(左から)木村駿太、仲井陸、神谷幸宏
 

名古屋芸術大学の芸術学部芸術学科(ポップス・ロック&パフォーマンスコース)の仲間によって結成された3ピース・バンドのThe Shiawase。まだ全国区で広く知られた存在ではないが、今も在学中という若き彼らは、名古屋~中部地区をこれから背負って立つバンドとして大きく飛躍していくかもしれない。彼らの最新EP『OHANAMI』を聴きながら、ふとそんな予感を抱いている。

バンドのやんちゃな雰囲気を伝える写真やミュージック・ビデオ、日常生活そのままのなんとも庶民的な曲名からは飾らない風合いが伝わってくるが、実際に聴いてみても、とにかく人懐こくてチャーミングな曲が武器になったバンドだということがわかる。無邪気に音を鳴らし、メロディーを綴り、歌を歌い、邪念なくロックやバンド・サウンドの持つエネルギーを信じているような。そこに迷いや躊躇がないピュアな目線が、青臭いほどに曲を輝かせているというべきか。

ところで私は去年、仕事でまさにその名古屋芸大(メイゲイと呼ばれている)を訪ねたのだが、開放的で暖かな空気をキャンパスに感じることができた。彼らの実直でカジュアルな音楽性が育まれた背景には、そんな大学のオープンな雰囲気も大きく影響しているのだろう。今回はメンバーが〈バンドとメンバー、そして新EP『OHANAMI』を作った10枚のアルバム〉を選盤。3人とリモートでつないで話を聞いた。

The Shiawase 『OHANAMI』 Eggs(2020)

好きな音楽はバラバラ

――今日は、バンド(&メンバー)を作り上げたアルバムと、『OHANAMI』を制作した際のヒントになったようなアルバム、ということで10枚あげてもらったのですが……。

仲井陸(ヴォーカル/ギター)「え、そういうテーマだったんですか(笑)! なんか普通に聴いていた音楽、大事な作品とかをあげちゃったなあ」

――まあ、とりあえずは選んでもらった音楽の話も交えながら、話を聞かせてください。名芸のウェブサイトに学内の企画イベントに出演した時のThe Shiawaseのライブ写真が出てたのですが……。

仲井「え、そうなんですか!」

木村駿太(ベース)「(該当記事をウェブで見て)これ、初めて見ました!」

――掲載されていたの、知らなかったんですか。

仲井「僕ら、本当に頑張ってると思うんですけど、大学は全然関知してくれないんですよ(笑)。CD出したりしてるのも知らないんじゃないかな」

The Shiawaseの2020年のライブ映像 。2019年のEP『こたつ』収録曲“ポテトサラダ”を演奏
 

――みなさんは大学ではジャズを勉強しているそうですが。

仲井「はい、僕自身はジャズやフュージョンが好きですし、ビッグ・バンドも聴きます。バンドを組む前、大学のビッグ・バンドのサークルでギターとトロンボーンをやってました。でも、The Shiawaseの3人でビッグ・バンドのサークルに入っていたのは僕だけで」

神谷幸宏(ドラムス)「フットサルのサークルとかは一緒でしたね(笑)」

仲井「僕ら、趣味もバラバラなんです。好きな音楽も結構バラバラ」

――では、そんな3人がどうやって一緒にバンドをやるようになったのですか?

仲井「実は入学した頃に、僕が自分のCDを配りまくったことがきっかけなんです。それが〈The Shiawaseを作ったアルバム〉にあげたThe Uranなんですよ。これは僕が高校の時に組んでいたバンド。一応、高校の時にCDを作ったんですけど、高校卒業と同時にもう解散みたいになりました。で、大学入ってからそのCDを周囲に配りまくったんです。〈俺、もうCD出してるんだぜ〉ってな感じで、100枚くらい配ったんですよ」

The Shiawaseを作ったアルバム
The Uran『ウラン』

The Uran 『ウラン』 (ー)

 

