なんでハタチそこそこのバンドが、渋いブルースやヴィンテージなソウル、土臭いロックンロールをこんなに瑞々しく響かせられるんだろう。結成から3年、メジャーなコンテストでグランプリを獲得するなど一気に頭角を現してきた3人組、その名はThe Shiawase。ギブソンES-355を抱えて豪快にシャウトするフロントマンの仲井陸を中心とする、人懐っこいキャラとユニークな音楽ルーツを備えた新世代スター候補の登場だ。

 「一番好きなアーティストは、Mr.Chi­ldrenとB.B.キング。母親が日本の音楽が好きで、ミスチルは小さい頃からずっとあたりまえにある酸素みたいなものです。B.B.キングは親父に教えてもらったんですけど、歌もギターも身体のデカさも憧れます。親父はソウル、R&B、レゲエ、ブルースとかが好きで、僕も高校生になってからはブルースばっかり聴いてました」。

 いわば、J-Popとブラック・ミュージックのマリアージュで生まれた男だからこそ鳴らせる音楽。最新ミニ・アルバム『OHANAMI』でめざしたのは〈五感で聴く音楽〉というから、発想のスケールがいきなりデカい。

 「去年出した『こたつ』というEPがお気に入りすぎたのと、コロナでツアーが途中で終わっちゃったこともあって、なかなか次に向かうメンタルになれなかったんですけど、ある時ふと思ったんですよ。〈なんで音楽は耳で聴くんだろう。鼻で嗅いだっていいじゃないか〉と。ちょっと頭おかしくなってたんだと思いますけど(笑)。音の中にある色、温度、匂いとかを、メロディー、コード感、バンド・アンサンブルで感じさせたい、〈五感で感じる音楽を作ってみたい〉と思ったら、曲がどんどん出てきましたね」。

 「今まで誰もやったことがないことがやりたい」と熱く語るところ、方法論よりもイメージ先行タイプと見たが、言われてみると確かに匂いや味がある気がしてくるのが不思議。たとえばがっつり骨太なスロウ・ブルースのリード曲“お前のマフィン”における切なさ溢れる三連符のメロディーと泣けるギター・ソロは、鼻の奥がツンとするミント系の匂い(個人の感想です)。ぜひ聴いて確かめてみてほしい。

 「これを聴いて新しいと思うのか古臭いと思うのかわかんないですけど、ブルースの構成にわかりやすいサビを乗せて、〈知らないうちにブルースを聴いてた〉みたいな感じになったら嬉しいです。ちなみに歌詞は、大学1年生からずっと好きな子がいて、4年目になってようやくご飯を食べる約束をしたのにコロナで行けなくなって、〈ふざけんなよ! 4年越しだぞ!〉という思いをそのまま歌ってます(笑)」。

 ご機嫌なドゥーワップ・コーラスが聴ける“羊のクリップ”、30種類ものパーカッションを駆使したコミカルなラテン・ビートの“第一話「15秒間のアベック」”、ソフトなAOR風味のエレクトリック・ピアノを配したロック・バラード“NANOHANA”などなど、確かな音楽性、達者な演奏力、圧倒的なヴォーカルのパワーは、同世代バンドの中でも頭一つ抜けている。そして歌詞は、メンバーとの絆を歌う“ひとつよしなに”以外はすべて、妄想と本音とフェティシズムとユーモアがない混ぜになった、青々しい片思い男子の恋の歌。ルーツ音楽と青春恋愛ソングの色鮮やかな組み合わせが、The Shiawaseの世界を懐かしくて新しいものにしている。

 「誰かに共感してほしいというよりも、俺の好きな子に対して〈俺の思いを知ってくれ!〉という気持ちで曲を書いているので。彼女を振り向かせるために、ビッグになるしかないんですよ。一番になりたいです」。

 「女の人がいないと曲は書けないです」という粋な台詞を、この若さで本音で吐ける男はそうそういない。恋が実って「幸せになったら書けなくなるかも」と笑いながら、The Shiawaseの幸せ探しの旅はまだ始まったばかりだ――(2021年に続く)。  

 


The Shiawase
仲井陸(ヴォーカル/ギター)、木村駿太(ベース/コーラス)、神谷幸宏(ドラムス/コーラス)から成る3人組。2017年に名古屋にて結成。2018年2月に初音源『平成アロハ航路/二つで一人のアルバム』をリリースし、8月には〈未確認フェスティバル〉のファイナリストに選出される。2019年は3月にミニ・アルバム『平成ラブストーリー』を全国流通。6月には〈出れんの!?サマソニ!? 2019〉のファイナリストに選ばれ、年末にEP『こたつ』を発表。2020年は〈ワン!チャン!!~ビクターロック祭り2020への挑戦~〉〈RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2020〉でグランプリを獲得し勢いを増すなか、このたびニュー・ミニ・アルバム『OHANAMI』(Eggs)をリリースしたばかり。