Shape Of Blue
数年前から話題を集めてきたロンドンの俊英、プーマ・ブルーがついに待望のオリジナル・アルバムを完成! 闇の中で見つけた光のような傑作『In Praise Of Shadows』は限りなく美しい色彩を放ちながら聴く者の心模様に寄り添うはず……

 多彩な若手アーティストが躍進してさまざまな角度からサウス・ロンドン産の音楽が大きく脚光を浴びたのは数年前の出来事だが、同地のジャズ・シーンの盛り上がりともシンクロしながら名を広めていったのが、シンガー・ソングライターでマルチ・インストゥルメンタリストのジェイコブ・アレンによるソロ・プロジェクト、プーマ・ブルーだ。ハウリン・ウルフら伝説的なブルースマンのようにキャラクターめいた名前を考えた結果のアーティスト・ネームらしいが、彼の鳴らすスタイリッシュでブルーな音を聴けば実に相応しい名前のように思えてくるかもしれない。

 もっとも、アンダーグラウンドなジャズの範疇で名を馳せるより先に、彼の〈ヴォイスメール・バラッズ〉とも表現されるベッドルーム・マナーの音楽は知る人ぞ知る存在でもあった。後にブラウンズウッドのコンピ『Brownswood Bubblers Thirteen』(18年)にピックアップされる代表曲“Only Trying 2 Tell U”のデモをSoundCloudで公開したのは14年のことだ。ロンドン近郊やオンラインでのライヴを通じてファン・ベースを獲得していった彼は、17年に初めてのEP『Swum Baby』をセルフ・リリース。その後、ニルファー・ヤンヤらを輩出したロンドンのブルー・フラワーズと契約して“Only Trying 2 Tell U”をシングルで出し、セカンドEP『Blood Loss』も発表している。

 この頃には早耳なリスナーの間で彼の名は十分に知れ渡っており、ロンドンやLA、パリ、東京でパフォーマンスを行ったのに前後して、19年にはライヴ・アルバム『On His Own(Live at Eddie's Attic, Atlanta)』を発表。ジャズを下地にネオ・ソウルをアンビエントな意匠で包んだような繊細な音楽性は、各地のショウのソールドアウトという形でも支持を得た。そこからさらなるステップアップとなるのが、このたび届けられたファースト・フル・アルバム『In Praise Of Shadows』だ。

 ジェフ・バックリーからフランク・シナトラまで幅広い先達に影響を受けてきたという彼のスタイリッシュな音楽性は、この初のオリジナル・アルバムでも存分に表現されていると言っていい。ここでは極限まで抑制を効かせたジェントルな歌唱と手数の少ないシンプルなビート、簡素なギターや鍵盤も織り重ねながら、夢心地のように穏やかで内省的なベッドルーム・ジャジー・ソウルが展開されている。資料にある本人のコメントによれば、「癒したり受け入れる必要のある痛みこそが、より良い場所へと連れて行ってくれる。これは闇の中で光を見つけることだ。それこそが今日、僕をここに導いてくれた」とのことで、さまざまな傷みがこのブルーな音楽を作り上げたのだろう。派手さはないが深い哀愁とメランコリーを伝えるこの音楽は日々の憂いにもゆったり染み渡っていくはず。ぜひ一聴を勧めたい。