Page 2 / 2 1ページ目から読む

閑静かつ美しい田舎町での共同生活

――そして、2018年にオデッザのオーストラリア・ツアー終了後に、顔を突き合わせて制作を進めていったんですよね。シドニーから3時間という自然豊かな田舎町、ベリーのファームハウスでの作業はいかがでしたか?

「大体は、まず朝起きて、その時に自分がハマってる音楽をかけるところから一日が始まるんだ。古かろうが新しかろうが関係なく、とにかくすごいと思った曲なら何でもね。それで朝ご飯を食べながら音楽の話をして、個別に作ったデモを聴かせ合って、そのデモを元に色々アイデアを試してみたりキーボードを弾いてみたり、あるいは真っ新な状態から新しく作り始めたり、その日によって作業は様々。

ただ、タイムリミットがあって、ずっと同じ場所で作業し続けていられるわけじゃないことがわかっていたから、1日12時間とか14時間くらい、ひたすら音楽を作り続けていたよ。そして、一緒にいる間は絶えずクリエイティヴであろうとしていたし、その勢いを止めないようにしていた」

――その後、カリフォルニアのジョシュア・ツリーでも作業されたとか。都市生活から離れた環境に身を置くことで、作品にどんな影響があったと思いますか?

「オーストラリアで沢山録ったデモから3、4曲出来上がって、ジョシュア・ツリーでもデモを2曲録り、その後、さらに3曲書いて、その時点でフル・アルバム1枚作れるくらいにはなったんだけど、リモートでもう3曲ほど仕上げて、最終的に10曲にまとめたんだ。制作に都会から離れた場所を選んだのは、邪魔が入らなくて、昼夜問わず、いつでも好きなだけ大きな音を出せるところがよかった(笑)。クリエイティヴな気分になった時に音楽を鳴らせるということが許される環境が欲しかったんだ。あとは美しい景色だね。長時間作業してモチヴェーションを保つうえで、綺麗な景色を見たりすることも必要だったんだ」

――ドリーミーかつメロディアスなサウンドが特徴だったオデッザが、今回ダークな方向性を求めたのは心境の変化でもあったんですか? 

「ダークなサウンドには、ずっと興味があったんだ。トムのダークな作風がすごく好きだったし、トムも僕らが作ってる作品を気に入ってくれて、そうやってお互いにインスピレーションを与え合っていくうちに、今回のプロジェクトに繋がった。ただし実際一緒にアルバムを作った時にどういうものになるかは予想もつかなかったけどね。ただ、アルバムというのは一つのカラーだけで成立するものではないから、他にもいろんな要素を取り入れることを意識したことで、ダークなエネルギーやインダストリアルな緊迫感だけではなく、希望や高揚感も感じられる作品になっていると思う」

『Bronson』収録曲“Contact”

 

自分自身との戦いに勝つため、不屈の努力をやめない

――ウルトライスタのローラやギャラント、トータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズというタイプの異なる3人のヴォーカリストを招いた楽曲制作はいかがでしたか?

「彼らが参加した曲は、元々はインストゥルメンタルとして作ったもので、制作の終盤にゲストを招いて、ヴォーカル曲に発展させたんだ。ただ、当初は自分たちが作っていた曲にどういうヴォーカリストが合うのかよく分からなくて、方向性を見出すまでに結構長くかかった。最初に見つけたのがローラ。彼女とは話したことがあったし、彼女のバンドのファンでもあったから、〈今僕らが作ってる音楽をぜひ聴いてみて〉とメッセージを送ってデモを聴いてもらって、それで“Heart Attack”が生まれたんだ。彼女との作業はすごく楽しかったね。アルバムに深みが出たし、この曲を足がかりに、引き続き自分たちが作った音楽に合うヴォーカリストを探していった。

『Bronson』収録曲“Heart Attack”
 

トータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズの場合は、共通の友達がいて、彼にInstagramでメッセージを送ったら〈いいね、じゃあスタジオ行くよ〉という感じで、デモを聴いてもらってからあっという間にうまくいったんだよ、化学反応が即起こったというか、僕らがテーマを説明すると彼は数時間で書き上げてしまったんだ」

――アルバムのなかで手応えを感じた曲は?

「トータリー・イノーマス・エクスティンクト・ダイナソーズとの“Dawn”
かな。7分の長尺曲なんだけど、あんなに長い曲を書いたのは初めてなんだ。それから自分たちで歌った“Call Out”も作ってて楽しかったし、新しいトライアルは面白いね」

『Bronson』収録曲“Dawn”
 

――そして、アートワークを手がけたジアン・ギャラン(Gian Galang)はリアリスティックなスポーツ・イラストレーションを得意とするイラストレーターですよね。音の陰影や深みと彼のアートワークが一体となった今回の作品は〈現実で得られる実感〉や〈リアリティとの対峙〉がバックグラウンドにあるように感じました。

「アルバムのテーマは不屈の努力、粘り強さといったものだけど、そこからさらに、精神的な逆境、乗り越えるべき山、自分自身との戦いといった言葉が出てきて、人間の精神や闘争心について考えた。

ジアン・ギャランはずっとファンだったんだよね。彼が描く様々なファイターたちからは、いろんな感情が読み取れるし、自分たちが作っているものに通じるものがあると思ったんだよ。自分自身との戦いとか、自分にとっての最大の敵が自分ということもあり得る、とかね。そういった僕らの意図を伝える上でジアン・ギャランは最高に素晴らしいアーティストだったし、彼と仕事ができたことはすごく光栄だった」

 

逃避でも支えでも、僕たちのダンス・ミュージックが救いになったらいいね

――トムとのこのコラボレーションを通じて得た経験は、今後の活動にどんな影響がありそうですか?

「自分としてはプロデューサーとしてかなり成長できたと思ってる。モジュラー・シンセとかこれまで使ったことも触ったこともなかったようなテクノロジーを使って、色々試しながら時間をかけて作って、本当に楽しかったんだ。その結果、新しいことにトライする上での一つの視点を獲得できた気がするね」

――COVID-19の影響で、全世界的にフェスやコンサート、クラブ・イベントが中止に追い込まれているなか、今のダンス・ミュージック・シーン、とりわけオデッザが身を置いてきたEDMシーンについて、どんなご意見をお持ちですか?

「僕らは3年くらい続けてきた長いツアーを終えて、ちょっと休んでからブロンソンのアルバムを完成させたんだけど、それによって、次のオデッザの作品に取り掛かる準備ができたし、願わくばブロンソンでもライブをやりたいなと思ってたところでCOVID-19によって、今後どうなるかがわからなくなった。まあ、でも、今はとにかくみんなの安全を守るためにできることは何でもやるしかないからね」

――COVID-19やBlack Lives Matterといった現実のシリアスな問題を受けて、ダンス・ミュージックそのものも今後変化していくのかもしれませんね。

「少なくとも自分たちにとって音楽を作ることはある種のセラピー的な効果があるし、そうやって作ったものが多くの人に届けばいいと思っているんだ。それが逃避でも支えでも、何らかの形で救いになることを願ってる。ただし、音楽は主観的なもので、それぞれが独自の視点を持っているわけだから、シリアスな問題と向き合う上で何が役に立つのかはその人次第かな」