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〈ギターいらなくね?〉

――サウンドも大きく変わりましたよね。中畑(大樹)さんというサポート・ドラマーが入られたことで変化はありましたか?

『サピエント』収録曲“証明”
 

「もちろん新しい風が入ってきて新鮮だったんですけど……今回の私の気分的にものすごくシンプルにしたかったんですよ。『太陽の居ぬ間に』はギターのフレーズを詰め込んだし、ドラムのアレンジも悩んだし、〈詰め込まなきゃ〉っていう時期だったんです。今の若いバンドってすごく複雑じゃないですか。だからもっと複雑にしなきゃダメなんじゃないかと思っていて、ギターのアレンジを凝ってみたり。でも今回は、〈ギターほとんどいらないんじゃない?〉っていうくらいシンプルにしたかった」

――でも、それだとベースとドラムだけになっちゃいますよ。

「リズム隊だけでノレる感じにしたい、ギターは添え物でいいっていう。複雑なギター・リフは入れたくない。印象に残るフレーズだけあればいいギター・ソロもあんまりいらないって思ってましたね」

――反動ですかね。

「いろいろやってみた結果、シンプルな方が好きだっていう結論に至ったのかもしれないですけどね。私はビリー・アイリッシュが好きで、彼女の音楽にギターってほぼ入ってないじゃないですか。その影響も結構あるかもしれないですね。ギターがなくてもカッコいいし、〈ギターいらなくね?〉って気持ちになって。それは割と新境地でしたね」

――新境地に至ったのはいいことだと思いますけど、ギターのないユウさんなんて……という気持ちもあって、複雑な気持ちです。

「でもそれはメンバーにも最初から言ってて。〈私ギターほとんど弾かなくていいじゃないかなと思ってる〉って。結果的にはめちゃめちゃ入ってるんですけどね」

――レコーディングはいつしたんですか?

「5月の末くらいに、本当に短い期間でやりました。ちょうど緊急事態宣言が解かれた頃で。いつもレコーディングしてる岡山のスタジオにみんなで車で行って、集中して録りました」

――結局ギターは比較的シンプルではありますが、入っていますよね。それはいつ変わったんですか?

「デモはGarageBandを使って作るんですけど、そこでシュミレーションしておいて、その後みんなでアレンジしていくうちに、ですね。でも自分の中では相当シンプルに抑えた仕上がりになったと思います。〈本来だったらもっとやれたこといっぱいあったんだろうな〉とか〈もう一人ギタリストがいればもっといっぱい入れるんだろうな〉って思うところはあるんですけど、結局そういうのはいらないって思っちゃうんですね。無くても成立してるのに、あんまり飾り立てたくないなっていうのがあって。いろんな意味でシンプルが好きで、どんどんシンプル思考になっちゃってますね」

――ファンクラブのブログに〈服は無地しか着ない〉ってありましたけど、そういうことでしょうか(笑)?

「そうなんですよ。ファッションもゴチャゴチャするのが本当イヤで。断捨離もしたいし、柄とか模様がある服を買わなくなりました。服に文字があるとメッセージ性があるようでイヤだし。それは関係ないかもしれないですけど(笑)、情報量が多いのがイヤになってきました。それがギターにまで及んできちゃった。もっとオシャレなコードを入れられるところもいっぱいあるし、そうしたら売れ線になるんだろうなとかも思うんですけど、私的にはそういうことをしたら〈逆に普通〉って思っちゃうんですよね。〈だってみんなやってるじゃん、それ〉って感じがしちゃう。普通にしたくない、あえてオシャレじゃない方を選びたい」

――結果的にそういうことがチリヌルヲワカを唯一無二なロックにしているのかもしれないって思います。でも、先ほど〈売れなくてもいいと思っているわけではない〉とおっしゃっていましたけど、〈売れ線になりそうなことはしない〉というのはちょっと矛盾してるようにも感じます。

「そうですね、確かに矛盾してます。もし誰かが〈ここにこのフレーズを入れたら絶対に売れるよ〉って保証してくれるならやりますけど(笑)、そんな保証はないじゃないですか。やったところで売れるとも限らないし、だったら好きじゃないことをやるのは意味がないなって思うんですよね」

 

〈若い人に追い抜かれていくような焦りがある〉

――今作は〈人類〉をテーマにしているということで、歌詞もこれまでと変化したように感じました。少しは希望が残るというか。

「もともと最後に希望が残る歌詞というのは好きで、そこまで明確には思ってないですけど、どこかに希望を残したいという気持ちはあるんだと思います。でも今回“平行世界”の歌詞で、最後のオチがバッドエンドになっていて、逆にそういう方が珍しいかもしれないですね。逆にそんな気持ちだったのかもって思います」

――なるほど。この“平行世界”の歌詞のように、人生の選択を誤った時のことを思い出すことはありますか?

