東西冷戦時代のチェコスロヴァキアで生まれた名盤5タイトルが一挙に登場

 すごいブツが登場した。東西両陣営がまだ冷戦の火花を激しく散らしあっていた半世紀ほど昔のチェコスロヴァキア産ロック/ジャズの名盤が一挙5タイトル。近年、ブラジルやアルゼンチンなど南米ものの名盤復刻はかなり進んだが、旧共産圏のものはまだほとんど手つかずの状態だ。〈東欧音楽紀行〉なるこのシリーズ、是非継続していただきたい。

 5タイトルはすべて、チェコスロヴァキアの国営レコード会社の一つだったスプラフォンのカタログから。発売年の古いものから順に紹介しよう。

THE MATADORS 『ザ・マタドールズ』 Columbia(2020)

 『ザ・マタドールズ』は、オリンピックなどと並ぶチェコ最古参ロック・バンドのひとつザ・マタドールズが68年に発表した唯一のアルバム。65年に結成され、初期は主に東独を拠点に活動した彼らは、キンクスやフーといったブリティッシュ・ビート系のカヴァーを英語で歌い人気を博した。本作にもジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズやボブ・ディラン、テンプテイションズなど英米の有名曲が入っている。多くがサイケ前夜のガレージ系サウンドで、まあ時代を感じさせるわけだが、バンド名の由来となった東独製電子オルガン〈マタドール〉を駆使したピンク・フロイド風のアヴァンギャルドなインスト曲もあったりして興味深い。

MICHAL PROKOP.FRAMUS 5 『古代都市ウル』 Columbia(2020)

 63年に結成されたフラムス5もチェコ最古参バンドのひとつ。リーダーは、後にビロード革命(89年)に参加し、チェコ独立後は国会議員や文化副大臣まで務めた人気シンガーのミハル・プロコップである。最初期はR&B色の濃いバンドだったようだが、今回出た2作目『古代都市ウル』(71年)ではR&B色を残しつつもクラシックやジャズの要素が混然一体となっており、〈チェコ初の本格的プログレッシヴ・ロック〉として語り継がれてきた。特に、同国の著名詩人ヨセフ・カイナルが歌詞を書き、オーケストラも導入したタイトル曲(LPではA面全体)は壮大だ。作品全体でのブラス隊の活躍はシカゴやコラシアムを想起させる。

FLAMENGO 『時計の中の鶏』 Columbia(2020)

 それと並びチェコ・プログレの名盤と評されてきたのが、フラメンゴ『時計の中の鶏』(72年)だが、リリース後間もなく当局により発禁処分にされバンドも解散したこちらの方が伝説度では上か。これまた『古代都市ウル』同様、ヨセフ・カイナルが詞を担当しているのだが、今回の日本盤ライナーに掲載された和訳を読むと、なるほど「自由」に関する暗喩が随所に散りばめられているのがわかる。複雑なブラス・アレンジが施されたサウンドはコラシアムなど英ジャズ・ロックに近いが、全体のドラマ性や雰囲気は同時代のイタリアン・プログレとも共振しているように感じる。

JAZZ Q 『シンビオシス』 Columbia(2020)

 ジャズQ『シンビオシス』(74年)は今回の5作品中おそらく最もリスナー認知度が高い作品だろう。〈チェコといえばジャズ・ロック〉みたいなイメージを海外に広めた最大の貢献者が彼らだし。そしてこの『シンビオシス』こそはまがうことなき代表作。

 リターン・トゥ・フォーエヴァとアフィニティを掛け合わせた感じのブルージーかつ流麗なサウンドをバックにスモーキーな声で歌いまくるのは英人女性歌手ジョアン・ダガンだ。

PLAMENACI,FLAMINGO,MARIE ROTTROVA 『75』 Columbia(2020)

 そしてプラメニャーツィ/フラミンゴ /&マリエ・ロットロヴァー 『75』は76年に出た彼らの4作目。ややこしいアーティスト表記だが、プラメニャーツィ(Plameňáci)は〈フラミンゴ〉のチェコ語訳で、マリエ・ロットロヴァーは〈チェコのレディ・ソウル〉と謳われたバンドの看板女性シンガー。元々がラジオ・オーケストラ(ラジオ局専属のハコバン)からの派生バンド(結成は66年)だけあり、抜群の演奏力でグルーヴィーかつオシャレなサウンドをたたみけてくる。DJ必携盤だろう。