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インタビュー

鬼束ちひろが新作で邂逅した20年前の自分自身――過去の旋律と現在の言葉が織り成すショッキング・ピンクの音世界

鬼束ちひろ『HYSTERIA』

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ただ〈想ってる〉

 他にもトピックとなる楽曲はさまざまあるが、まずは先行配信された“憂鬱な太陽 退屈な月”。凛とした緊張感と大きな解放感が交互に訪れる構成、メロディーに寄り添いながらサビに向かって圧倒的なカタルシスを演出するアレンジが一つになったこの曲は、本作の充実ぶりを象徴している。

 「マイナー調だけど、すごくポップな曲ですよね。アレンジされた音源を聴いたときに汗ばむ感じがあったので、〈8月の恋が書きたい〉と思って。そのあたりは直感というか、肌感覚ですね。以前からずっとそういう感覚で歌詞を書いてますけど、いまのほうがもっと研ぎ澄まされているかな」。

 続けて、「日常で感じたことが反映されている曲もありますね」とも語る鬼束。日々の生活のなかで自然に飛び込んでくる感覚や触感、色とりどりの感情を詩情豊かな歌詞へ導くセンスは、ここにきてさらに奥深さを増している。それを象徴するのが、“ネオンテトラの麻疹たち”。重厚なバンド・サウンド、低音の響きを活かした声と共に、麻疹のように伝染する恋を描いたロック・テイストの楽曲だ。

 「“ネオンテトラの麻疹たち”の歌詞は、サンシャイン水族館で見たネオンテトラの印象がもとになっていて。集団で動くんですけど、それがすごくきれいで、しばらく見ているうちに〈恋愛が伝染る感じに似てるな〉と。街には恋人たちがいっぱいいますけど、それを見るたびに、恋が伝染しているようなイメージが浮かぶんですよね。そういう意味では、日常から派生しているものが歌詞になっているのかも……。“UNCRIMINAL”もそうですね。この曲にはもともと“ホログラムの誘惑”というサブ・タイトルが付いていて。ホログラムネイルの材質が好きで、そのイメージが反映されているんです」。

 凛とした強さを放つピアノ、神聖な響きを称えたメロディーを軸とするバラード“Dawn of my faith”も心に残る。〈愛させてほしい 守らせてほしい〉というラインには、SNS上でのファンとの交流の影響もあるのだとか。

 「私のファンの方は、自分に全然自信がなくて、謙虚なんだけど、〈ちいちゃん(鬼束)のことをずっと応援させてほしい〉というタイプが多くて。意識しているわけではないけど、どこかでファンの人たちのことを想って書いた歌詞かもしれないですね。アルバムの最後に入っている“Boys Don't Cry”もそう。最近、いい意味で繊細な男の子が多い印象があって。群れるんじゃなくて、一人で涙を堪えているというか。そういう人に向けてるところもありますね」。

 〈歌を通して、リスナーに手を差し伸べたい気持ちもある?〉という問に対して、「何かをしたい、とか〈こうあるべき〉というメッセージはまったくなくて。ただ〈想ってる〉ということですね。その感覚はずっと変わってないです」と答えた鬼束ちひろ。20年前と現在を重ねた本作「HYSTERIA」によって、彼女はアーティストとしての本質を改めて示すことになるだろう。

『HYSTERIA』に参加したアーティストの関連作品。

 

鬼束ちひろの近作。