©Tonje Thilesen

人を結びつけるダンス・ミュージックのエネルギー――アルバムとしての完成度を磨いたマッシヴな新作『The Last Goodbye』は多彩な声で希望と未来を高らかに歌い上げる!

 全米3位を記録し、第60回グラミー賞では2部門にノミネートされるなど、大きな成功を収めた2017年のサード・アルバム『A Moment Apart』から5年。進化を続けるEDMシーンにおいてメイン・アクトの仲間入りを果たした米シアトルのデュオ、オデッザが新作『The Last Goodbye』を完成させた。その間にはシドニーのゴールデン・フィーチャーズことトム・ステルと組んだユニット=ブロンソンでのアルバム制作を経験し、そこで得たものは今作にも重要な影響を及ぼしているようだ。

ODESZA 『The Last Goodbye』 Foreign Family Collective/Ninja Tune/BEAT(2022)

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 「トムとはすごくいい友達で、普段と全然違うことをやってみようというところから生まれたプロジェクトだったから、それまで使ったことのなかった楽器や技術をいろいろ試してみたんだ。そのおかげで、今回の新作に取り組むときには多くのスキルが身に付いていたんだよ。使えるツールが増えて、プロデューサーとして成長できたんだ」(ハリソン・ミルズ)。

 「仕上がりにはとても満足している。いまはシングルの時代だからなかなか難しいかもしれないけど、ぜひアルバム通して聴いてもらいたいし、ライヴで演るのが本当に楽しみな作品だよ」(クレイトン・ナイト)。

 パンデミックとそれを受けてのロックダウンという環境下における制作に関しては特に困ることもなく、むしろ大事なことを再確認できたと語る。

 「楽曲自体はツアー中に試作していた古いものも混ざっているけど、恐らくここ2年くらいで作ったものがほとんど。しばらく音楽を作らないでいたから調子が上がってくるまでに少し時間がかかったけどね。改めて一から音楽の作り方を覚えるような感覚だったよ」(ハリソン)。

 「前作のツアーが3年ほど前に終わって、そもそも休みを取るつもりだったんだ。これほど長いものになるとは思っていなかったけどね。多くの人が一歩下がって物事を見ることができたように、僕らにも多くの時間が与えられて、それまでのキャリアを振り返ることができたし、家族や友人とふたたび絆を結べたことも大きかった。とても健全なことだし、音楽を作るうえでも良い影響があったと感じているんだ」(クレイトン)。

 そうして完成した本作には確かな〈希望〉の音が聴こえ、〈未来〉に繋がるような昂揚感が詰まっている。

 「コロナの不遇時代ばかりを描いたレコードを作りたくなかったし、むしろそれをきっかけに自分たちの人生における優先順位が変わったという視点で作りたかったんだ。そして、何より周囲の人々への深い愛と感謝の気持ちを抱けるようになったことは大きかったと思う」(ハリソン)。

 本筋のストーリーテリングを担うヴォーカリストはアメリカやイギリスのほか、アイスランド、ポルトガル、イランから迎えるなど国際色豊かな顔ぶれだ。

 「“Wide Awake”のチャーリー・ヒューストンの場合は、自分たちの中でイメージはあったんだけど、誰がいいのかまったく思いつかなかったからインターネットで探して、彼女のInstagramにメッセージを送ったんだ(笑)。僕らは唯一無二のスタイルを持っている声に惹かれる。曲にその人独自の味を加えてくれるからね」(ハリソン)。

 タイトル・トラックの“The Last Goodbye”はベティ・ラヴェットの“Let Me Down Easy”(65年)を元に、新たにエレクロトニックな息吹を加えたサウンドで、アルバム中でもひときわパワフルに響いている。

 「もともとはインストだったんだけど、聴いた人を導いてくれるような何かが足りなかった。ある日、古いレコードを漁っているときに彼女の歌声を聴いてこれだと思ったんだ。そこから曲としてまとめるのに苦労したけど、それだけに思い入れが強い一曲だよ」(ハリソン)。

 曲順も練られていて、ラストの“Light Of Day”から、また1曲目の“This Version Of You”に自然に繋がる感じもある。

 「そこは本当に意識していた部分で、曲順には30から40くらいの候補があった。そのどれもが不正解というわけじゃなくて、どの順番で聴いても、その順番なりの物語が見えてくる。最終的にはゆっくり入って、潮の満ち引きや流れに身を任せるような感じがいいだろうということで今回の曲順に落ち着いたんだ」(クレイトン)。

 そんな力の入った一枚を、二人はどのように聴いてほしいと考えているのだろう。

 「願わくば、親近感を持って聴いてもらえたら嬉しい。そこに何らかの解放感や安心感を見つけてくれて、誰かの気持ちが少しでも楽になるとしたら、それは僕にとっての勝利だな」(ハリソン)。

 「世界中があまりに離れ離れだったからこのアルバムにはみんなで集まるというような感じがあるんだ。ダンスのエネルギーが無意識のうちに人々を結びつけてくれて、友達と一緒に聴きたくなるようなね。だから、さっきも言ったけど、本当にライヴが楽しみなんだ」(クレイトン)。

左から、オデッザの2014年作『In Return』、2017年作『A Moment Apart』(共にCounter)、ブロンソンの2020年作『Bronson』(Ninja Tune)

 

左から、ベティ・ラヴェットの編集盤『Let Me Down Easy: Bettye Lavette In Memphis(Sun Records 70th Anniversary)』(Sun)、ジュリアナ・バーウィックの2020年作『Healing Is A Miracle』(Ninja Tune)、イジー・ビズの2016年作『A Moment Of Madness』(Epic)、ラプスリーの2020年作『Through Water』(XL)、ノックスの2019年作『New York Narcotic』(Big Beat)、オーラヴル・アルナルズの2020年作『Some Kind Of Peace』(Mercury KX)