ソニーミュージック、キングレコード、ユニバーサルミュージック、ビクターエンタテインメント、日本コロムビアという大手レコード会社5社から同時リリースされたコンピレーションアルバム『CROSSOVER CITY -Asayake-』『同 -Bon Voyage-』『同 -Mint Breeze-』『同 -Misty Morning-』『同 -Park Avenue-』。昨今、再評価著しい国産フュージョンにフォーカスを絞った作品だ。企画・選曲・解説を担当したのは音楽ライター栗本斉。この5枚のリリースを記念し、以前Jフュージョンリバイバルについての記事を執筆してもらった音楽評論家の柴崎祐二との対談をお届けしよう。それぞれのフュージョン観やシティポップとの関係、再ブームの実相まで幅広く語り合ってもらった。

 

レコード会社の垣根を越え、〈シティポップの次〉を提示する企画

――まずは『CROSSOVER CITY』という企画の背景や経緯を教えていただけますか?

栗本斉「2年前に『シティポップ・ストーリー CITY POP STORY -Urban & Ocean-』というソニーのコンピレーションアルバムを作ったんです。それがヒットしたので第2弾として『CITY POP GROOVY ’90s -Girls & Boys-』という90年代シティポップのコンピも作り、第3弾の企画が持ち上がった時、流れ的に次はフュージョンやろうかなと考えたんですね。当初は以前と同じように各社から音源を借りてソニーから出そうと思っていましたが、ちょっと待てよと。いい音源がたくさんあってもったいないので、各社のカタログセクションに声をかけたんです。そうしたらリアクションがよかったので、5社から一気に出すことになりました。

5社共同って、なかなかない企画なんです。過去には橋本徹さんの〈フリー・ソウル〉や金澤寿和さんの〈Light Mellow〉、僕が2000年代初頭にやっていた〈喫茶ロック〉シリーズはレコード会社の垣根を越えていましたが、最近はあまりない。今回、どの会社もすごくノリがよくて、揉めることなくすんなり決まりました」

柴崎祐二「ここ最近、大手レコード会社が自社カタログの掘り起こしに熱心になっていますけど、まさにその流れを感じさせる一挙リリースだと思いました。いまの時代、新譜のリリースだけではビジネスとして回っていかないという話をよく聞きますし、そういう状況も下地としてあったのかなと」

――数年前、ストリーミング再生される音楽の70%を旧譜が占めているというニュースがありました。最近の事例だとサテライト・ラヴァーズがYouTubeでバズり、ソニーが配信を始めましたね。カタログの回転は、いまレコード会社にとって重要な課題だと思います。

柴崎「ネットでバズった音源の配信や再発はある時期から積極的にやっていますよね。ここ最近は、あらかじめ原盤を掘り返してストリーミング配信し、拡散のための下地を作っておく流れにもなっている。ユーザー側にとっても単純にアクセスが容易になるタイトルが増えるわけで、いい傾向だと思います。ところで、NGを出された曲はありましたか?」

栗本「ありましたよ。誰が権利を持っているのかわからないものもありました。

ただ、比較的許諾はスムーズに進みましたね。例えばユニバーサル盤には井上堯之の“カーチェイス”を入れましたが、あれは映画『太陽を盗んだ男』のサントラの曲で、東宝が原盤権を持っていたので借りることができました。選曲の制約は多少ありましたが、それほど難しさはなかったです」