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時代を反映したサウンド

 そのような確信をヴィジョンにして制作が進められた『Sunshine Radio』だが、結果的に仕上がった全曲を聴けばより抑制の効いたアンビエントな感触が強いようにも思える。そんな雰囲気は、本人いわく昨今の不安定な社会情勢を大いに反映したものでもあったようだ。

 「いまの時代を反映させたサウンドを作り出したかった。このような激動の時代を乗り越えるには、誰もが心の落ち着きを必要としているから、アンビエントの要素が増えたんだと思う。そうすることで平和な気持ちをみんなに与えたかった。そのように落ち着いたサウンドの曲もあれば、張り詰めた緊張感が漂う曲もある。こんな社会情勢だから、誰もが少しは精神的に不安定になっているわけで、それがサウンドとして表れた。曲を作っている時の感情によってサウンドが変化したんだ。希望に満ちた曲も入っているから、多様性のあるサウンドやエモーションが表現されている作品に仕上がったと思う」。

 インストなので直截的な言葉のメッセージはないものの、制作期間中に自国で大きくなった数々の社会問題への眼差しは、主に楽曲のタイトルに投影されている。「いまアメリカが抱えている社会不安やヘイト、人種差別問題に対しての自分の気持ちを表している。この状況から脱却するには、人間は進化しないといけないし、不正や差別と戦っていかないといけない」と語る“Evolution Revolution”では緊迫したオルガンのリフとギター・ソロが印象的だし、 「未来への希望、より良い明日を願う気持ちが込められている」という“Of Things To Come”は往年のサーフ・ミュージック感もあるソウル・インストの趣。自国の変化への願いを込めた“A Thousand Shapes Of Change”は70年代ブラックスプロイテーション映画を連想させる。メッセージのみならず、そうした純粋にイマジナティヴな作風がトミーの楽曲をより魅力的にしているのは言うまでもないだろう。

 他に際立つのは、アーシーで眩しい“Descendent Of Memory”や「自分なりにハイライフやアフリカ系のギターのアプローチを採り入れている」という小気味良い“Future Deserts”、アフロビート風の“Rise Of The Earth People”など広い意味でのアフリカ音楽のアプローチ。さらに“Quiet Heat”や「コルトレーンへのオマージュとも言える」というラストの“The Road Under My Shoes”ではかつてなくスピリチュアル・ジャズが意識されているようで、色とりどりのサウンドスケープが降り注いでくる様子は、まさに冒頭で彼が述べたいるコンセプト通りだと言えよう。