前代未聞のベルリオーズ
「幻想交響曲」オルガン版、しかも朗読付きで

 ベルリオーズの「幻想交響曲」(1830年作曲)といえば、ストーカー的な恋愛、過剰な自己愛、誇大妄想狂、破滅願望、薬物中毒、怪奇趣味など、あらゆる病的な形容詞にふさわしい、音楽史上、最もサイケデリックな交響曲である。それがオルガン編曲版で演奏される? しかも朗読付きとは? いったいどんなコンサートになるのだろうか?

 ミューザ川崎シンフォニーホールで2021年2月20日(土)におこなわれる〈オルガンと朗読で聴く「幻想交響曲」〉がそれである。演奏は、ミューザのオルガニストとして、ここのオルガンを熟知している大木麻理が担当する。さすがに気になってネットで調べてオルガン版「幻想交響曲」を聴いてみた。編曲者は69年生まれのイヴ・レヒシュタイナー。スイスのジュネーヴ音楽院とバーゼルのスコラ・カントルムで学んだ鍵盤奏者。フランク・ザッパの影響も受けているというだけあって、単に色彩感ある壮麗な響きというだけでなく、こだわり抜いた細密で意外な音が加えられている。第3楽章“野の風景”での祈りと瞑想、不協和音を使った遠雷の不気味さは素晴らしい。第5楽章“ワルプルギスの夜の夢”での、ギュワンギュワンとうなるロックな迫力もいい。クライマックスで出てくる〈怒りの日〉の動機は〈悪の教会〉とでもいうような雰囲気で、おどろおどろしさ満点。全体に重低音の凄みが効いていて、低音好きにはたまらないアレンジになっている。「幻想交響曲」が好きで、そろそろ変わった味のものを、という人は、ぜひ実演でオルガンの醍醐味を体感してみたい。

 このコンサートでもう一つ面白いポイントは、演劇的な趣向が加えられているところ。ベルリオーズが各楽章に付けたテキストだけでなく、作曲家の人生や作曲への経緯等についての前口上がある。演出は島崇と児玉絵梨奈。語りは山科圭太。ともにマレビトの会(未曽有の災害を受けた都市をテーマに上演を続ける演劇集団)の出身で、島祟は地元の秋田で〈『私』の病める舞姫プロジェクト〉を展開中。現代の演劇シーンの最前線で活躍する人たちである。

 こういった一味も二味も変わった企画を考案したのは、ミューザのホール・アドヴァイザーの一人、松居直美。すぐれたオルガニストというだけにとどまらず、オルガンを広くコンサート文化に普及させてきた一人として、プロデューサーとしての活躍も続けてきた。この公演はミューザでの〈言葉は音楽、音楽は言葉〉というシリーズの第3回にあたる。

 オルガンは、コンサートホールにおける至高性の象徴であり、〈一人オーケストラ〉であり、即興の自由にも満ちた、歴史ある〈楽器の王〉である。もっと言うと、コロナ禍におけるコンサートホールの活動を継続するためのカギを握る存在でもある。ぜひ、「幻想交響曲」を通して、オルガンの世界への扉を開いてみてはいかがだろう。

 


LIVE INFORMATION

ホールアドバイザー松居直美企画 言葉は音楽、音楽は言葉Ⅲ
オルガンと朗読で聴く「幻想交響曲」

2021年2月20日(土)13:00開場/14:00開演(15:45終演予定 途中休憩なし)
*13:20~13:40プレトーク

【出演】
パイプオルガン:大木麻理(ミューザ川崎シンフォニーホール・ホールオルガニスト)
語り:山科圭太
共同演出:島 崇、児玉絵梨奈
脚本:島 崇
プレトーク:松居直美(ミューザ川崎シンフォニーホール・アドバイザー)、井上さつき
【曲目】
ベルリオーズ(レヒシュタイナー編):幻想交響曲 Op.14

チケット:全席指定 一般 3,500円/U25(小学生~25歳) 1,000円
主催:ミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市文化財団グループ)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(劇場・音楽堂等機能強化推進事業)|独立行政法人日本芸術文化振興会
後援:一般社団法人 日本オルガニスト協会
協力:パイオニア株式会社(ボディソニック)

※詳細は公式サイトへ
http://www.kawasaki-sym-hall.jp/sp/calendar/detail.php?id=2665