木村「僕はそれを聴いて陸(仲井)とバンドやろうと思ったんです。ビビッときました。andymoriみたいな3ピースのバンドをやりたかったんで、The UranのCDを聴いて、andymoriに近いっていうか、〈あ、いいな〉って感じましたね」

仲井「andymoriは駿太に教えてもらうまでは聴いたことなくて。日本のバンドでもMr.Childrenやフジファブリックとかは好きだったんですけど」

神谷「僕は、The UranのCD聴いて、〈コイツ面白いヤツだし、面白いことやってるな~〉とは思いましたね(笑)。でもすぐには仲良くならなかった。僕はこのバンドの2代目ドラマーなんですけど、まさか一緒にバンド一緒にやるとは思ってなかったですよ(笑)」

仲井「神谷は最初スカしてたからな~(笑)」

――それでも仲良くなれたのは?

仲井「やっぱり音楽の話をしているうちに……ですかね。好きな音楽をみんなでシェアするんですよ」

――では、今回仲井さんがあげてくれたB.B.キング『Live At The Regal』とかも全員で聴いたりしていたのですか?

仲井陸を作ったアルバム
B.B.キング『Live At The Regal』

B.B. KING 『Live At The Regal』 Universal(1965)

仲井「いえ、これは本当に僕が大好きってだけであげたアルバムです。僕が高校1年か2年くらいの時に、初めて自分のお金で買ったレコード。ブルース自体好きなんですけど、特にB.B.キングは大好きで。親父の部屋の壁一面にバーっとCDがあるんですけど、そのなかからちょいちょい自分の部屋に持ってくるんです。そのなかにB.B.キングもあって。それで好きになってこのライブ盤を買いました。

ギターの音も最高ですし、歌声もいいんですよね。曲も演奏も、なんというか、空白を意識して我慢するような……そんな感じじゃないですか。ギャンギャンとギターを弾きたくなるところを、グッと押さえるような弾き方をしてるでしょ? その間(ま)というか空白を楽しむことを教わりましたね。あと、ツアー先ごとに好きな女性がいて、子供がいっぱいいて……みたいな人生もいいじゃないですか(笑)」

B.B.キング『Live At The Regal』収録曲“Every Day I Have The Blues”
 

――一方で〈The Shiawaseを作ったアルバム〉としてキューバの音楽のミックスCD『Fiesta Cubana Party-Mix Volume 1』なんかもあげられています。これもお父さまのライヴラリのなかの1枚だったりするんですか?

The Shiawaseを作ったアルバム
VA『Fiesta Cubana Party-Mix Volume 1』

VARIOUS ARTISTS 『Fiesta Cubana Party-Mix Volume 1』 アオラ・コーポレーション/ハッピー・フラワー(2001)

仲井「まさにそうです。僕が生まれて間もない頃に、ずっと親父の車の中でひたすら流れていたアルバムなんです。これとミスチルばかり聴かされていた、みたいな幼少時代でした(笑)。日本語をちゃんと覚えるより先にこの『Fiesta Cubana Party-Mix Volume 1』の曲を覚えちゃった感じですよ。で、割と最近、また親父のCD棚からこれを見つけてハマっちゃいました。親父がいなかったら間違いなく今の自分はいないですね」

『Fiesta Cubana Party-Mix Volume 1』に収録されたソン・カンデラの楽曲“Preparense bailadoes”
 

木村「僕らもこないだ聴かされました。そういう音楽への出会い方、僕はなかったから、ちょっと羨ましいですけどね」

神谷「僕は今でこそドラムをやってるんですけど、幼稚園の頃からピアノをやっていたんです。半強制的に通わされていて、ある時からドラムを始めて……って感じ。だけど、結構ピアノを習っていた頃の経験が活きてると思ってます」

仲井「こいつ、今でも鍵盤弾けますよ。しかも歌も歌えるんですよねー。駿太も歌を歌えるし、曲も書けるんですよ。いつかバンドで活かしてほしいですよ。バンドに複数歌えるヤツとソングライターがいるって最高じゃないですか」