が抜群だ(その陰で、フュージョンの隠れ名作、Pacific Coast Jam feat. D.J.Pratt, Fred Schreuder“LIKE LIKE HWY”を収録するなど心憎い要素も)。
〈角松節〉に宿るクリエイティヴでオリジナルな厳しさ
それにしても、こうして改めて彼のワークスをまとめて聴いてみて強く思うのは、折々の音楽シーンのトレンドをいち早く最新のポップスとして消化/昇華する音楽センスの鋭さと力量の高さだ。(もちろん不当にそういった音楽にも貶すつもりではないが)例えばこれらと同時代に多数産まれたよくある〈シティ・ポップ風〉音楽と比べると、各ミュージシャンの演奏力、アレンジのアイデア、ミックスも含めた強固なプロダクションの完成度がずば抜けていることが聴き取れるだろう。
ソウルやディスコ、後にはヒップホップやハウスも大胆に取り込みながら自らの音楽を鍛錬していった彼のひたむきなクリエイティヴィティーと、一聴してすぐそれとわかる〈角松節〉に宿る透徹したオリジナリティーには、かつて一般から投げかけられていたような〈明るく楽しいシティ・ポップ・アーティスト〉風の柔和なイメージを徹底的に退ける、ある種の〈厳しさ〉があるようにも思う。
「歴史的意味を継承し、未来の役立てになるなら、それもまた幸い」
今回のコンピレーション発売にあたって、角松本人によるコメントが出されているので以下に紹介しよう。
今になってこのような作品群を取り上げていただくのは、
嬉しくもあり同時に複雑な想いでもあります。
あの頃、自分なりに確信を持って創造していたことは
実はそれほどまでには評価されなかった。
気持ちは負けまいとは思いながら挫折感に苛まれる日々だった90年代。
今、50代還暦世代の郷愁や慰めに少しでもなるならそれも良し。
また、あの頃すでにこんなことをしていたのだということを若い世代に理解していただき、
その歴史的意味を継承することができるなら、
そしてそれが未来の役立てに少しでもなるなら、
それもまた幸いと思う次第であります。
角松敏生
〈あの時代〉の饗宴を経て、角松敏生の音楽がこんなにもタフで、同時にこんなにも繊細なものであったということが、後年世代によってようやく発見されたように思う今。その偉大な歩みを本コンピレーション2作から振り返ってみるのは、とてもエキサイティングかつ意義深い体験になるだろう。
LIVE INFORMATION
TOSHIKI KADOMATSU Performance 2020
“Kadomatsu Plays The Guitar vol. 4” ~歌もうたうよ~
2020年10月9日(金)、10月10日(土)Billboard Live YOKOHAMA
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2020年10月15日(木)、10月16日(金)、10月17日(土)Billboard Live OSAKA
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2020年10月27日(火)、10月28日(水)Billboard Live TOKYO
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2020年10月30日(金)、10月31日(土)Billboard Live TOKYO
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サーヴィス・エリア:12,800円
カジュアル・エリア:12,300円(1ドリンク付き)

