新たな評価の広がり
思えば、ミュージシャンとしてのトミーが登場してきた当時はカテゴライズが難しく思われた部分もあったようだが、ファースト・アルバム『Loose Grooves & Bastard Blues』(97年)などの過去作がアナログ・リイシューも手伝って再評価されている昨今なら、クルアンビンあたりのリスナーにも響きそうな無国籍サウンドを彼がずっと作ってきた事実も伝わりやすいかもしれない。実際に自身の音楽がYouTubeなどを通じて新たな層にも広まり、ベッドルーム・ポップやローファイ・ヒップホップ的な角度から親しまれている状況は本人も実感しているようだ。
「息子がローファイ・ヒップホップ・ムーヴメントに一時期ハマってたから、彼には〈これは昔のインストゥルメンタル・ヒップホップと同じだよ〉と教えたんだ(笑)。もともとヒップホップはローファイだったから不思議なネーミングだと思っちゃうんだけど、若いプロデューサーたちが、ループ、サンプル、ブレイクを主体とした作り方をしたり、メロウなヒップホップを作って評価されてるんだからね。そこから、俺らが聴いていたATCQやギャング・スター、KRS・ワンなどのオールド・スクールに若い連中も興味を持ってくれたら嬉しいね。いまのヒップホップは昔とあまりにもサウンドが違うから、息子に聴かせたら〈これってラップなの?〉と訊かれた(笑)。笑っちゃったけど、〈ここから始まって進化したんだよ〉と教えたんだ。そういうローファイ、チル系のサウンドがきっかけで、俺の音楽に興味を持ってくれる若者が増えているのは嬉しいよ」。
なお、『Sunshine Radio』と同発タイミングでもう1枚、昨秋に配信されていたロス・デイズのファースト・アルバム『Los Days』も日本リリースされたばかり。ロス・デイズとは彼がブラックトップ・プロジェクトのベーシストであるジョシュ・リッピと組んだデュオで、トミーがもともと好きなマカロニ・ウエスタンやサイケの要素もより前面に出たサウンドに注目したい。
この後のトミーは、そのロス・デイズの2作目にも取りかかる一方、次のソロ・アルバムについてはロックダウン期間を活かして作り終えており、その先のプランもあれこれ検討中とのこと。常にクリエイティヴであることを楽しんできた男は今後もさまざまな景色を見せてくれるに違いない。
このたび日本盤化されたロス・デイズの2020年作『Singing Sands』(Too Good/RUSH/OCTAVE)
トミー・ゲレロの近年の作品を一部紹介。
左から、2014年作『Perpetuum』、2015年作『Perpetual』、2016年作『The Endless Road』、ブラックトップ・プロジェクトの2016年作『Concrete Jungle』、チャック・トゥリースとの2019年作『Dub Session』(すべてToo Good)
関連盤を紹介。
左から、レイ・バービーの2018年作『Tiara For Computer』(Um Yeah Arts)、ジョシュ・リッピの参加したネイト・マーセローの2019年作『Joy Techniques』(How So)、ロジックの2020年作『No Pressure』(Def Jam)