選ばなかった道の先にはどんな未来がある? 運命をかけて辿っていくは阿弥陀くじ
“平行世界”

「〈あの時ああしとけばよかったかな〉とか考えることはありますけど、音楽に関して後悔してることはないですね。そこに戻ったとしても同じ道を選ぶと思うし、きっとそれしか選択肢はなかったと思うので。私生活で〈怠けすぎたな〉とか思うことはいっぱいありますけど(笑)」

――“それでも世界が続くなら”の歌詞では、〈30の半ば〉〈40の手前〉といった言葉が出てきます。これは年齢のことですか?

「そうですね。これは“エレメント”(2018年作『ノンフィクション』収録)という曲があって、ストーリーははっきり繋がっているわけではないですけど、その歌詞の続きを作ってみたら面白いかなと思って作ってみました。でも、この歌詞の〈30代でどうだった〉っていうのは私の感じたリアルな感覚です」

――〈四十にして惑わず〉なんて言葉もありますが、歌詞にあるように、ユウさんは誰かの背中を見ているんでしょうか?

40の手前で目に映ったのは 誰かの背中だった
“それでも世界が続くなら”

「惑わないどころか、正直何も変わらないし、焦りのほうがデカいです。20代より30代、30代より40代のほうが焦りをより感じます。20代の時は何も考えてなかったし、焦りは絶対になかったと思うんですけど、30代でも〈まだ若い〉みたいな気持ちもあって、40になって〈30代でもっとこうしておけばよかった〉とか〈30代を棒に振った〉みたいに思うことがありますね。他の人はどうかは分からないですけど。個人的には若い人に追い抜かれていくような焦りがあるんです。この〈背中〉というのは、自分より上の人の背中というより、後ろから若い人が追い抜いていく背中を見てる感覚です。〈まだまだ一緒のペースで走ろうよ〉って思ってるのに、後ろの人が追い抜いていくようなそういう感情ですね」

――でも、絶対にそんなことはないと思います。ユウさんの音楽は唯一無二でずっとカッコいいし、誰かと競うようなものでもないと思うので。

「(笑)。なんか人生相談みたいになってる。確かに、競ってはいないです。そんなのおこがましいし。実際、喜んでくれるファンの方とか評価してくれる人がいるから、〈間違ってないだろ〉って思ってはいるんですけど。やっぱり今まで言った感情より、ファンの人が喜んでくれるのが一番だと思ってるし、だからこそ期待外れだったって言われ出したらいよいよヤバイと思っています。まだ喜んでくれる方がいるから間違ってないんだって確認してる感じです」

 

〈チリヌルヲワカの自分って自分らしい〉

――タワーレコードの約10年前のインタビューで、〈(GO!GO!7188の頃は)大きなステージでもやったけど、自分の言葉を歌ったことはないんだ、って思って。ああいうところで自分の言葉を歌ったら、どんなに気持ち良いんだろうなって思った瞬間があって、それでまあいま、実現できてる〉っておっしゃっています。そこから10年経って、今も自分の言葉を気持ち良く歌い続けていられてますか?

「そうですね。GO!GO!の時はアッコの書いた歌詞の主人公になり切るとか演者みたいな気分があったんですけど、自分で歌詞を書いていると〈チリヌルヲワカの自分って自分らしい〉って思えるんですね」

――それを10年以上続けられて、アルバムも毎年コンスタントにリリースしていて、今作で11作目で。それだけで素晴らしいと思います。今後も年1のペースでリリースをしていく予定ですか?

「それが目標ですね。続けたいと思ってはいます。ただ現実的にいろんなことがあるし、体力面の心配もあるし」

――体力面!?

「体力がなくて、そこが今一番深刻ですね。ライブする体力がどこまで持つかっていうのが一番の課題ですね(笑)」

――食べてくださいね。

「そうなんです、少食すぎるし、運動も嫌いすぎて」

――そして新たなプロジェクト、YAYYAYも始まりました。

「もともとは田中(一志/Shizuka Kanata)さんのソロ・アルバムのお手伝いということで集まったはずなんですけど、曲も書くことになり、歌詞も書き、面白いからやってみたら〈4人で作ってるからバンドの方がいいかもね〉ということになり。まだあんまり客観的に聴けないんですけど、田中さんの世界観が独特なので、チリヌルヲワカの目指していたシンプルな音楽とは真逆の、作りこまれた感じになりました」

――同時に正反対の音楽を進めるのは混乱しないですか?

「私、混乱すると思ったからバンドを並行してやるのは絶対にイヤだったんですけど、急にバンドを並行することになったから、〈今まで避けようとしてたことやっちゃってる〉って(笑)。混乱とまではいかないですけど、チリヌルヲワカのファンの方にも受け入れてもらえるのかという不安もありつつ、楽しみも増えるのは良かったなと思ってます」