コラム

ガリカントゥス(Gallicantus)『サラ・カークランド・スナイダー:絶滅が危ぶまれるものたちへのミサ』新たなエコロジーを要する時代に放たれた古くて新しい宗教音楽

ニュー・アムステルダムから放たれる、宗教音楽とエコロジーの新しい世界観

 日本ではトキやイリオモテヤマネコに代表されるように、世界中には絶滅の危機に瀕している動物が数多くいる。さらには、植物、昆虫、そして惑星存在自体も危機にあると言っていい。今、新しいエコロジーが必要なのだ。

 一見伝統的な体裁をとりつつ、その人間中心のカトリック的伝統的世界観を換骨奪胎し、人類の〈他者〉のために歌われる、6楽章からなる斬新なミサ曲。そんな曲集が、ニュー・アムステルダム・レコードの共同設立者の1人、サラ・カークランド・スナイダーによって作曲された。昨年から大きな話題をさらう、ノンサッチ・レコードとの記念すべき共同リリースだが、その4枚目の作品となる。

GABRIEL CROUCH,GALLICANTUS 『サラ・カークランド・スナイダー: 絶滅が危ぶまれるものたちへのミサ』 New Amsterdam/Nonesuch(2020)

 〈キリエ・エレイソン〉、〈グロリア・インエクシェルシス・デオ〉など、キリスト教系の学校に通ったならば、賛美歌で歌わされるラテン語のフレーズがまず耳に入るが、ナサニエル・ベローズによる補筆もありながら、洗練された旋律と音楽的テクスチャーのバランス、そしてナラティブが光る。そこには当時全米でもトップレベルの合唱団だったプリンストン高校合唱団で思春期の5年を過ごしたスナイダー自身の豊饒な背景を感じることができるだろう(例えば、モーツァルト、ブラームス、フォーレらのレクイエムやパレストリーナやバードのミサ曲、バッハのコラールなどを歌ったと語るがアメリカ的野性も感じ取れる)し、主にルネッサンス音楽を主戦場とするイギリスの声楽アンサンブル〈ガリカントゥス〉(ラッススの録音も有名で、日本でも馴染み深いタリス・スコラーズのメンバーもいる)がガブリエル・クラウチの指揮によって、器楽も加わり、流麗に雄大に仕上がっている。

 既にNY交響楽団などで委嘱され、カーネギーホールやリンカーンセンターで作品発表を行い、この世代で最も洗練された作風を持つ作曲家との呼び声高いスナイダー。そんな彼女の最初の大規模な声楽作品は、新たなエコロジーが必要とされる時代に、宗教音楽の美と概念を更新しながら、多くの人に訴えかける。